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2020年5月16日 (土)

これまでに観た映画より(173) 想田和弘監督作品「精神」

YouTubeの有料配信で、想田和弘監督のドキュメンタリー映画「精神」を観る。現在、ミニシアター支援のためにWeb上に設けられた「仮設の映画館」で続編に当たる「精神0」が公開中であるが、それを観る前に前編を観ておこうというわけである。「精神0」が上映される「仮設の映画館」はミニシアター支援が目的であるため、通常料金の1800円が必要だが、YouTubeで配信されている「精神」は300円でレンタルとして観ることが出来る。ストリーミングのみの配信で期限は3日間。ダウンロードする「購入」という手段もあるが、そちらは結構値が張る。

2005年から2007年に掛けての岡山市が舞台。この時点での岡山市はまだ政令指定都市になっていない。

精神科病院「こらーる岡山」。精神科の他に、精神障害者のための事業所や相談所、居場所などが併設されているが、民家を改築したものであり、外観も内装も医療施設っぽさが全くない。院長の山本昌知医師は、精神病者の診察や交流を生き甲斐としており、開業医となってからしばらくは給料も取らずに診察を行っていて、「現代の赤ひげ」とも呼ばれていたそうである。今は給料は10万円ほど受け取っているが、他に年金の収入があるだけで、全く金銭に執着がないようである。

日本は精神病大国なのであるが、精神病者が隔離される場合も多く、多くの人は精神病者の実態について、本当のことは知らないでいる。だから、精神病棟を舞台にして精神病者が襲ってくるという内容のホラーゲームが出来てしまったりするわけだが、外見からではわからない普通に近い人も当然ながら大勢いる。精神病は頭脳のエラーなのであるが、緻密な脳ほどダメージを受けやすく、夏目漱石や芥川龍之介らも精神病には苦しんだ。この映画にも、高校生時代1日18時間勉強する生活を半年続けておかしくなってしまった人や、岡山県随一の進学校である岡山朝日高校で3年間トップの成績を続け、岡山大学医学部に入学するがやはり無理をしすぎて精神的に参ってしまった人が出てくる。彼らは今も投薬の治療を続けてはいるが、エキセントリックではあるが一般的な日本人よりもむしろ知的な印象を受ける。

統合失調症で40年間治療を受けている男性も登場するが、健常者と障害者の間にカーテンがあるだけでなく、障害者同士の間にもカーテンがあると語る。なんとなく避けたり目にしなかったりということであるが、結局のところ互いのことをよく知らずに来てしまっている。男性は健常者であっても完璧な人などいないとわかったということで、健常者とされる人も障害者とされる人もどこかが欠けているわけであり、障害者が健常者の欠けているところを補うという生き方を提案したりもする。

背景として障害者自立支援法の存在がある。自立支援というと聞こえはいいが、「もう国が障害者を保護する金はないから自分で稼いでくれ」ということである。悪いことばかりではなく、これまでは門前払いだった一般就労への可能性が開かれたということでもあるのだが、実はこの映画公開から10年後、この岡山県を舞台に一大スキャンダルが起こることになる。

舞台となったのは就労継続支援A型(A型事業所)という組織である。障害者に最低賃金を保障した上で就労訓練を行う施設で、賃金は売上金から出し、スタッフへの収入は給付金という形で国が保証するというシステムであったが、民間企業の参入を許可したことからコンサルタントを介した障害者ビジネスが発生。スタッフの人数や賃金、施設費や障害者の労働時間を抑えることで、稼げる事業がなくても黒字が出せてしまうという、仕組みの盲点を突いたもので、「悪しきA型」と呼ばれた。当然ながら国も給付金から賃金を支払うことを禁じ、結果としていい加減な経営を行っていた事業所は苦しくなり、奇しくも岡山県では大規模A型事業所が閉鎖、経営者は姿をくらまし、雇用されていた障害者は一斉解雇となり、その悪質な手口故に全国紙などでも報じられた。一部の障害者は別のA型事業所に移ったが、そのA型事業所も同様の手口を用いる悪しきA型事業所であったためにすぐに経営破綻、二度続けて解雇になる障害者も現れてしまい、「障害者を食い物にした」ということでテレビのドキュメンタリーで取り上げられたりもした。

この映画はそうした不祥事の起こる10年ほど前の障害者の姿を描いている。映像に映っている数名は映画公開前に他界されたようである。
健常者と障害者が共存するという青写真にはまだまだ遠い。

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