観劇感想精選(333) 南船北馬 「これ から の町」
2019年12月13日 大阪・周防町筋のウイングフィールドにて観劇
午後7時30分から、大阪・周防町筋のウイングフィールドで、南西北馬の「これ から の町」を観る。作・演出:棚瀬美幸。
大阪を代表する演劇人の一人である棚瀬美幸。ドイツに留学し、ドイツ人の男性と結婚。大阪でドイツ料理店をやっていたが、このほど閉店。そして、石垣島に移住することにしたそうで、棚瀬美幸が大阪の演劇人として南船北馬で公演を行うのはこれが最後となるようだ。
ウイングフィールドは奥側を舞台として用いることが多いのだが、この公演では奥と手前を客席とし、挟まれる形になったスペースで演技を行う。上から見ると菱形に見える台が置かれていて、これがステージということになるのだが、片方が赤、もう片方が白く塗られており、方位磁針を模したものであることがわかる。
出演は、橋本浩明、桂ゆめ(俳優座)、竹内宏樹(空間悠々劇的)、岩本苑子(少年王者舘)、高橋映美子、出口弥生。
出演者は6人であるが、最後の場面を除き、俳優を入れ替えながら2人ないし3人での芝居が行われるシークエンスが連続する。
関係を整理しておくと、悟(橋本浩明)の妻であったミカの姉が史歩(高橋映美子)。悟の妹が絢奈(桂ゆめ)で、絢奈は睦月(竹内宏樹)と同棲していたが、同じアパートに暮らしていた人が火事を起こして二人の部屋にも煙が充満してしまい、いられなくなったため、絢奈は兄である悟の部屋に移っている。睦月はといえば、もう一人の恋人である麻友(岩本苑子)と日帰り出来る場所を転々とする旅を続けている。観光をするような生やさしものではないという意識を麻友は持っているようだ。麻友は睦月の子どもを身籠もっている。
結月(出口弥生)は睦月の姉である。睦月は背中に瘤があるが、これは子どもの頃、結月の鼓膜が破れるほどの殴り合いの喧嘩をして、姉弟もろとも階段から転げ落ちた際に出来た傷が元で出来たものである。結月は編み物を得意としていて、レッサーパンダのニット帽を編んでいたりする。
ミカが亡くなってから3年が経つ。詳しいことは語られないが、ミカは災害によって亡くなったようである。その災害では多くの人が亡くなり、ミカ自身の遺体も見つかっていない。悟は、自宅をミカがいた時のままに保存している。ミカがいなくなってからの悟は毎日のように家を掃除して清潔に保っている。男としては珍しいが、実は悟はミカの死を受け入れてはおらず、「遺体が見つかっていないので、死んだとはまだ言い切れないはず」として、ミカがいた時の状態のままに家を保っており、いつミカが帰ってきてもいいよう整えていたのであった。史歩(フルネームは田中史歩で、キンタロー。の本名である田中志保と音は一緒である。この役名は漢字も意味ありげだが、音にも意味があり、キンタロー。を意識してつけられた名前ではない。そもそもキンタロー。の本名を知っている人はそれほど多くないはずである)は、3年が経過したため、妹の遺品を引き取りたいと悟に申し込んでいる。史歩は、悟の妹の絢奈を何度も「アヤメ」と言い間違え、悟も最初の内はうちは訂正を入れていたが、無駄だと悟ってスルーするようになる。
睦月と旅を続ける麻友は、睦月の同棲相手であった絢奈や睦月の姉である結月に敵愾心をむき出しにする。とにかく自分の方が睦月を理解しているのだとアピールしたがるのだが、結月に「ほあのきつむ、るたれかわ」という呪文を教わり、絢奈が語る睦月の一面を知り、引き下がることを決意するようになる。ちなみに「ほあのきつむ、るたれかわ」は、「睦月のアホ! 別れたる!」を逆から読んだものである。
資産家の子どもとされる睦月と結月は仲は良いのだが、結月は親からの遺産を睦月に譲る気はない。睦月に遺産を分けるくらいならいっそのこと絢奈に渡した方がましだと思っているのだが、睦月と絢奈にも別れと新たな旅立ちが迫っていた。
悟とミカ、悟と史歩、睦月と絢奈、睦月と麻友、睦月と結月など、とにかく登場人物全てが別れと再出発の季節を迎えており、悟も思い出詰まったこの部屋を出て行くことになる。なんとなくチューリップの「サボテンの花」っぽい展開だが(サボテンの話は実際に劇中に登場する)、大阪の街を離れて新天地へと向かう棚瀬美幸の心境が込められているのだろう。
言葉の食い違いに始まり、やがて登場人物達は逆回しの言葉を話し始める。ミカはカミになる。名古屋生まれで大阪弁のセリフも書いた棚瀬美幸が島ごとに言葉が異なるという沖縄に向かう。
「いゃしっらてっい。ねすでいいとるかつみがばとこいしらたあ」
ダンケシェーン! アウフヴィーダーゼン!
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