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2020年10月22日 (木)

コンサートの記(662) ラデク・バボラーク指揮山形交響楽団さくらんぼコンサート大阪2018

2018年6月22日 豊中市立文化芸術センター大ホールにて

午後7時から、豊中市立文化芸術センター大ホールで、山形交響楽団さくらんぼコンサート2018大阪公演を聴く。今回の指揮者は山形交響楽団首席客演指揮者に就任したばかりのラデク・バボラーク。

1976年生まれのラデク・バボラーク。チェコのパルドビツェに生まれ、8歳からホルンを学び始める。13歳でプラハ音楽院に入学。94年にはミュンヘン国際コンクール・ホルン部門で優勝している。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、バンベルク交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団などの首席ホルン奏者を歴任し、現在ではラデク・バボラーク・アンサンブルの主宰を務める。
指揮者としてはチェコ・シンフォニエッタを創設して活動を開始。日本でも水戸室内管弦楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、紀尾井シンフォニエッタ東京(現・紀尾井ホール室内管弦楽団)、新日本フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などに指揮者として客演している。指揮を誰かに師事したというわけではないようだ。

 

曲目は、モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」序曲、モーツァルトのホルン協奏曲第1番(バボラークによる弾き振り)、シニガーリャの「ロマンス(ホルンと弦楽合奏のための)」(バボラークによる弾き振り)、ミロシュ・ボクの「交響的黙示録」(山形交響楽団委嘱新作。関西初演)、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」

午後6時45分頃から、関西フィルを経て山形交響楽団事務局長に就任した西濱秀樹氏によりプレトークがある。西濱さんは今日もユーモアたっぷりのトークを披露。途中で大阪北部地震への山形からの義援金が送られたり、ゆるキャラが登場したりと色々ある。その後、指揮者のバボラークも山形県の法被を着て登場し、トークに参加した。

 

モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」序曲。
山形交響楽団は音楽監督である飯森範親の指揮でモーツァルトの交響曲全曲をレコーディングしており、モーツァルトに自信を持っている。HIPを援用した演奏で音色は美しいが、音の密度の薄さを感じるのは事実である。バボラークの指揮であるが、拍を刻むタイプの指揮であり、指揮姿が面白いタイプではない。演奏全体として焦点が定まっていない印象も受ける。

モーツァルトのホルン協奏曲第1番。山形交響楽団はこの曲でも美しい音を出すが、バボラークのソロが入ると次元が異なることがわかる。バボラークのホルンは芳醇にして典雅。やはり国際レベルの響きである。山形交響楽団も日本国内では戦えるが今のところそこまでという気がする。

 

シニガーリャの「ロマンス(ホルンと弦楽合奏のための)」。
レオーネ・シニガーリャはトリノ生まれのイタリアの作曲家。ユダヤ人家系に生まれ、ドヴォルザークに師事。ブラームスとも交遊した。ナチス・ドイツの台頭すると絶望を強め、創作意欲を失うようになったという。1944年、警察がシニガーリャの身柄を拘束しようと自宅に踏み込んだ際に心臓発作を起こして急死したという。
イタリア出身の作曲であるが、仄暗い曲調を持つ曲を書いている。なかなか充実した出来であるように思われる。バボラークと山響も優れた演奏を行った。

 

ミロシュ・ボクの「交響的黙示録」は、山形交響楽団の委嘱によって書かれた新曲である。これまで山形市で2回、酒田市で1回演奏されているが、山形県外でこの曲が演奏されるのは今日が初めてである。
ミロシュ・ボクはチェコの作曲家。1968年、プラハ生まれ。ピアノの神童であり、15歳でリサイタルを成功させる。作曲は独学で学んだそうだ。1986年に「ミサ・ソレムニス」を発表、大反響を得るが、当時のチェコスロヴァキア政府の勘気に触れ、発禁処分を受けた上で政府の監視下に置かれる。プラハ音楽院も退学になりそうだったが、チェコの著名な音楽家達の嘆願によってなんとかそれは免れた。ビロード革命によって自由の身となるとプラハ音楽院に戻り、指揮を学ぶと同時に作曲活動も再開。2020年の東京オリンピックで流れるチェコ国歌の編曲はボクが手掛けているという。

山形交響楽団は演奏時間15分ほどの曲を委嘱したのだが、ボクは気合いが入ったようで、35分の大作に仕上げた。
マイケル・ナイマン、ジョン・ウィリアムズといった現役の映画音楽作曲家の作品や、ストラヴィンスキーやラヴェルといった20世紀の大作曲家の作風からの影響が感じられる曲である。部分的に面白い部分はあるものの、やはり「長い」という気はする。一回聴いただけで判断を下すのは難しいが、今後も演奏され続ける作品かというと微妙な感じは受ける。CDでも聴いてみたい気はするが。

 

ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。
豊中市立文化芸術センター大ホールの音響であるが、やはり残響は短めで素直な音がするという印象は変わらない。そのためかちょっとしたミスでもはっきり聞こえてしまうという難点もある。山形交響楽団は飯森範親政権で大幅な実力アップに成功したが、関西や東京のAクラスのオーケストラに比べるとまだメカニック面での弱さがあるようだ。
比較的速めのテンポによる演奏。チェコ出身であるバボラークの思い入れの感じられる演奏だったが、オーケストラが中編成ということもあり、第4楽章の迫力などはもう一つだったように思う。

演奏時間が長いということもあって、アンコール演奏なしで終演。来場者全員に山形県名産の東根さくらんぼが贈られた。

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