« 美術回廊(58) 京都文化博物館 特別展「舞妓モダン」 | トップページ | これまでに観た映画より(217) 「ロゼッタ」 »

2020年10月15日 (木)

湖南ダンスカンパニー×糸賀一雄記念賞音楽祭ユニット公演「湖(うみ)の三部作 音と身体で綴る叙情詩『湖(うみ)』」

2020年10月11日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホールにて

午後2時から、びわ湖ホール中ホールで、湖南ダンスカンパニー×糸賀一雄記念賞音楽祭ユニットによる公演「湖(うみ)の三部作 音と身体で綴る叙情詩『湖(うみ)』」を観る。

大津や草津、守山などを中心とする滋賀県湖南地域に住む障害者と福祉施設のスタッフ、プロのダンサーが協働するパフォーマンス集団、湖南ダンスカンパニー。2004年に結成され、1年に1作ダンス作品を上演することを目標に作品を作り上げている。関西を代表するダンサーである北村成美(きたむら・しげみ。女性)がディレクターと振付を担当し、自分もリーダーとしてパフォーマンスを披露している。

湖南ダンスカンパニーのメンバーは、知的障害者が中心のようである。野洲市にあるにっこり作業所(就労継続支援B型事業所)と守山市にある螢の里(生活介護入所施設)を始めとする福祉施設に通所している方々が参加しているようだ。身体障害者による舞台作品上演は大阪の劇団態変が行っており、重複を避けるのと、身体障害者の場合はダンスはどうしても困難になることが予想される。障害としては精神障害や発達障害も上げられるが、彼らの場合は知能や身体能力が高い人も多く、その場合は障害者という枠でなく作品を作り上げられる。トム・クルーズは有名な発達障害者だが、彼の演技を障害者のものと捉える人は皆無に近いだろう。
湖南ダンスカンパニーの在籍者は総勢31名。そのうち障害のあるダンサーは24名で、7名がダンサーと福祉施設職員のようである。

演奏を担当する糸賀一雄記念賞音楽祭ユニットは、滋賀県の福祉界に多大な貢献を行った糸賀一雄の業績を讃える音楽祭に参加したミュージシャンからなる。メンバーは、小室等(歌、アコースティックギター)、坂田明(アルトサックス、クラリネット、鈴、ベル)、高良久美子(パーカッション:ビブラフォン、マリンバ、ティンパニ、シンバル、小物等)、谷川賢作(ピアノ、ピアニカ)、吉田隆一(バリトンサックス、フルート、バスフルート)と驚くほどの豪華さである。ちなみに湖南ダンスカンパニーのチケットは1000円なので、入場料を考えるとあり得ないほどの充実した演奏を聴くことが出来る。

ということもあって、チケットは完売御礼である。客席前後左右1席空けのソーシャルディスタンスフォーメーションであったが、音楽陣の充実を考えると、通常の公演だったとしても完売は必至であったと思われる。

 

今回のびわ湖ホールのコロナ対策は、サーモグラフィーによる検温とチケットを自分でもぎる、パンフレット等も自分で袋に入ったものを取るという基礎的なものである。またアナウンスで、ホール内は十分な換気が行われていることが告げられた。

 

今回の演目である、湖の三部作・音と身体で綴る叙情詩「湖」は、これまで湖南ダンスカンパニーが作り上げてきた3つのダンス作品(2017年の「うみのトリックスター」、2018年の「うみのはた」、2019年の「うみのはもん」)の一挙上演である。振付・演出:北村成美、音楽監修:小室等。

北村成美は、「なにわのコリオグラファーしげやん」という自ら名乗る愛称でも知られている。愛称で分かる通り大阪市出身だが、現在は滋賀県草津市在住である。滋賀県は新快速という高速列車によって京都府や大阪府と繋がっており、京都や大阪への通勤通学も十分可能で、「滋賀府民」という言葉も存在する。北村成美自身の公演は大阪で行われることが多いが、草津市から大阪市は新快速に乗ればすぐである。
高校卒業後、アルバイトをして貯めた資金でロンドンに留学。ロンドン・ラバン・センターで学んだ。帰国後はダンスユニットを結成したが、破産により解散。以後はソロダンスを中心に活躍中である。結婚を機に大阪から草津に移住。平成22年に滋賀県文化奨励賞受賞。

 

作品構成は、
オープニング(夜明け前) 「湖の波紋」(作曲:谷川賢作)

うみのはもん

うみのはた 「希望について私は書きしるす」(作詞:谷川俊太郎、作曲:小室等)

シエスタ(昼下がり) 「木を植える」(作詞:谷川俊太郎、作曲:小室等)、「ON THE TEPPEN」(演奏:高良久美子)、「星の灯は彼女の耳を照らす」(作曲:吉田隆一)、「かすかなほほえみ」(編曲:谷川賢作 Inspired by ほほえむちから)、「ほほえむちから」(作詞:谷川俊太郎、作曲:小室等)

うみのトリックスター 「Dance」 (作詞・作曲:坂田明)

真夜中 「翼」(作詞・作曲:武満徹)、「ぶっきらぼうのほほえみ」(編曲:谷川賢作 Inspired by ほほえむちから)、「くーらんぷ」(作曲:谷川賢作)

フィナーレ

 

舞台上の出演者だけではなく、舞台後方のスクリーンに映った映像内でのパフォーマンス、また映像と音楽のセッションなどもある。

 

知的障害者ということで、そんなに器用に踊れるわけではないが、以前は知的障害者というと単純作業のみを行うというイメージであり、びわ湖ホールのような第一級の劇場のステージで、日本を代表するミュージシャン達とダンスを行うことなど想像の埒外にあった。それが実現しているということだけでも結構凄いことだと思える。しかも1回きりでなく継続してである。

知的障害があるから全員ダンスが拙いというわけでもなく、中には創造的でキレのあるダンスをする人もいる。坂田明がそのダンサーの動きに合わせてサックスを吹く場面もあったが、面白いものになっていたように思う。

前半はダンサーと他のメンバーが同じ動きをするものも多かったが、休憩を挟んで後半は、ダンサーと他のメンバーがそれぞれに表現することも多くなる。木枠を使っての表現もあるが、自由度は増していく。

武満徹の「翼」が最初はインストゥルメンタルで演奏され、その後、小室等のボーカルによって再度登場する。フォーク「死んだ男の残したものは」や映画の主題歌「燃える秋」などでも知られる武満徹であるが、ポップスの部門でヒットらしいヒットを飛ばしたことはない(武満自身、「ユーミンのCDは200万枚も売れるのに、僕のCDは2万枚も売れない」と語ったことがある)。だがその純度の高さは売り上げで測られる音楽とは別の次元にあるものであり、今回のような公演には最高にマッチする。

フィナーレでは、糸賀一雄生誕100年記念として、谷川俊太郎の作詞、小室等の作曲で制作された「ほほえむちから」が再度演奏され、舞台と客席が一緒になって盛り上がる。

障害者が絡むとどうしても一方的な「感動」を押しつけられることが多くなるのだが、大切なのはそうではなく、一体感を得ることなのだということを実感する。こうして同じ場所と時間を共有する体験こそが、歴史的文化的背景を超えた根源的なものへと我々を導いていくのだ。

Dsc_9833

|

« 美術回廊(58) 京都文化博物館 特別展「舞妓モダン」 | トップページ | これまでに観た映画より(217) 「ロゼッタ」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 美術回廊(58) 京都文化博物館 特別展「舞妓モダン」 | トップページ | これまでに観た映画より(217) 「ロゼッタ」 »