これまでに観た映画より(146) 「ボヘミアン・ラプソディ」
録画してまだ観ていなかった映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観る。イギリス=アメリカ合作作品。クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記映画である。監督:ブライアン・シンガー&デクスター・フレッチャー。出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョゼフ・マゼロ、エイダン・ギレン、トム・ホランダー、アレン・リーチ、マイク・マイヤーズほか。
1970年のロンドン。ペルシャ系でゾロアスター教を信仰する移民の家に生まれたファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は、ヒースロー空港で「パキ野郎(パキスタン野郎)!」と差別を受けながら働いている。仕事の合間にも作詞を行い、作曲をするなど音楽への情熱に燃えていたファルークは、ボーカルに去られた学生バンド・スマイルに参加し、やがて彼らはクイーンとして世界的な人気バンドとなっていく。ファルーク・バルサラは、芸名ではなく本名をフレディ・マーキュリーに変更した。ライブ会場で出会ったショップの店員、メアリー(ルーシー・ボイントン)と恋に落ち、やがて結婚に至るなど、公私ともに順調かと思えたフレディだが、出自の問題やバイセクシャルに目覚めたことなどが影響してメアリーとの仲は次第に疎遠になっていく。CBSからのソロデビューの話を断り続けていたフレディだが、遂にはソロデビューを受け入れることになり、家族と呼んでいたクイーンのメンバーとも仲違いすることになる。クイーンの他のメンバーは有名大学卒のインテリで、本当の家族を作り、子どもを産んで育てることを当然のように行えるが不器用なフレディはそうではない。彼の第一の家族はクイーンのメンバー達だったがそれも失うのだ。
フレディと仕事仲間にして、同性愛の関係でもあったポールは、北アイルランドのベルファスト出身のカトリックで同性愛者と、自らがイギリスから阻害された存在であることを語る場面があるが、フレディもまたペルシャからインドを経てイギリスに渡った移民の子供であり、タンザニアの生まれで、ゾロアスター教徒の子であるが、教義に背いて男も愛するという阻害された存在である。ボヘミアン=ジプシーは、まさに彼のことであり、「ボヘミアン・ラプソディ」は彼自身のことを歌ったプライベートソングである。間違いなくロックではあるが、同時に阻害された者の孤独なアリアであり、バルサラからマーキュリーへの痛みを伴った転身と再生、怖れと希望を歌い上げるソウルナンバーである。
「ボヘミアン・ラプソディ」は、6分という長さと難解さ故、EMIのプロデューサーからも理解されず、シングルカット当初は音楽評論家達から酷評されるが、音楽史上初ともいわれるプロモーションビデオが大衆に受け入れられ(多重録音を用いて製作された「ボヘミアン・ラプソディ」は全曲を通してはライブで歌うことの出来ない曲であり、そのためプロモーションビデオが作成されて公開されたのだが、これが予想以上の人気を呼ぶ)大ヒット。2002年にはギネス・ワールド・レコーズ社によるアンケートで、全英ポップミュージック史上ナンバーワンソングに選ばれることになる。
成功したアーティストになったフレディだが、合同記者会見を行っても記者達は音楽のことではなく自らのプライバシーに切り込もうとばかりする。成功者ではあっても理解された存在ではなかったのだ。
父親から言われ続けた「良き思い、良き言葉、良き行い」から背いたと見做され、両性愛者であったことと奔放な私生活が原因でメアリーに去られ、子供も残せない。そしてルーズな行動が目立ち始めたことに端を発するクイーンのメンバーとのすれ違い。
最後は、この3組の家族の和解と音楽を通しての世界の融合が行われる。全てが結びつけられるのだ。
音楽の力を見せつけられるかのようなラストシーンは、実に爽快である。
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