配信公演 茂山千五郎家「YouTubeで逢いましょう! part11 三笑会」(文字のみ。アーカイブへのリンクはあり)
2020年6月7日
午後2時から、茂山千五郎家の「YouTubeで逢いましょう! part11 三笑会」を観る。狂言も他の伝統芸能同様、血縁関係による一門が基本となるが、狂言の家に生まれなくても狂言方になる方法も歌舞伎などと同様にあり、東京の場合は国立能楽堂の養成所を経るのが一般的だが、今回のメインとなる三笑会を結成している3人は狂言大蔵流茂山千五郎家に直弟子として入門し、今日に至っている。
三笑会は、茂山千五郎家の血縁ではない網谷正美、丸石やすし、松本薫の3人によって結成された狂言の会である。全員が大卒という共通点がある。
先週から投げ銭制度が採用された「YouTubeで逢いましょう!」。今日も日付に合わせた607円を投げ入れる。千五郎に掛けた1056円や、千作に掛けた1039円を送る人もいる。
演目は、「竹生島参」、「水掛聟」、「かけとり」
「竹生島参」。出演は、茂山千五郎(主人)、松本薫(太郎冠者)
太郎冠者が今でいう無断欠勤したので、主人は激怒。戻っていた太郎冠者を難詰するのだが、太郎冠者は琵琶湖に浮かぶ「竹生島参」をしたというので、主は興味津々。折檻を加えるはずが、竹生島の話をすれば許すということにする。竹生島は、相模国(今の神奈川県の大半)の江ノ島、安芸国(今の広島県の西側)の厳島と並んで日本三大辯才天の一つであり、芸能の神様(仏様)ということで狂言の家にとっては特別な存在である。
太郎冠者は、竹生島では、スズメが「チチチチチ、父」とカラスに向かって鳴き、カラスが「コカー、子かー」と鳴く「親子でこざる」などと駄洒落を言い、犬が「去ぬ(いぬ)」、猿が「去る」、蛙が「帰る」という掛詞を続けるが、「くちなわ(蛇)」に関しては下らないことしか言えず、主人に怒られるという話である。
オチはないとされるが、辯才天は蛇との関連が深いため、本来は蛇に関してだけは上手いことをいえないとまずいということなのだと思われる。
上演終了後、司会進行役の茂山逸平と松本薫のトークがある。
松本は立命館大学入学以降、能と狂言の鑑賞にはまり、自分でチケットを買って、京都や大阪の能楽堂に通うという生活を送っていたそうだが、当時は学生は祖父や狂言サークルなどの人に貰ったチケットで観に来るのが普通であり、狂言サークルなどに入っているわけでもないのに自分で窓口でチケットを買って毎週のように観に来る松本はかなり珍しい存在だったそうで、松本本人は自覚していなかったが、関西の狂言界ではかなり有名な客として知られていたそうである。
京都能楽鑑賞協会という団体の公演ポスターを見つけたのがきっかけで、左京区岡崎にある京都観世会館に出掛けて「安宅」を鑑賞。セリフはよくわからないが、興味を覚えて、1年間は能・狂言の公演に通おうと決めたそうである。それから京都の市民狂言会、その時は京都会館第2ホール(現在は改修されてロームシアター京都サウスホールになっている)での上演だったのだが、2階席で観て十二世(先々代)茂山千五郎に魅せられて、「この人の追っかけをしよう」と決めたそうである。
そして大阪で大阪能楽鑑賞会主催による劇評家の武智鉄二などによる能・狂言の講演が開かれるということで裏方として潜り込ませてもらい、日本装束研究家の切畑健から十二世茂山千五郎を紹介されて、会いに行ったらもう入門するということになっていたそうである。
「水掛け聟」。出演:茂山千之丞(聟)、網谷正美(舅)、山下守之(女房)
農民(耕作人)階級の人々が登場人物。
日照りにより聟の田から水が涸れてしまった。ただ隣の舅の田を見ると水が満ち満ちている。舅がこの様を見たら聟の田に水を送るだろうと勝手に決めた聟は、畦を切って自分の田に水を引き入れてしまう(まさに「我田引水」である)。
聟が去った後、舅がやって来て、今度は自分の田には水がなく、聟の田が青々としているのを見て、同じ理屈で自分の田に水を戻してしまう。
舅はその場に隠れ、聟が戻って来て先ほどと同じ事を始めたのを見咎め、水を掛けあう大喧嘩に発展する。
網谷正美のトーク。網谷正美は京都大学卒業後、同志社高校などで国語の教師をしており、兼業という形で狂言師を続けてきた。大学在学中に市民狂言会で初めて狂言に出会い、京都学生狂言研究会(KGKK)という狂言サークルに入って八坂神社の能舞台で初舞台を踏む。大学を卒業後すると同時に学校の国語教師となるのだが、当時、茂山千五郎家が病気などで人が足りないということで、入門することになったようである。
「かけとり」。茂山逸平作の落語を原作とした現代狂言である。出演は、鈴木実(太郎)、茂山茂(女房)、丸石やすし(大家)、茂山宗彦(もとひこ。酒屋)。エア囃子:島田洋海(ひろみ)。
大つごもりということで、借金を返したりするのに忙しい。家賃も全然払っていないため、太郎と女房は窮するのだが、大家が能好きということで、能を謡って誤魔化そうとする。
太郎はいきなり能楽師の振りをしながら大家の前に現れる。大家は太郎の企みを瞬時に見抜くのだが、結局、能のやり取りをして、うちよりもまず「一門の総帥である千五郎が、そばのそば屋でそばすすっている」ので先に取り立てに行けという太郎の言葉に乗せられるという、謎の展開になる。
その後、酒屋も取り立てに現れるのだが、沢田研二の「TOKIO」ならぬ「TSUKEO」を歌っている。酒屋のモッピー(宗彦)は最近、ジュリー殿と仲が良いので真似をしているのだという。ということで「勝手にしやがれ」の替え歌を太郎と酒屋とで歌い始め、「出て行ってくれ」と歌われた酒屋が「あーあー」歌いながら帰っていくという、カオス状態となって終わる。
ちなみに逸平によるとジュリーファンからの苦情は一切受け付けていないそうである(?)
丸石やすしは広島出身。ということで茂山千五郎一門の中で唯一のカープファンである。広島商科大学(現・広島修道大学)卒業後、東洋工業(現・マツダ。広島東洋カープの東洋である)に総務として就職するが、元々芸人志望だったということもあって勤め人が水に合わずに退社。その後、落語家や芸人を目指して桂米朝の追っかけなどをしていたが、狂言を初めて観て面白さに目覚め、当時は茂山千五郎家の電話番号が本名で電話帳に載っていたため、電話しところ、大阪能楽鑑賞会で講座をやるから、それを観てやる気があるなら弟子入りを許可するので観世会館に来いといわれて、入門したそうである。
アーカイブ https://www.youtube.com/watch?v=88819Q8kdoE
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