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2020年9月26日 (土)

観劇感想精選(353) 野田地図(NODA・MAP) 「贋作・罪と罰」2006大阪

2006年2月8日 大阪・京橋のシアターBRAVA!にて観劇

大阪へ。シアターBRAVA!でNODA・MAPの「贋作・罪と罰」を観る。作・演出・出演:野田秀樹、出演:松たか子、古田新太、段田安則、宇梶剛士、美波、マギー、右近健一、小松和重、村岡希美ほか。
タイトルを見ればわかる通り、ドストエフスキーが書いた世界文学史上最高傑作の一つが原作である。

幕末、江戸。あらゆる学校を首席で卒業し、今は江戸開成所(東京大学の前身)の女塾生である三条英(さんじょう・はなぶさ。松たか子)は、質屋の女主(野田秀樹)の存在を疎ましく思っている。自分のように若く、才気溢れる逸材が世に出る妨げになるのは、質屋の女主のような強欲張りの人間だ。そう考えた英は、ある日、女主を斧で切りつけ、殺害してしまう。しかし、たまたま居合わせた女主の妹で何の罪もないおつばさんまで殺してしまったことから、熱病に浮かされたような気分(それが罪悪感だと英は認めないのだが)に取り憑かれる。
一方、英の友人、才谷梅太郎(実は坂本龍馬。古田新太が演じる)は幕府と勤王派の二重スパイとなって、金を儲けていた……。

まずは久しぶりにNODA・MAPの芝居を観ることが出来て満足である。前に観たのは今はなき近鉄劇場での公演、「オイル」(主演はやはり松たか子)だから3年ぶりだろうか。

中央に菱形の舞台を置き、客席はその前後に向かい合うようにして並ぶという劇場の使い方、幕や布の用い方、椅子を小道具として非常に巧く効果的に使用する方法など、感心することも多い。役者は、舞台上にいないときは舞台の四隅に待機し、効果音などを担当する(ノックの音は木槌を、鍵の開く音はチェーンを使う)。
劇としては十分に高い水準なのだが、野田の芝居を観て、かつてのような痛切さを感じられなくなったのは、あるいは私が年を取ったからなのだろうか。あるいはドストエフスキーの「罪と罰」を読んでいるだけに、脚色され、舞台化された「贋作・罪と罰」では物足りないのだろうか。

真っ直ぐなものほど折れやすい。三条英の真っ直ぐな生き方に生じた狂い、思想に飲み込まれていく姿に痛々しさも感じる。
あらゆる汚い存在も飲み込める心の広さがあれば、あるいは理想が達成できたのかも知れない。しかし真っ直ぐである故、飲み込むことが出来ず飲み込まれてしまった。

心理や思想、若者と世間の対峙など、今日の舞台には原作の小説に遠く及ばないところがある。それはそれで仕方ない。舞台は心理サスペンスを見せるには小説ほど適当な表現手段ではないのだから。
しかし、一人の天才には「権利」があるという超人思想と、殺されていい人間などいないという信条、「特別な人間とは」という問い、それを幕末の動乱期、特に坂本龍馬暗殺に重ねた手法の見事さに感心しながらも、何か大切なものが抜け落ちてしまっているのではないかという印象を持ってしまう。あるいは野田の才気が、「罪と罰」という物語に秘められた不可解さを殺してしまったのかも知れない。もしくは私が、「全てお終い」というカタルシスを望みすぎていたのだろうか。

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