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2020年8月 8日 (土)

コンサートの記(645) 松本宗利音指揮 京都市交響楽団 みんなのコンサート2020「世界の名曲!名曲セレクション」@京都市東部文化会館

2020年8月2日 山科区椥辻の京都市東部文化会館にて

山科へ。椥辻(なぎつじ)にある京都市東部文化会館で、京都市交響楽団 みんなのコンサート2020「世界の名作!名曲セレクション」を聴く。指揮は期待の若手、松本宗利音(しゅうりひと)。

松本宗利音は、1993年、大阪府生まれ。名前は、往年のドイツの名指揮者、カール・シューリヒトから取られたものであり、実はカール・シューリヒト夫人の命名によるものだという。
幼少期から相愛音楽教室(浄土真宗本願寺派の大学で音楽学部のある相愛大学附属の音楽教室)、センチュリー・ユースオーケストラなどで特にヴァイオリンに打ち込む。
高校は京都市堀川音楽高校に進学。その後、東京藝術大学音楽学部指揮科に入学し、最優秀で卒業。最優秀の証であるアカンサス賞を受賞している。藝大在学中には、ダグラス・ボストックやパーヴォ・ヤルヴィといった世界的名指揮者のマスタークラスも受講している。
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の指揮研究員を経て、2019年に札幌交響楽団の指揮者に就任。藝大の同期である太田弦らと共に、日本人の20代男性指揮者を代表する存在である。

 

曲目は、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲、J・S・バッハの管弦楽組曲第3番から「アリア」(「G線上のアリア」)、ベートーヴェンの交響曲第5番から第1楽章、メンデルスゾーンの劇付随音楽「真夏の夜の夢」から“夜想曲”、ヘンデル(サー・チャールズ・マッケラス編曲)の「王宮の花火の音楽」

上演時間1時間弱、聴衆の数を絞り、客席は左右の席2つ分を空けてソーシャル・ディスタンスを保つ。舞台上もソーシャル・ディスタンスを守るが、東部文化会館などの京都市内の多目的ホールはステージが狭いため、今日は第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが各2という室内オーケストラ編成での演奏となる。
管楽器奏者の前には透明のアクリル板が立てかけてあり、飛沫が弦楽器奏者の方に飛ばないよう工夫されている。
入場前に手のアルコール消毒と検温があり、チケットは自分でもぎって半券を箱に入れる、無料プログラムも自分で取るというコロナ対策が施されていた。

今日は指揮者の松本宗利音も京響の楽団員も全員京響の黒いポロシャツを着ての演奏である。コンサートマスターは泉原隆志。弦楽器はワントップの編成で、最前列は距離を置いた弦楽四重奏編成である。曲目はバロックから初期ロマン派までと比較的古めの曲が並ぶため、ティンパニはバロックタイプのものが用いられていた(打楽器首席指揮者・中山航介)。

 

モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲。松本は若々しさを表に出した爽快な演奏を行うが、室内オーケストラ編成で響かない多目的ホール、しかもコロナ対策で隙間を空けざるを得ない布陣ということで音に密度が欠けてしまう。松本が若いということもあって陰影も十分とはいえないが、指揮者の世界には「40、50は洟垂れ小僧」という言葉があり、20代で優れた演奏を行える指揮者は極々まれである。近年、20代で頭角を現した指揮者は、ダニエル・ハーディング、ミッコ・フランク、グスターボ・ドゥダメルぐらいだと思われる。ちなみに山田和樹がオンライン講座で話していたが、ダニエル・ハーディングは現在、パイロットの免許を取るために奮闘しているそうである。
松本は、木製と思われる指揮棒を使用していたが、背景に溶けて指揮棒ははっきりとは見えない。

その後、松本がマイクを手にトークを行うのであるが、「きょうと……、京都こうきょう……、京都市交響楽団の」と何度も噛むなどまだ慣れていない様子である。「高校時代は京都で学んでいましたので、東京のオーケストラを振る時とはまた違った緊張感があります」
松本は、「ドン・ジョバンニ」序曲の半音進行の魅力についても語った。

 

バッハの管弦楽組曲第3番から「アリア」。弦楽のみの合奏である。松本は弦楽のみの楽曲を指揮する時はノンタクトで振る。
演奏前に、「G線上のアリア」というヴァイオリン独奏編曲について述べ、コンサートマスターの泉原に実際にG線を弾いて貰う。
しっとりとした明るさのある演奏で、松本の基本的に陽性な音楽性がよく生きていた。
ただまだどちらかというと京響の色彩の濃い演奏ではある。

 

ベートーヴェンの交響曲第5番。誰もが知っている曲であり、ありふれすぎていて、松本も「ああ今日は『運命』が聴きたいと思う日はない」そうであるが、聴くたびに発見のある曲だとも述べ、家に帰ったら4楽章通して聴くことを聴衆に勧める。またボイジャーに「運命」の音盤が搭載されているという話もしていた。

松本は指揮棒を振り下ろして止め、もう一度上げようとするところで運命主題が奏でられるという振り方を採用。一拍目が休符であるため、合わせるのが難しい冒頭であるが、そのため振り方は指揮者によって各人各様であり、音が4つしかないために指揮者の個性が最もはっきりと出る部分である。
編成が小さいため、押しが弱いが、スマートな第5が展開される。流石にハーディングでもドゥダメルでも20代の内にベートーヴェンの交響曲で誰もが認めるような超名演を成し遂げたことはなく、若手の名演を期待する方が無理な曲でもある。

 

松本の良さが最も良く発揮されたのは、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」から“夜想曲”とヘンデル(サー・チャールズ・マッケラス編曲)の「王宮の花火の音楽」序曲という。最後の2つの曲である。

“夜想曲”では雰囲気作りが抜群であり、富豪の息子として生まれたメンデルスゾーンの上品さがよく出ている。ホルン首席の垣本昌芳のソロが実に上手い。

ちなみに松本はシェイクスピアの「真夏の夜の夢」を読んだことはあるのだが、「複雑すぎて内容を説明出来ません」ということで読むことも勧めないそうだ。

「真夏の夜の夢」は、大阪芸術大学舞台芸術学科の卒業公演をシアター・ドラマシティで観たことがあるのだが、役が付かなかった人が全員がいたずら好きの妖精であるパックを演じるという、芸術系大学ならではというかなんというか、風変わりな上演であった。

 

ヘンデル作曲、サー・チャールズ・マッケラス編曲の「王宮の花火の音楽」序曲。
「王宮の花火の音楽」は、「水上の音楽」と並ぶヘンデルの機会音楽の代表作。野外での演奏用に書かれているため、編成がかなり大きいが、オーストラリア出身で欧州楽壇の重鎮でもあったサー・チャールズ・マッケラスがコンサート用に編曲した版での演奏である。
日本屈指の輝きを誇る京都市交響楽団のブラス陣が実力を遺憾なく発揮。中山航介によるティンパニの強打も効果的で、典雅且つ豪勢な演奏となった。

 

アンコール演奏は、チャイコフスキーの弦楽セレナードより「ワルツ」。瑞々しい演奏である。ロシア出身のチャイコフスキーだから北国である札幌のオーケストラで活躍する指揮者の演奏が似合うということはないと思うが、「ワルツ」に関しては北海道の情景が浮かぶような音楽であることは確かである。北海道大学のポプラ並木などは、この曲にとても合うはずである。

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