これまでに観た映画より(214) 王家衛(ウォン・カーウァイ)監督作品「花様年華」@アップリンク京都 2020.9.30
2020年9月30日 烏丸姉小路・新風館地下のアップリンク京都にて
烏丸姉小路・新風館の地下にあるアップリンク京都で香港映画「花様年華」を観る。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督作品。主演:マギー・チャン、トニー・レオン。撮影:杜可風(クリストファー・ドイル)。2000年の制作。
この映画は映画館で観たことがなく、DVDで観ただけであるため初劇場体験となる。
ウォン・カーウァイ監督作品のうち、「欲望の翼(阿飛正伝)」、「花様年華」、「2046」は一繋ぎの作品となっているが、続編かというとそうでもない。
トニー・レオンは、「欲望の翼」にも出演しているのだが、ラストシーンで髪型などを整え、準備万端というところで映画が終わってしまうという不思議な使われ方をしている。
1962年の香港。秘書の仕事をしているチャン夫人(マギー・チャン)と新聞記者のチャウ(トニー・レオン)は同じ日に同じアパートの隣室に引っ越す。共に既婚者であるが、チャン夫人の夫は日本人貿易商の下で働いているということもあって出張でしょっちゅう家を空けており、チャウの奥さんは夜勤であるため、チャウと顔を合わせることがほとんどない(互いの結婚相手の顔は映ることはなく、後ろ向きで撮られている)。
奥さんが「仕事で帰りが遅くなる」と電話を掛けてきた日。チャウは奧さんの職場に迎えに行くが、仕事というのは嘘であることを知る。
次第に惹かれあうチャン夫人とチャウ。倫理観から互いに距離を置いていた二人だが、初めてレストランで食事をした日に、お互いのパートナーが不倫の関係にあるとの確信に到る。
かつて小説家志望だったが、一行も書けなかったため才能に見切りを付け、同じ書く仕事ということで新聞記者になったチャウだが、新聞の連載小説に挑むことになり、チャン夫人に校閲作業を頼むなどして二人の距離は更に縮まっていく。チャウは書斎代わりにホテルに部屋を借りる。ルームナンバーは「2046」。チャウはチャン夫人に「2046」号室にも来て欲しいと言うのだが……。
大人の恋愛を描いた秀作である。互いのパートナーが不倫の関係にあることに気付くなど、ドロドロ路線に進みがちな設定なのだが、感情をセリフではなく、梅林茂の「夢二のテーマ」で描くなど、抑制を利かせているため、却って匂うような色香が立ち込めるようになっている。
大人の恋愛と書いたが、マギー・チャンもトニー・レオンも撮影時は今の私よりも年下だったわけで、今となっては清潔に過ぎるようにも感じられる。ただ若い頃はこうした描写は本当に好きだった。
実際にはラブシーンが撮影されたが、最終的にはカットされており、二人の距離の絶妙さに繋がった。
ラブシーンがあるとしたら、その時間は限られるわけで、ラストで語られるチャン夫人の子どもというのはチャウとの間の子どもと見て間違いない。チャウの笑みからもわかるのだが、そうでないとその話を持ってくる意味もなくなってしまう。
ただ、不倫の意識はあり、チャウはカンボジアのアンコールワットの壁に秘密を封じ込めた。
直接的な性描写が少ないため、夢のようにおぼろな印象を見る者に与えており、尾を引くような記憶として残されていく。リアルでありながら浮遊感のある展開は、「恋する惑星」に繋がるものがあるが、実際に「恋する惑星」のエピソードの変奏ともいうべきシーンも登場する。
部屋のナンバー「2046」は、ウォン・カーウァイ監督の次回作のタイトルともなるわけだが、実は「2046」というのは香港と中国の一国二制度(一国両制)が終わる年である。「花様年華」にも香港の未来を心配して脱出する人々が登場するが、一国二制度は2046年よりも前に終わりそうであり、それを憂えている今の香港の若者達の姿にも繋がる。
ラストシーンは1966年という設定。悪夢のような文化大革命は、この年に始まっている。
映画を見終わり、新風館の外に出ると空気が肌寒い。今年初めてさやかに感じた秋であった。
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