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2020年8月28日 (金)

配信公演 「女々しき力プロジェクト」序章 オフィス3○○ 「消えなさいローラ」(文字のみ)

2020年8月23日 東京・下北沢の本多劇場より配信

午後1時から、e+Streamingで、「女々しき力プロジェクト」序章、オフィス3○○(さんじゅうまる)の「消えなさいローラ」を観る。作:別役実、演出・出演:渡辺えり、出演:尾上松也。演奏:会田桃子(ヴァイオリン)&川本悠自(ダブルベース)。下北沢の本多劇場からの配信。

「消えなさいローラ」は、別役実が、テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」の続編として23年前に書いたものである。渡辺えりも「消えなさいローラ」に感銘を受けて、ずっと自分でもやってみたいと思ってきたのだが、上演許可が下りず、コロナ禍の演劇として上演したいと申し込んで、ようやく上演が実現したという。

舞台上にはガラスの動物園が2つ。舞台前方の砂が敷き詰められた場所の上にガラスの動物たちが並び、その下手の水槽の中にも砂が積もっており、ユニコーンのぬいぐるみとガラスの動物たちが埋もれそうになっていて、時の経過が感じられる。

ミズーリ州セントルイス。トムが出て行った後のウイングフィールド家の居間が舞台である。
ローラ(渡辺えり)は今も引きこもりを続けており、自身の名前を呼ぶことで自身の存在を確認している。
渡辺えりはアマンダ夫人も二役で演じるのだが、ここにちょっとした仕掛けがある。

尾上松也は、劇の冒頭ではトムを演じるのだが、その後に、ウイングフィールド家を訪ねてくるユニバーサル葬儀社の社員として登場する。ユニバーサル葬儀社は仕事が早いことで有名だということで、ウイングフィールド家で死者が出たという話を聞いて駆けつけたのだという。まずローラが否定し、額のロボトミー手術の後を見せる。ユニバーサル葬儀社の人間は帰るのだが、帽子を忘れたということで、ウイングフィールド家に戻る。
今度はアマンダが対応するのだが、葬儀社の男は、アマンダは実は3年前に亡くなっているのではないか、という話をする。近所の人々からアマンダを見かけたという証言は得られたのだが、それはローラがアマンダに扮していたのではないかと、ユニバーサル葬儀社の社員は推理しており……。

実際にはユニバーサル葬儀社の社員を語る男は、ユニバーサル探偵社に所属する探偵であることがわかる。アマンダは3年前に亡くなっており、ローラが3年間そのことを隠し続けているのではないかと疑っているのである。アマンダとローラの会話は聞こえるが、それもローラが声音を変えて一人でやっているのではないかという疑いがある。

ということで、アルフレッド・ヒッチコックの代表作「サイコ」に影響を受けた作品であることがわかる。少なくとも知っている人には明らかに「サイコ」を基にしていることがわかるように書かれている。考えてみれば、ウイングフィールド家とベイツ家の環境は似ている。

ローラはトムの帰りを待ち続けている。待ち続けるには何かをしていてはいけない。ローラはアマンダに抵抗し続けることで何かをするのではなく「待つ」という行為を続けていた。だが、ローラがねずみ取りの砒素を入れたワインを飲んでアマンダは絶命する。その後も、ローラは一人でトムの帰りを待ち続けるのだが、トムが十日前に亡くなっているという情報をユニバーサル探偵社の男は掴んでいた……。

「ガラスの動物園」のラストでは、トムが実家を見捨てたことが描かれている。トムが出て行った後のウイングフィールド家のことは想像するしかないのだが、アマンダとローラの間で深刻なやり取りがあったことは想像に難くない。

「ガラスの動物園」のラストは、トムが今もローラのことを気に懸けているというものだったが、「消えなさいローラ」もローラもまたトムのことを思い、嘘をついてまでも待ち続けているというものである。

ラストで行われるのはそこからの開放である。待つことがつまり生きることであったローラの待つ理由が終わる。「ガラスの動物園」でトムがローラへの思いにとらわれていたのと同様、トムへの思いにがんじがらめになっていたローラ。「サイコ」のノーマン・ベイツがマザーコンプレックスと罪の念から母親を演じていたように、ローラも自分が母親を殺したということを否定するために二役を演じつつ、トムへのブラザーコンプレックスを抱え、帰りを待ちわびている。

これが毒親から阻害され続けられてきたローラの浄化に至るのかどうかはわかららないが、「サイコ」を絡めた二重写しの展開は演劇ファンと映画ファンの両方をにやりとさせる。


演劇は生ものなので、渡辺えりが「あなたはユニバーサル葬儀社の社員じゃないわ!」と言うべき所を「あなたはユニバーサル探偵社の社員じゃないわ!」と言い間違えてしまい、尾上松也は沈黙、渡辺えりが正しいセリフをいうのを待つ。渡辺えりが気がついて、正しいセリフを言い、松屋が「そうです、私はユニバーサル探偵社の者です!」と答えると客席は拍手喝采となった。
終演後、渡辺えりは、「配信の日なのにやっちゃいました」と語る。その他にも後方の照明が付きっぱなしになっているなど、トラブルがあり、演出も兼任ということで色々と指示を出す必要があったらしい。

ちなみに渡辺は、尾上松也の「松也」を頭にアクセントを置いて読んでいたようだが、松也自身はフラットに読むのが正しいという話をする。
渡辺えりは山形市出身だが、山形弁は冒頭にアクセントが来ることはないそうで(山形に多い苗字である「佐藤」も「砂糖」と同じ発音になるようだ)、「じゃあ、山形弁と一緒」と語っていた。

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