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2020年3月 1日 (日)

コンサートの記(627) 秋山和慶指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第535回定期演奏会

2020年2月21日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで大阪フィルハーモニー交響楽団の第535回定期演奏会を聴く。今日の指揮はベテランの秋山和慶。

コロナウィルスの感染が警戒されるため、今日の演奏会はいつもと異なる。午後6時半頃からホワイエで行われる大フィル事務局次長の福山修氏のプレトークが中止となり、スタッフはほぼ全員マスクをつけている。
チケットは購入していても感染を怖れて自重したのか、あるいは勤めている会社から外出禁止令を言い渡されたりした人が多いのか(知り合いにも18日から在宅勤務で外出禁止を命じられた人がいる)空席がかなり目立ち、話し声なども余り聞こえない。ということで今日は音がかなり響く。フェスティバルホールでクラシックの演奏会が行われる時は、開演5分前を告げる鳥の鳴き声を重ねた音が鳴り響くのだが、客席で音が吸収されないためか今日はかなりうるさく聞こえた。

 

曲目は、ハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番(ヴァイオリン独奏:辻彩奈)、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」

 

来年傘寿を迎える秋山和慶。大阪フィルの定期演奏会への登場は5年ぶり59回目。この59回というのは朝比奈隆に次ぐ記録だという。桐朋学園大学などで指揮を齋藤秀雄に師事。東京交響楽団を指揮してデビューし、その後、同楽団の音楽監督や常任指揮者として40年に渡って活躍。ストコフスキーに見いだされてアメリカ交響楽団の音楽監督に抜擢されたのを始め、バンクーバー交響楽団の音楽監督、シラキュース交響楽団の音楽監督など北米でのキャリアを築くが、海外での活躍よりも日本国内でのオーケストラの育成や教育活動に力を入れており、近年では広島交響楽団の性能向上に貢献したほか、2000年発足の若いオーケストラである中部フィルハーモニー交響楽団の芸術監督・常任指揮者、洗足学園音楽大学の芸術監督兼特任教授、京都市立芸術大学の客員教授などを務めており、今年の4月からは日本センチュリー交響楽団のミュージックアドバイザーに就任する予定である。

 

今日のコンサートマスターは崔文洙、フォアシュピーラーは須山暢大。ドイツ式の現代配置での演奏である。

 

ハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」。第1曲の“ワルツ”が浅田真央のプログラムの曲として採用されたことで知名度が上がった曲である。一応、今日はオール・ロシア・プログラムということになるのだが、ハチャトゥリアンはロシアで活躍したが、ジョージア生まれのアルメニア人である。
ショスタコーヴィチにも繋がる皮肉の効いた悲劇的でメランコリック且つおどけたような要素を持つ音楽が連なっている。大フィルはパワーがあり、今日のフェスティバルホールでは飽和してしまうほどであるが、秋山のテキパキとした音運びに乗せられてメリハリの利いた演奏を繰り広げる。時代の違いを考慮に入れなければの話だが、三島由紀夫の「鹿鳴館」で流れる音楽はハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」が最も良いだろう。馬鹿馬鹿しいと分かっているが踊らなければならない時の音楽。今の日本もそんな感じだが、いつの間にか日本はこの音楽が良く似合うような状況へと足を踏み込んでしまったような気もする。

 

プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。個人的に大好きな曲であり、チョン・キョンファのヴァイオリン、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の伴奏によるCDを何度も聴いている。第2楽章の暖炉を囲んでの家族団欒の姿が目に浮かぶような旋律は、数あるヴァイオリン協奏曲の中でも最美であると思われる。

ソリストの辻彩奈は、将来が最も期待される若手ヴァイオリニストの一人。1997年岐阜県生まれ。現在は特別招待奨学生として東京音楽大学に籍を置いている(3月に卒業し、パリに向かう予定だそうである)。2016年のモントリオール国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門で1位を獲得し、同時に5つの特別賞も受賞して注目を浴びている。

昨年、ジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンド管弦楽団と共演した時は、曲全体としての音楽設計が弱いようにも感じられたが、今日は独特の温かみと艶と切れを持つヴァイオリンで大いに聴かせる。空席が多いためヴァイオリンの音も大きめに響いたが、それが思いがけず幸いしたようにも思う。
第2楽章のメロディーをたっぷり歌い、第3楽章の終盤では急加速を見せてスリルを演出した。

 

チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。チャイコフスキーは交響曲を6つ書いているが、演奏会で取り上げられるのは、第4番、第5番、第6番「悲愴」の後期三大交響曲に限られる。後期三大交響曲と初期の三つの交響曲では完成度に大きな隔たりがあるのも事実であるが、後期三大交響曲がいずれも「運命」をテーマに置き、ストーリー展開やドラマがあるのに対して初期の三曲はどちらかというと叙景詩的であり、わかりにくいということも不人気の一因であると思われる。
今年(来年度になるが)、大阪フィルは、音楽監督の尾高忠明の指揮でチャイコフスキーの交響曲チクルスを行うが、小林研一郎の傘寿記念チャイコフスキー交響曲チクルスにも参加(交響曲第4番と第5番を演奏する予定)、更にトレヴィーノ指揮のマンフレッド交響曲に今日の「冬の日の幻想」とチャイコフスキー尽くしの一年となる。

第1楽章には「冬の旅の夢想」、第2楽章には「陰気な土地、霧の土地」という標題がついており、ロシア民謡風の旋律も取り入れた交響詩的な要素も強い音楽である。秋山の的確な指揮棒に導かれ、大フィルもスケール豊かで輝かしい演奏を行う。ロシアの光景は映像でしか見たことがないが、それらしい風景が次々と頭の中で浮かんでいく叙情的な音楽である。ラストなどは前途洋々たる未来を確信しているような音楽であるが、一方で時折、濃厚な影が浮かぶのがチャイコフスキーらしさといえる。
秋山和慶というと、まず齋藤メソッドの体現者ともいわれる指揮棒のコントロールが浮かぶが、実際はそれ以上にリズムの処理の巧みさが武器になっているように感じられる。今日は打楽器が活躍するため、抜群のリズム感に感心したわけであるが、これは指揮棒の動きを見ていると逆に感じにくくなる要素でもあるように思われた。

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