コンサートの記(644) 秋山和慶指揮 京都市交響楽団第647回定期演奏会
2020年7月26日 京都コンサートホールにて
久しぶりに京都コンサートホールへ。2月の京響定期演奏会以来だから、5か月ちょっとぶりになる。
午前11時開演の京都市交響楽団第647回定期演奏会を聴くのだが、新型コロナウイルスの世界的な流行により予定されていた指揮者のパスカル・ロフェとピアニストのロジェ・ムラロが来日不可能になり、指揮者の代役を秋山和慶が受けて、曲目も変更になる。
また、京都市交響楽団の7月の定期は同一プログラム2回のはずだったが、入場制限を行う必要があるため、昨日1回、今日は午前11時からと午後15時からの2回、計3回の演奏が行われることになった。昨日と今日15時からの回は京響友の会のメンバー(ほぼ定期会員と重なる)優先となるため、1回券で来ている人は、今日の11時からの公演のみ入場可となる。
入場口でサーモカメラによる検温があり、大ホールへの入り口で手のアルコール消毒をする必要がある。アルコールアレルギーのある人は他の手段での消毒を行うようだ。
チケットは自分でちぎってプラスチック製の容器に入れる。プログラムも自分で取る。チラシ込みとなしの2種類のプログラムがあり、選ぶことが出来る。ビュッフェは営業停止、物販も行っていない。冷水機も使用出来なくなっている。
客席は左右共最低2席空けとなる。今日は三階席の上手側ステージ奥寄りの席である。手すりが多少邪魔になるが、指揮する秋山の姿がよく見える。P席(ポディウム)は全て空席となっている。
ホールに入った時には、京都市交響楽団第13代常任指揮者兼芸術顧問の広上淳一らによるプレトークが行われていた。
ステージ上も奏者同士の間隔を通常よりも空けての演奏である。今日のコンサートマスターは、4月に特別客演コンサートマスターに就任してから初の登場となる会田莉凡(りぼん)。フォアシュピーラーは置かず、泉原隆志は会田の真後ろの席で弾く。同じ人物がステージ上に長く滞在するのをなるべく避けるため、弦楽奏者は首席と副主席を除いて前後半で入れ替わる。アシスタント・コンサートマスターの称号を持つ尾﨑平は今日は後半のみの登場で、泉原の真後ろで演奏していた。
第2ヴァイオリンの客演首席は大森潤子。チェロの客演首席にはルドヴィート・カンタが入る。
曲目は、前半がシェチェドリンの「カルメン」組曲(ビゼーの歌劇「カルメン」による弦楽と打楽器の編曲版)、後半がストラヴィンスキーのバレエ組曲「プルチネルラ」
途中休憩なし、上演時間約80分というコロナ下特別対策による公演である。
シチェドリンの「カルメン」組曲は、弦楽器と打楽器のための作品。ストラヴィンスキーのバレエ組曲「プルチネルラ」は弦楽器と管楽器のための作品で打楽器は登場しない。ということで、ステージ上で「密」にならないための曲目が選ばれているのだが、同時に両曲ともトランスクリプション作品であり、元からある楽曲に新たな命を吹き込むという意味で京響の「再生」に重ねるという意図があるいはあるのかも知れない。
何でも振れる秋山和慶は、こうした危機の事態には引く手あまたである。1941年生まれ、桐朋学園大学で齋藤秀雄らに師事。卒業後ほどなく東京交響楽団を指揮してデビューし、その後、同楽団の音楽監督・常任指揮者を40年に渡って務める。小澤征爾の下でトロント交響楽団副指揮者、アメリカ交響楽団音楽監督(前任であるレオポルド・ストコフスキー直々の指名)、バンクーバー交響楽団音楽監督、シラキュース交響楽団音楽監督と、北米大陸でのキャリアも築いている。
広島交響楽団とはシェフとして長年に渡って良好な関係を築き、終身名誉指揮者の称号を得ているほか、新興の中部フィルハーモニー交響楽団芸術監督・首席指揮者、日本センチュリー交響楽団のミュージックアドバイザーなども務めている。
経歴から分かる通り、日本においては、比較的若い楽団を育てることに喜びを見いだすタイプであり、洗足学園音楽大学芸術監督・特別教授として指導に当たるほか、京都市立芸術大学からは名誉教授の称号を得ている。学生オーケストラの公演にもしばしば登場することでも知られている。
秋山は、コンサートマスターの会田莉凡と握手ではなくエルボータッチを行う。
シチェドリンの「カルメン」組曲。旧ソ連とロシアを代表する作曲家の一人であるロディオン・シチェドリン(1936- )がボリショイ劇場のプリマ・ドンナであったマイヤ・プリセツカヤの依頼により、ビゼーの歌劇「カルメン」をバレエ音楽にアレンジした作品である。打楽器が多用されており、その痛烈な響きが現代音楽であることを再確認させてくれる。
まず、チューブラー・ベルズによって「ハバネラ」の主題が奏でられるのだが、どこかノスタルジアを帯びており、「カルメン」が遠い昔の物語として語り出される趣がある。
ちなみに、「カルメン」の音楽のみならず、同じくビゼーの代表作である「アルルの女」からの“ファランドール”がボレロ舞曲風に奏でられ、歌劇「パースの娘」から“ジプシーの踊り”も取り入れられるなど、単純にアレンジしただけではなく、作品中でビゼーの音楽が再構築されている。
久々の定期演奏会を行う京都市交響楽団であるが、切れ味鋭く、美観も万全でブランクを感じさせない仕上がりである。
後半の「プルチネルラ」では打楽器が登場しないということで、舞台転換の際は、ステージスタッフのみならず京響の打楽器メンバーも自ら楽器を持ってステージ後方へと片付ける。
ストラヴィンスキーのバレエ組曲「プルチネルラ」。18世紀の作曲家であるペルゴレージの楽曲などをストラヴィンスキーが20世紀風に再構成した作品である。カメレオン作曲家と呼ばれ、作風をコロコロ変えたストラヴィンスキーの新古典主義時代の代表作である。
前半の「カルメン」組曲は、ドイツ式の現代配置での演奏だったが、「プルチネルラ」ではヴィオラとチェロの位置が入れ替わり、アメリカ式の現代配置に近くなるが、コントラバス首席奏者の黒川冬貴がチェロ首席のルドヴィート・カンタの真横となる最前列で弾くなど、独特のポジショニングである。
創設当時に、典雅なモーツァルト作品演奏に特化した活動を行い「モーツァルトの京響」と呼ばれた京都市交響楽団だが、その伝統が今も生きており、煌びやかにして雅やかな音色が冴えに冴えまくる。パースペクティブの築き方も巧みである上に秋山の抜群のオーケストラ統率力も加わって、古典の再構成作品の演奏として高い水準に到達しており、京響の楽団員も実に楽しそうだ。
京響が得意そうな楽曲を並べたということもあるが、今の状況ではベストに近い演奏が行われており、京都市交響楽団の実力の高さが再確認される演奏会となった。
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