コンサートの記(647) 三ツ橋敬子指揮 京都市交響楽団 みんなのコンサート2020「オーケストラの旅」@京都市北文化会館
2020年8月9日 北大路の京都市北文化会館にて
午後2時から、北大路にある京都市北文化会館で、京都市交響楽団 みんなのコンサート2020「オーケストラの旅」を聴く。指揮は日本を代表する女性指揮者の一人である三ツ橋敬子。
今日も第1ヴァイオリン4人、第2ヴァイオリン3人、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが2人ずつという室内オーケストラ編成での演奏。弦楽はワントップの配置である。木管楽器奏者の前には透明なアクリル板が置かれ、飛沫が弦楽器奏者の方に飛ばないよう配慮されている。
コンサートマスターは今日も泉原隆志だが、京響の出演メンバーは先週の「みんなのコンサート」とは大きく異なる。
上演時間約1時間、休憩なしのコンサート。曲目は、グリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲(ロシア)、ヴェルディの歌劇「アイーダ」より凱旋行進曲(イタリア)、オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」よりカンカン(フランス)、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲(オーストリア)、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」から“行進曲”“こんぺい糖の踊り”“あし笛の踊り”“花のワルツ”(ロシア)。
世界各国のオペラやバレエの名曲を並べたプログラムだが、バロックから初期ロマン派までだった先週の「みんなのコンサート」と違い、比較的新しくて本来は大編成で演奏される曲が多いため室内オーケストラでそのままとはいかず、編曲を施したりカットした上での演奏となる。
京都市北文化会館は、京都市内の多目的ホールの中では比較的音が良い。
今日も指揮者も含めて全員が京響の黒いポロシャツを着ての登場となる。
三ツ橋敬子は、東京生まれ。幼い頃は医師に憧れていたが、早くから音楽の才能も示していた。東京藝術大学と大学院で指揮を学ぶ。大阪フィルハーモニー交響楽団の指揮者である角田鋼亮は大学と大学院の指揮科同期である。その後、ウィーン国立音楽大学とイタリアのキジアーナ音楽院に学ぶという、昨今の日本人指揮者の王道路線を歩み、第10回アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで優勝。第9回アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールでも入賞している。
身長151㎝と小柄なマエストラである。
グリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲。木琴を足しての演奏である。勢いよく始まり、京響の美音が生きるが、やや中だるみの傾向あり。コンサート全体として緩徐部分が弱いという印象を受けた。
三ツ橋のマイクを手にしてのトーク。6歳から入場可であり、「小さなお友達」もいるため(コロナの影響で例年よりは少なめ)、三ツ橋はゆっくりと発音良く、「うたのおねえさん」的トークを行う。だが暑くてボーッとしたのか、オッフェンバックのことを「フランス生まれでドイツで活躍した」と真逆に紹介したり、幼いモーツァルトが求婚したマリー・アントワネットのことを「女王様」と言ってしまったりと、ちょっと頼りない。
ヴェルディの歌劇「アイーダ」より凱旋行進曲。
三ツ橋は、「次はイタリアです。イタリアってどういうイメージありますか? 小さいお友達はピザって知ってるよね? あと、サッカー、は最近弱いんですけど有名です」
三ツ橋はヴェネチア在住なので、イタリアには思い入れがあるようだ。
編成が小さいので迫力は出ないが、整った演奏を聴かせる。オペラの中に出てくる形そのままではなく、サッカーでサポーターが口ずさむことでも知られる有名な旋律を中心にしたカット版での演奏。
オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」よりカンカン。
三ツ橋は、「天国と地獄、どちらに行ってみたいですか? 天国に行ってみたいという方。結構いらっしゃいますね。では地獄に行ってみたいという方。シーン」
その後、「天国と地獄」のあらすじや「フレンチカンカン」の説明。そして昨日の右京ふれあい文化会館での同一演目の演奏会で、「CMでも使われています」と言ったものの、実は関西地方でそのCMが流れていないことを今朝知ったという話をする。カステラと言っていたため、「文明堂」のCMであることがわかる。私は関東の出身なので、子どもの頃によく目にした。全国区じゃなかったのか。トヨタのCMでも流れていたらしいが、そちらは知らない。
これも編成の都合上、迫力には欠けるが良く纏まっている。ただ、三ツ橋の演奏を聴くと大抵いつも「良く纏まっている」という印象は受けるもそこから先に行けないというもどかしさは感じる。
モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲。大阪フィルと大阪新音の合唱団を指揮した「レクイエム」の演奏も優れた出来であり、三ツ橋はモーツァルトは得意としているようである。この「フィガロの結婚」序曲も、「ウキウキ」と「ワクワク」に満ちている。
チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」から“行進曲”“こんぺい糖の踊り”“あし笛の踊り”“花のワルツ”。
三ツ橋は、“こんぺい糖の踊り”でチェレスタという楽器が活躍するのだが、チャイコフスキーは初演を衝撃的なものにするためチェレスタの存在を隠し続けたという話をする。今日はチェレスタはなく、鉄琴2台がチェレスタが受け持つ旋律を奏でる(メインの鉄琴を奏でるのは打楽器首席の中山航介)。
“あし笛の踊り”もフルートは3本ではなく単管での演奏。
神秘的な雰囲気や華やかなど、この曲の魅力が生きているが、室内オーケストラの演奏で聴くとチャイコフスキーのオーケストレーションの巧みさがより鮮やかになる。弦楽による音の受け渡しなど、視覚的にもとても面白い。
アンコール演奏は、シベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。コロナ自粛が始まってから配信コンサートでよく耳にする曲目である。
三ツ橋はフィンランドの紹介を行う。子ども達に、「ムーミンって知ってるかな? ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソン(調べたところ、今日8月9日が誕生日に当たるようだ)がフィンランド人です(スウェーデン系フィンランド人であり、彼女自身はスウェーデン語を用いた)。サンタクロースもフィンランドから来ていたり。とても寒い国なんですが、シベリウスが書いた温かい音楽です。タイトルが覚えられなかったという方もいらっしゃるかも知れませんが、日本語では『祝祭アンダンテ』と言いましゅ。“言いましゅ”って言っちゃった」
室内オーケストラ編成でも演奏可能な「アンダンテ・フェスティーヴォ」。色彩を変えつつ、うねるような痛切な祈りに満ちた演奏であり、ラストでは「希望と未来への確信」が響く。やはりこうした時に聴くのに相応しい楽曲である。三ツ橋と京響の弦楽陣は小編成ながらスケールの大きな演奏を歌い上げた。
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