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2020年1月20日 (月)

コンサートの記(619) 尾高忠明大阪フィルハーモニー交響楽団第534回定期演奏会

2020年1月17日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで大阪フィルハーモニー交響楽団の第534回定期演奏会を聴く。今日の指揮は、音楽監督の尾高忠明。

 

曲目は、エルガーのチェロ協奏曲(チェロ独奏:スティーヴン・イッサーリス)とブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」(第3稿)。

ライブ録音によるCDがこのところ続々とリリースされている尾高と大阪フィル。今日もフォンテックの収録用マイクが入っての演奏となる。

今日のコンサートマスターは崔文洙。フォアシュピーラーに須山暢大。いつも通りドイツ式の現代配置での演奏である。

 

エルガーのチェロ協奏曲。ソリストのスティーヴン・イッサーリスはイギリス出身の世界的チェリストである。来日も多く、日本での人気も高い。

悲劇のチェリストとしても知られるジャクリーヌ・デュ・プレの演奏によって知名度が上がったエルガーのチェロ協奏曲。ドヴォルザークの次に上演される頻度の高いチェロ協奏曲である。

イッサーリスは、情熱を内側に隠しつつ燃焼度を上げていくという渋い演奏を展開。かつてBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の音楽監督を務め、今もイギリスでの指揮活動を精力的に行っている尾高の指揮する大フィルも輝かしさと清々しさ、美音と仄暗さを合わせ持った伴奏を展開。イギリス音楽的な高貴さも感じさせる絶妙の演奏が展開される。ただフェスティバルホールは空間が大きいため、弦楽器の独奏にはやはり向いてはいないようである。

 

イッサーリスのアンコール演奏は、ツィンツァーゼの「チョングリ」。ピッチカートのみで演奏されるノリの良い現代曲で、演奏終了後、客席も大いに沸いた。

 

後半。ブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」。最終稿である第3稿での演奏である。若い頃から精力的にブルックナーに取り組んできた尾高忠明であるが、交響曲第3番「ワーグナー」を振るのは今回が初めてとなるそうだ。

ブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」は主に3つの稿が存在する。まず最初に書かれた初稿。これはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演される予定で、リハーサルも行われたのだが、演奏時間が長いということもあってウィーン・フィルに本番での演奏を拒否されるという悲哀を味わわされた稿でもある。今でこそオーストリアを代表する作曲家として揺るぎない評価を得ているブルックナーであるが、当時はオーストリア最高のオルガン奏者やウィーン音楽院の教授として尊敬を集める一方で、交響曲作曲家としては素人と見做されていた。ブルックナーはこの稿を敬愛していたリヒャルト・ワーグナーに献呈し、以後、ブルックナーの交響曲第3番は「ワーグナー」というタイトルで呼ばれることになる。
その後、ブルックナーはこの曲の改訂に着手し、完成した第2稿はブルックナー自身の指揮によって初演されたが、今度は聴衆から不評を買う。第3稿はその12年後にブルックナー自身によって改訂された版であり、現在では決定稿と見做されることもあるが、初稿や第2稿を支持する演奏家も多い。実は今日、同じ時間にザ・シンフォニーホールでは本名徹次指揮大阪交響楽団によるブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」第2稿の演奏が行われるという珍しい現象が発生している。

私がブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」を生で聴くのは2度目。今から22年程前に、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団による交響曲第3番「ワーグナー」の演奏を東京・渋谷のNHKホールで聴いているのだが、ブロムシュテットは初稿を採用しての演奏であった。とにかく長かったというのを覚えている。ブロムシュテットは「ワーグナー」の初稿を気に入っているようで、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮したライブ録音のCDボックスでも初稿による演奏を取り上げていた。

ブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」は実は隠れた名曲であり、薄明の中を疾走していくような出だしは、ブルックナーの交響曲の開始の中でも最も格好良い。この曲はトレモロによるブルックナー開始ではないのも特徴である。

午後6時30分頃から、大フィル事務局次長の福山修氏によって行われたプレトークサロンにおいて、大フィルが前回「ワーグナー」を取り上げたのは2002年であること。朝比奈隆が指揮する予定であったが、前年に逝去したため、NHK交響楽団でブルックナーチクルスを行ったこともある若杉弘が代役として指揮したことなどが明かされたが、朝比奈隆は実は晩年に大フィルを指揮して「ワーグナー」交響曲をスタジオ録音している。岸里にある大阪フィルハーモニー会館でキャニオン・クラシックスによって収録されたものだが、ブルックナー後期三大交響曲のスタイルで「ワーグナー」交響曲を演奏したスケール雄大なものであり、数ある朝比奈のブルックナー録音の中でも最高を争う出来となっている。

朝比奈の薫陶により、ブルックナー演奏に絶対の自信を持っている大フィル。今日も冒頭からその良さが披露される。透明感のある弦と彩り豊かな金管との対比によって立体感が生まれており、ブルックナーの音楽の神秘性やスケールの大きさ、疾走感などが存分に描かれる。尾高の生み出す音楽はフェスティバルホールのサイズにぴったりであり、理想的なブルックナー演奏が展開されることになった。
指揮者によって出来不出来の度合いが激しい大フィルだが、今日は技術面でも表現面でも日本トップレベルの水準を聴かせる。嵌まった時の大フィルは、やはりスーパーオーケストラで、伊達に歴史が長いわけではないことが実感される。木管に関しては最初のうちは上手く溶け込めない場面もあったが、曲が進むにつれて違和感も解消され、日本における最高水準のブルックナーが姿を現した。

朝比奈の指揮した「ワーグナー」交響曲にスケールでは及ばないかも知れないが、瑞々しさでは互角かそれ以上に渡り合える出来であり、今からCDのリリースが楽しみである。

 

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