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2019年12月15日 (日)

コンサートの記(615) 沼尻竜典指揮 京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科第162回定期演奏会

2019年12月9日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科第162回定期演奏会を聴く。指揮はびわ湖ホール芸術監督としても有名な沼尻竜典。京都市交響楽団(この度、英語名をバーミンガム市交響楽団に倣ってか、City of Kyoto Symphony Orchestraに変更することになった)への客演も多いが、京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科の定期演奏会へは初登場となる。

曲目は、ベートーヴェンの劇音楽「エグモント」序曲、ブラームスの「運命の歌」、マーラーの交響曲第1番「巨人」。京都市立芸術大学音楽学部・大学院管弦楽団の演奏。「運命の歌」での合唱は京都市立芸術大学音楽学部・大学院合唱団。ソプラノパートには、以前、浄慶寺での「テラの音」コンサートの参加していた女の子がいる。更にヴァイオリンパートとアルトパートの両方に名前が載っている女の子もいるのだが、これは本当に兼ねているのだろうか?

芸術大学の音楽学部や音楽大学は女子の割合が約9割であり、今日の京都市立芸術大学音楽学部・大学院管弦楽団のヴァイオリンパートはなんと男の子は一人だけで、他は全員女の子である。コントラバスやテューバなど、比較的男性の多い楽器(大きいので持ち運ぶのに力がいる)は京芸でも男子の方が多いが、近年女性奏者の進出が著しいホルンはやはり男子は一人だけで他は女子が演奏を行う。京都市交響楽団などはトロンボーンは現在全員男性奏者であるが、京芸は女子の方が多い。
京都市立芸術大学にはハープの専攻はないようで、京都市交響楽団の松村衣里が客演で入る。松村衣里はハープ専攻のある大阪音楽大学で講師をしているようだ。

客席には、下野さんや京響の早坂さんなど、京芸で教える音楽家の姿も見受けられる。

 

ベートーヴェンの劇音楽「エグモント」序曲。弦楽パートの方が優秀である。始めは学生オーケストラにしては渋い音で演奏していたが、クライマックスでは明るめで輝かしい音色に転じ、威力もある。管楽器も技術はあるのだが、各々がそれぞれの音楽を奏でるという領域には達していない。まあ学生だしね。
日本の芸術大学や音楽大学でのHIP教育がどれほど行われているのかはよくわからないが、そうしたものはほとんど意識はしていないようである。「ほとんど」と書いたのは全く意識していないというわけでもないからである。ビブラートも掛けながらの演奏であるが、その後のブラームスやマーラーに比べると明らかに抑え気味ではある。またバロックティンパニこそ使用していなかったが、先端が木製のバチなども使って硬めの音を出させており、無理をしない程度に取り入れようとしていることは感じられる。

 

ブラームスの「運命の歌」。合唱はポディウムに陣取る。
オーケストラが非常に温かい音を出し、合唱も予想以上にレベルが高い。沼尻の過不足のない表現もこの曲に合っているように思われた。
パンフレットに歌詞対訳が載っているとありがたかったのだが、京都市はあんまりお金がないので省いたのかも知れない。無料パンフレットでは音楽学専攻の学生が解説を手掛けており、ドイツ語翻訳も出来る学生はいるはずなので独自のものを出してくれると嬉しい。

 

マーラーの交響曲第1番「巨人」。マーラーはオーケストラに威力がないと話にならないため、実力が試される。実は京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科の定期演奏会では、これまでマーラーが取り上げられることが余りなかったそうなのだが、マーラーがオーケストラレパートリーの王道となった今ではそれはまずいということもあってか、マーラーも得意としている沼尻に振って貰うことにしたのかも知れない。ちなみに沼尻は来年は京都市交響楽団を指揮して「巨人」の演奏を行う予定がある。

各パートとも技術はしっかりしているのだが、最初のうちは上手く噛み合わず、全楽器の合奏時には雑然とした印象も受ける。ただ流石は沼尻で各楽器を上手く捌いて次第に見通しの良い演奏となる。
第2楽章はメリハリも利き、音にも爆発力があってなかなかのマーラーとなる。
先にコントラバスは男子の方が多いと書いたが、第3楽章のコントラバスのソロを取るのは女子である。鄙びた感じを上手く出した優れたソロを奏でていた。中間部の憧れを奏でる部分は、若者ならではの瑞々しさの感じられる演奏となり、ある意味理想的だったと言える。
第4楽章の迫力も優れたものであり、沼尻のオーケストラ捌きの巧みさが光る。フォルムをきっちり固める人なので、余り好きなタイプではないのだが、統率力に関してはやはり日本人指揮者の中でも最上位を争う一人だと思われる。

チケットが安いということもあるが客の入りも良く、若い人を見守る雰囲気も温かで、京都市民であることの幸せが感じられるコンサートであった。

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