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2020年8月10日 (月)

配信公演 藤岡幸夫指揮 山形交響楽団 「山響ライブ特別企画公演」(文字のみ)

2020年8月6日 山形テルサホールからの配信

今日はクラシック専門配信サービスのカーテンコールで山形交響楽団の演奏会の配信がある。YouTubeでは広島交響楽団の平和の夕べコンサートの中継もあるのだが、曲目が魅力的なため、山形交響楽団を選ぶ。

「山響ライブ特別企画公演」と銘打たれたコンサート。指揮は、関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者と東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の首席客演指揮者を務める藤岡幸夫。山形テルサホールでの演奏会である。


曲目は、シベリウスの「クリスティアン2世」より“夜想曲”、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:田部京子)、シベリウスの交響曲第3番。


午後7時開演だが、午後6時50分頃から、山形交響楽団専務理事の西濱秀樹のプレトークが始まり、カーテンコールでの配信の他に、藤岡幸夫が司会を務めるBSテレ東の「エンター・ザ・ミュージック」の収録があることが告げられる。

その後、藤岡も呼ばれて西濱との二人でトーク。西濱は山形交響楽団に来る前は関西フィルハーモニー管弦楽団の事務局長を務めており、関西フィルに藤岡を招いたのも西濱だという。

藤岡は、「西濱さんとは20年来の付き合い」「僕の暴露本書ける」と言い、「一緒に新地に遊びに行ったこともある」と語るが、配信があるため、新地の話は西濱からNGが出る。

シベリウスの「クリスティアン2世」は、聴いたことのある人がほとんどいないだろうが、素晴らしい曲だと藤岡は語る。藤岡は渡邉暁雄の愛弟子であり、シベリウスを得意としている。関西フィルとは1年にシベリウスの交響曲1曲という全曲演奏会を7年がかりで行っている。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番のソリスト、田部京子は叙情的な作品を得意とするピアニストで、藤岡幸夫とは吉松隆繋がりでもある。
日本人女性ピアニストは、「話すと面白い」人が案外多いのだが、田部京子は本当に育ちの良さを感じさせるピアニストである。藤岡も西濱も田部の気品について触れ、藤岡は「僕は汚れまくっている」と語る。

シベリウスの交響曲第3番。ドイツにおけるシベリウスの紹介者であったヘルベルト・フォン・カラヤンが唯一取り上げなかった曲としても知られている。

藤岡がシベリウスが愛娘を亡くしたことについて語り、気分を変えるためにイタリアに旅行に行った結果、完成したのが交響曲第2番だと説明し、愛国的精神の発露と語られるこの曲が実際は個人的な思いによって書かれたと語る。だが交響曲第2番だけでは娘の死を乗り越えることは出来ず、交響曲第3番でも娘の死と向き合うことになったと解説した。シベリウスの交響曲とは「特別な」「異常な」音楽であり、他の誰にも似ていないことを藤岡は強調する。
交響曲第1番と第2番に関してはチャイコフスキーからの影響が指摘されることがあるが、第3番からは本当に独自の路線を歩むことになる。

藤岡は、「シベリウスというと、静かで真面目なイメージあるでしょ? 全然そうじゃなかった。酒好きで遊び好きで、『お前(遊びをやめるため)田舎に引っ越せ』と言われて引っ越すんだけど、ヘルシンキのバーに行って3日間帰ってこないだとか。酔って暴れて逮捕されたりだとか。浪費家、贅沢好きで借金まみれだとか。それで凄いのは周りから嫌われなかったということ」

西濱が、前回のベートーヴェン交響曲スペシャル第2弾では、聴衆が「ブラボー」ボードを掲げ、最後は指揮者の阪哲朗が「感謝」と書かれたボードを拡げたことを話す。藤岡は、「何も用意してないや」と語った。


ドイツ式の現代配置での演奏である。藤岡はコンサートマスターやフォアシュピーラー、ソリストと握手ではなくエルボータッチを行う。


シベリウスの「クリスティアン2世」より“夜想曲”。今日も真夏日であったが、シベリウスの曲は凜として透明感に溢れ、聴く清涼剤、音によるクーラーである。本当に体に自然に馴染む音楽だ。


ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。トランペットやホルンはナチュラル仕様のものを用い、ティンパニもバロックスタイルが採用される。HIPによる演奏だが、特に強調はせず、自然体である。藤岡の指揮ということもあり、ロマンティシズムよりもしなやかさが目立つ。
田部京子のピアノもまた涼しげでクリアな響きを紡ぐ。思いのほか構築感のある演奏でもある。清々しいピアニズムであるが、熱気をはらんでもいる。アルフレッド・ヒッチコックがグレース・ケリーを評した「雪を頂く活火山」という言葉が浮かんだ。
ベートーヴェンの若々しさと精神的な成熟が同時に感じられる曲と演奏である。


休憩時間には、カーテンコールの酒井さんと西濱さんのトークを経て、コロナによって山形交響楽団がリハーサルは行ったのに本番が行えなくなった様に始まり、カーテンコールによって配信された山形交響楽団の複数の演奏会の映像が流れる。カーテンコールの画と音が飛躍的に良くなっていることも確認出来る。


シベリウスの交響曲第3番。民族舞踊のような旋律で始まる曲だが、この部分が「ちょいダサ」にも感じられるため、カラヤンの美意識に反した可能性が高いと思われる。
しかしその後に強烈な広がりと内省的な旋律が繰り返され、異世界へと誘われていく。

シベリウスを得意とする藤岡と、シベリウスに合った音色を持つ山形交響楽団の相性も良く、透明感溢れる音の風が吹きすぎていく。

第2楽章の寂寥感の表出も優れており、音響もマジカルなレベルに達している。
第3楽章の前衛志向の響きとダイナミズムを兼ね備えた疾走感も素晴らしい。曲が終わっても走り続けていくであろう音楽の予感がある。


今日も客席には、「Bravo!」ボードが掲げられ(サッカーのサポーターのタオル応援に影響を受けてか、「Bravo!」タオルを作る予定もあるそうだ)、藤岡も「やられたらやり返す! 文字返しだ!」ということで(?)前回、阪哲朗が拡げた「感謝」ボードで応えていた。

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