これまでに観た映画より(142) ポーランド映画祭2019 in 京都 「ワイダ映画学校短編集」
2019年11月18日 出町枡形商店街の出町座にて
午後6時35分から、出町枡形商店街にある出町座で、ポーランド映画祭2019 in 京都 「ワイダ映画学校短編集」を観る。全てジャパンプレミアである。
立誠シネマの後継映画館として2017年に出町に誕生した出町座。訪れるのは初めてである。2階と地下1階に1つずつミニシアターがあり、「ワイダ映画学校短編集」は2階で上映される。
ポーランド映画界を代表する存在だったアンジェイ・ワイダ(1926-2016)が、2002年に創設したアンジェイ・ワイダ映画マイスター学校の生徒が作成した短編映画の上映である。キャストも撮影技術も予想以上にしっかりしている。
上映時間30分の課題作として制作されたうちの3本が上映される。まずは「彼女の事情」。バルテク・コノプカ監督作品。2006年制作。母親が癌で余命幾ばくもないということで、里子に出されそうになったり、社会福祉課に保護されそうになったりする姉弟の話である。長女でサッカーに夢中のインガは、社会福祉課の世話になることを拒み、まずは弟二人(そのうち一人はまだ赤ん坊である)を連れて男友達の部屋に移り、そこから写真でしか見たことのない伯母(母親の姉)を訪ねて、田舎へと向かう。そこから先が見たくなるのだが、30分という制限があるためか(実際の上映時間は39分である)田舎の家の場面で終わってしまう。クローズアップの手法が多用されているのが演出上の特徴である。
2本目は、「ゲーム」という上映時間27分の作品。監督はマチェイ・マルチェノフスキ。2013年の作品である。エレベーターに閉じ込められた男女の心理ゲーム、と見せかけて、実はエレベーターは行き詰まりを迎えた夫婦のメタファーであるらしいことが徐々にわかってくる。ラストには男女を乗せたエレベーターがSF的にいくつも登場し、世界は行き場のない夫婦で溢れていることが示唆される(日本でも夫婦の三組に一組は離婚する時代である)。
3本目はドキュメンタリー映画「ワイダの目、ワイダの言葉」。ワイダと共に仕事をしてきた映画仲間に取材したドキュメンタリー映像にワイダがコメントを加えていくという形で進んでいく。エリザ・クバルスカ他による監督。2014年制作。上映時間25分。
カメラマンがフィルム撮影用カメラを紹介するときに「(クシシュトフ)キェシロフスキが使っていたカメラ」と話しているのは興味深い。カメラマンは、デジタルカメラよりもフィルム撮影用カメラの方を今でも信用しているようだ。
フィルム現像係は、1974年からずっとこの仕事を続けているが、「面白いと思ったことは一度もない」「義務としてやっている」と語ってワイダを失望させている。ワイダはエンドクレジットに全員の名前が載るのは、映画というものは皆で作るものだということの象徴であると考えており、「その中に嫌いで仕事をやっている人間がいるとは」嘆く。「仕事を変えたらどうだい。稼げる仕事なら他にある」という趣旨の発言もしてる。
一方、フィルム編集者の女性は自らの仕事に誇りを持っており、ワイダも嬉しそうである。フィルム編集は今ではフィルム編集者しか行えないが、以前は政治家が口出ししてきて、勝手にフィルムを刻むようなこともあったようだ。
ワイダが「仲間だ」と感じている人は全員、撮影スタッフだそうである。彼らはいつも現場にいて作業をしているため、自然にそうした連帯感が生まれるようである。俳優は作品によって出たり入ったりするため、「仲間」という意識にはなりにくいようだ。
ワイダは撮影所が存在することの重要性を何度も語り、最近は撮影所に活気がなくなってきていることを気に掛けているようだった。
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