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2020年8月12日 (水)

毎日テレビ(TBS系) ドラマ特別企画 豊川悦司&菅野美穂主演 「太宰治物語」

2005年10月10日

毎日テレビ ドラマ特別企画「太宰治物語」を見る。太宰治を演じるのは豊川悦司。トヨエツは太宰というイメージではないが、40歳前後で他に太宰が似合いそうな俳優はいないので仕方ないのかも知れない。10数年前に役所広司が太宰治を演じていたが役所広司は太宰っぽかった。
太宰に心酔し、太宰の墓の前で後追い自殺した、小説家の田中英光(代表作『オリンポスの果実』。タイトルは太宰がつけた)も登場するがこれもイメージとは大分違う。

冒頭のシーンは、例の鎌倉・小動(こゆるぎ)での心中事件のイメージから始める。しかしこれがラストまで繋がることなく途中で切れてしまうのが残念である。単なるイメージ映像になってしまっていて、伏線にも何にもなっていなかった。

物語は太宰が石原美知子(寺島しのぶ)と結婚した頃から始まる。それ以前にも太宰には、――いささか自作自演気味ではあるものの――、ドラマティックな人生があったのだが、それは割愛されている。

「富嶽百景」、『斜陽』などが主なモチーフだ。太宰が口述筆記を得意としたことなどもちゃんと描かれている。

ドラマ自体の出来は、最近のドラマにしては良い方だと思うが、ラストは物足りない。
玉川上水での入水事件は直接描かれることなく、やけに綺麗な幕切れにしてしまっていた。まるでイメージクリップのようだ。

さて、太田静子(菅野美穂)との出会い、そして、静子の日記をモデルに、太宰が傑作『斜陽』を書くまでの過程が描かれている。

小説『斜陽』の中に、主人公かず子が上原を慕って上京してきたところ、上原は取り巻きを連れてどんちゃん騒ぎをしているというシーンがあるのだが、確かに太宰と太田静子は料亭で再会しており、それが『斜陽』に投影されてもいる。ただ、『斜陽』のかず子が上原の子を宿すつもりでやって来たのに対し、静子は子供が出来たので認知してもらいに来たのである。ドラマや小説に描かれた馬鹿騒ぎもどうやらなかったようだ。

ドラマでは『斜陽』の上原のセリフをそのまま太宰に語らせている。また、その後のシーンからして、「上原=太宰」説を採っていることがわかる。だが果たしてそうだろうか。勿論、太田静子は太宰への手紙で「M・C マイ・チェーホフ」と記していることから、最初の構想では太宰は上原を自分の分身として書くつもりだったのかも知れない。しかし、太宰本人が投影されているのは、むしろ、かず子の弟である直治であることは間違いない。上原に対する攻撃と皮肉も、太宰本人の自己批判や自身のカリカチュアというより、誰か他の作家への雑言のような気がしてならないのだ。それも旧世代の作家に対する、である。

『斜陽』における上原は、聖書におけるヨゼフと好一対であり、不要な父親なのである。そして太宰はかず子に「恋と革命」を語らせる。ここに誤解が生じやすくなっているのだが、「恋」と「革命」は別のものである。「恋愛革命」を起こそうというのではない。かず子は自身をマリアとし、生まれてくる子をイエスに見立てて本当の革命を起こすことを夢見ているのである。これにはかつて共産主義運動に荷担した太宰の姿が重なる。つまり太宰本人が感情移入しているのは、かず子と直治であり、視線は没落する華族の悲劇、というよりも、革命による新時代の可能性の方を向いているのである。確かに太宰は新しい女性像を描いたけれども、それは戦後を生きる女性の典型的理想像を描いたわけではないはずだ。書きたかったのは新時代への可能性の方なのだ。
そして太宰本人は新時代の作家であることを自認していたであろう。
その前に立ち塞がる旧世代の作家、笑われるべき存在である上原のモデルは本当は誰なのだろうか?

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