ドキュメンタリー「誰がボレロを盗んだか」
録画しておいたドキュメンタリー「誰がボレロを盗んだか」を観る。2016年、仏作品。監督は、ファビアン・コー=ラール。
20世紀最高のヒット作の一つである「ボレロ」を含むモーリス・ラヴェルの著作権を巡る話である。
わずか2つのメロディーが楽器編成を変えながら約17分(作曲者の指示)繰り返し演奏されるという得意な楽曲である「ボレロ」。ラヴェル自身はたいした曲とも思っていなかったようだが、意に反して代表作として今もコンサートプログラムに載る機会は多い。
ラヴェルは交通事故に遭ったことに端を発する神経性の病で、音楽もフランス語の綴りすらも分からなくなり、脳の手術を受けるも失敗するという悲劇的な最期を遂げた。ラヴェルはよく知られた同性愛者であり、妻子はいない。遺言を残せる状態でもなく、実弟が著作権を継ぐが、この弟のエドゥアールも事故に遭い、マッサージを施された女性とその夫に生活の面倒を見て貰うことになる。そしてこの夫婦に著作権を譲ってしまう。当然のように夫妻は不正を働き続け、自分で作曲したわけでもない作品の著作権で大金持ちになる。
「ボレロ」は世界各国で演奏されるだけでなく、編曲などもされていくため、二次的著作物に関する著作料も膨大な額となる。ドキュメンタリーで語られている通りまさに「金のなる木」であった。まず出版社が恩恵を受け、後に右派の政治家となる音楽出版社のデュラン社社長であるドマンジュが「ボレロ」で巨額の利益を得る。ラヴェルから2万フランで全権を委任されたドマンジュは「ボレロ」で儲けていく。ちなみに愛弟子のロザンタールによるとラヴェルは思想的には極左だったようである。
パリが陥落するとドマンジュはドイツ軍に協力。そのことで戦後に失脚する。だがその後も、「ボレロ」のために著作権を延ばそうとする動きが起こる。最初はフランスにおける著作権は作曲者の死後50年で切れることになっていた。だが、戦時加算が行われ(その長さに根拠はないそうである)て延び、更にロビイストの活動によって音楽に関しては作曲者の死後70年へと延長される。作曲者の意思でもないのに編曲が禁じられるという事態にすらなった。ラヴェルはジャズ好きであり、ピアノ協奏曲ト長調などにもジャズの要素を取り入れているが、ジャズ用にアレンジされることも難しくなったのだ。
最終的に著作権は、2016年まで延びた。このドキュメンタリーはフランスでの「ボレロ」の著作権が切れたことを受けて制作されたが、アメリカでの「ボレロ」の著作権は2025年まで延びることになっている。
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