コンサートの記(625) 山田和樹指揮 非破壊検査 Presents 読売日本交響楽団第25回大阪定期演奏会
2020年2月4日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、非破壊検査 Presents 読売日本交響楽団第25回大阪定期演奏会を聴く。今回の指揮者は、読売日本交響楽団首席客演指揮者の山田和樹。
日本若手指揮者のトップランナーである山田和樹も昨年40歳になり、指揮者界の先輩方から「ようやく指揮者の入り口に立った」と見做される年齢になった(1月26日に41歳の誕生日を迎えている)。大阪では大阪フィルハーモニー交響楽団の特別演奏会や、日本センチュリー交響楽団や大阪交響楽団の定期演奏会に客演した他、現在首席客演指揮者を務めるバーミンガム市交響楽団の来日公演の指揮者としてフェスティバルホールの指揮台にも立っている。
現在は、読響とバーミンガム市響の首席客演指揮者に加えて、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼音楽監督としてコンサートの他、モンテカルロ歌劇場でも活躍。東京芸術大学在学中に結成した横浜シンフォニエッタ(結成当初の名称は、トマト・フィルハーモニー管弦楽団)の音楽監督も引き続き務めている。
曲目は、マーラーの「花の章」、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:ネマニャ・ラドゥロヴィチ)、マーラーの交響曲第1番「巨人」。
阪神ファンが多い大阪人も待望の(?)読売による「巨人」である。近年の読売日本交響楽団は、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキを始め、ブルックナー指揮者をシェフに頂くことが多かったため、ブルックナーの交響曲を得意とするイメージが強いが、大阪でもコルネリウス・マイスター指揮で交響曲第2番「復活」の演奏を行うなど、マーラーでも優れた成果を上げている。
今日のコンサートマスターは、元大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターでもある長原幸太。ドイツ式の現代配置での演奏である。
最初に演奏されるマーラーの「花の章」は元々はマーラーの交響曲第1番「巨人」に含まれていたものである。マーラーはまず「巨人」を交響詩として書き上げ、各楽章に標題をつけていた。だがその後に推敲を重ねて最終的には純粋な交響曲となり、各楽章につけた標題も削除、「花の章」に至っては楽章そのものをカットしてしまう。ちなみに「巨人」というタイトルもこの時に撤回されているのだが、慣例として今もマーラーの交響曲第1番は「巨人」と呼ばれている。
主に1980年代以降に「花の章」を見直す動きが出てきて、ズービン・メータやサイモン・ラトルらが「花の章」入りの交響曲第1番「巨人」のCDをリリース。ただ、最初の形とは異なり、元々は第2楽章であった「花の章」を最初に入れたり最後に入れたりしてリリースされたCDも多い。
読売日本交響楽団は張りのある音が印象的。1990年代には低迷が伝えられ、サントリーホールで行われていた定期演奏会でも空席が目立つと報じられた読響であるが、ゲルト・アルブレヒトとの名コンビを経てスクロヴァチェフスキを常任指揮者に迎えた辺りから再浮上。正指揮者に下野竜也を指名するなど日本国内の才能も取り入れ、日本を代表するオーケストラの一つとして高い評価を得ている。
読売新聞社のバックアップを受け(新聞社が運営する世界唯一のオーケストラとされる)、元々資金は潤沢であり、奏者にはソリスト級が在籍し、ロリン・マゼール、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーといった世界的な指揮者を名誉指揮者としていた時代もある。ただそうした世界的な指揮者を客演として招いていた時期が低迷期に当たり、優れた奏者がいて、有名指揮者と共演していれば良くなるというわけでもないことがわかる。
トランペットの長谷川潤(だと思う。遠いので顔がよくわからない)が朗々としたソロを吹き、とハープ(メンバー表にハープの欄はないので客演奏者だと思われる)が優れた技巧を示す。山田和樹のオーケストラ捌きも見事で美演となった。
ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲。日本でも演奏会で取り上げられる機会が増えている曲であり、木嶋真優などはこの曲を十八番としている。
ソリストののネマニャ・ラドゥロヴィチは、“新時代の革命児”としてカリスマ的な人気を誇るヴァイオリニスト。1985年、ユーゴスラビア連邦時代のセルビア生まれ。ハノーファー国際コンクールで優勝し、ドイツ・グラモフォンと契約を結んでいる。
ラドゥロヴィチは、切れ味の鋭いヴァイオリンを奏で、ヴィルトゥオーゾ振りを発揮するが、一方で繊細な音色とノスタルジックな旋律の歌い方を聴かせ、力で押すだけのヴァイオリニストでないことを示す。
読響は、ソリストだった遠藤真理が加わったチェロ陣の描写力が素晴らしく、全体としても迫力と抒情美を合わせ持った見事な伴奏を奏でていた。
ラドゥロヴィチのアンコール演奏は、J・S・バッハの無伴奏パルティータ第2番よりサラバンド。これまた独特の感性で描かれた寂寥感漂う深い演奏で、ラドゥロヴィチの個性が発揮される。ロックミュージシャン的な風貌と売り出し方であるが、実際は高い精神性を持つタイプだと思われる。
マーラーの交響曲第1番「巨人」。山田和樹は若さを武器にビュンビュン指揮棒を振り、ジャンプも繰り出すが、生まれてくる音楽は勢い任せではなく、その場に最適な音を瞬時に組み合わせ、多彩さと広がりを生んでいくという、あたかも即興画を得意とする画家や書道家のような音楽作りである。金管は輝かしく、木管は表現豊かで、弦は透明感と色彩の自在さを合わせ持つ。
非常にパワフルな演奏で、空間の広いフェスティバルホールが楽器として鳴り響く。海外の有名オーケストラでも、フェスティバルホールでこれほど力強い演奏を行うことはそうそうないであろう。
理想的な「巨人」の演奏であり、演奏終了後は客席も多いに沸く。確かに、読売を冠する団体が「巨人」でしくじるわけにはいかないものな。山田も読響も絶対の自信があった上で大阪に乗り込んだのだろう。
アンコール演奏がある。遠いのでよくは聞こえなかったが、山田はまず、「我々『読売』日本交響楽団、『読売』日本交響楽団は」と「読売」を強調した上で、最後に「G線上のアリア」と曲目を紹介。GIANTS繋がりである。マーラー編曲によるものだそうだが(大編成用アレンジだと思われる)、澄み渡る青空が眼前に広がっていくような爽やかな演奏で、山田と読響の良さが最大限に生かされていた。
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