コンサートの記(648) 佐渡裕指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団 兵庫県立芸術文化センター大ホール杮落とし公演「第九」
2005年10月27日 兵庫県立芸術文化センター大ホール(現在のKOBELCO大ホール)にて
兵庫県立芸術文化センター大ホール柿落とし公演の「第九」を聴くために出かける。西宮という街の空気と雰囲気を知るために少し早めに出かける。
最寄り駅は、阪急西宮北口駅。地元の人は気にしないのだろうが、西宮北口(通称は西北)というのも変わった駅名である。西宮市の北口という場所にあるので西宮北口駅という即物的な名称で、阪急には西宮駅という駅はないから混同することはないが、関西以外の人は阪神西宮駅北口やJR西ノ宮駅北口と勘違いするかも知れない。
午後6時開場。午後7時開演。
兵庫県立芸術文化センター大ホールの内装は、壁全てに木を使った落ち着いたもの。変形シューボックススタイルで天井は高い。4階席は遥か上にあり、ステージからかなり遠い。
トイレは各階にあるがやや狭い。
私は1階サイド席、舞台の左手やや後方(LC9番の席)に座ったのだが、現代のホールにしては通路が狭く、また椅子がずらりと連なっているため、真ん中付近の席を買った人は、たどり着くまで難儀しそうである。後方、壁の後ろにも通路があるのだが、設計の関係でホール側の壁が斜めになっており、目の錯覚で体のバランスを崩しそうになる。
オペラ対応であるため、パイプオルガンはない。
兵庫県立芸術文化センター、柿落とし公演で演奏するのは、兵庫芸術文化センター管弦楽団というそのままの名前のオーケストラである。わかりやすくはある。誰が聞いてもどこのどんなオーケストラかわかる。略称はPAC(Peforming Arts Centerの略)。
兵庫芸術文化センター管弦楽団は、新たに結成されたプロオーケストラ。日本唯一の育成型プロオーケストラでもあり、厳しいオーディションを勝ち抜いた、日本を含む13の国出身の35歳以下のメンバー(平均年齢は27歳)からなる若い楽団である。芸術監督は佐渡裕で、今回の指揮も当然、佐渡が担当する。
合唱は、神戸市混声合唱団(プロの合唱団である)とオープニング記念第9合唱団(オーディションによって選ばれた、今回の第9演奏会のためだけに参加するメンバー達)。
ソリストは、ソプラノがロシアのマリア・コスタンツァ・ノチェンティーニ。メゾ・ソプラノが日本の手嶋眞佐子。テノールがアメリカのポール・ライオン、バリトンが韓国のキュウ=ウォン・ハン。オーケストラ同様、国際色豊かな顔ぶれである。
兵庫県立芸術文化センターの響きは、残響の少ないシンプルなものである。残響を重視するなら良いホールとは呼べないだろうが、その分、音の動きが細部までよくわかる。音楽ホールの響きが安定するまでには、最低でも竣工から2年程度はかかるとされているため、今後、響きが大きく変わる可能性もある。
第1楽章。弦の響きが薄いのが気になる。結成後間もないオーケストラということもあるのだろう。しかし最近流行りの古楽器奏法を取り入れた演奏だと考えれば、違和感は和らぐ。歴史のないオーケストラだからこそ、佐渡の音楽性がよくわかるということもある。
今回の佐渡の第九の特長は、一拍目を強調し、アクセントを与えて、そこからなだらかに歌へと変化させていくということ。メリハリが利いている。
途中、フェンシングの選手のような格好になったり、しゃがみ込むような素振りを見せたり、腰を振ったりと、佐渡の指揮は視覚的にも楽しい。
テンポは速めだったが、第3楽章をじっくり歌ったことと、第4楽章で、歓喜の主題を登場させるまでに間を長く取ったりしたため、「速い」という印象があったわりには、トータルタイムは平均的であった。
オーケストラも、音外しや、アインザッツが揃わなかったりというミスはあったものの健闘。アンサンブルは予想していたものより遥かに緻密である。
歓喜の歌はやはり、生で聴くに限る。人間の声の圧倒的な迫力はCDでは味わえない。二つの合唱団のレベルはかなり高い。
ラスト。佐渡は、「限界を超えているのでは?」と思えるほどの快速テンポを要求。フルトヴェングラーのバイロイト盤をも凌ぐほどの猛烈な追い込みだ。バイロイトは最後の最後で音が潰れてしまったが(実際は録音の問題であった可能性が高いことが後にわかっている)、兵庫芸術文化センター管弦楽団は乱れることなく最後まで弾き通した。
感動よりも興奮するベートーヴェン。完璧でも重厚でもないが、フレッシュな第九であった。
第九の後で何かを演奏するということは少ないが、今回は特別に「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」(「パッピーバースデー、ディア名ホール!」と歌われた)が演奏され、新ホールと新オーケストラの門出を祝った。
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