« 観劇感想精選(368) 野田秀樹潤色 シルヴィウ・プルカレーテ演出「真夏の夜の夢」 | トップページ | コンサートの記(671) びわ湖ホール「室内楽への招待<ベートーヴェン生誕250年> 葵トリオ(ピアノ三重奏)」 »

2020年11月27日 (金)

観劇感想精選(369) 「獣道一直線!!!」

2020年11月21日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて観劇

午後6時から、ロームシアター京都メインホールで、「獣道一直線(じゅうどういっちょくせん)!!!」を観る。生瀬勝久、池田成志、古田新太からなるユニット「ねずみの三銃士」の6年ぶりの公演である。

Dsc_0285_20201128125601

ねずみの三銃士は、毎回、宮藤官九郎の脚本、河原雅彦の演出で公演を行っている。2004年の初公演「鈍獣」で宮藤官九郎が岸田国士戯曲賞を受賞し、3作目の「万獣こわい」は読売演劇大賞優秀作品賞を受賞するなど、評価も高い。2009年に三田佳子を主演に招いて話題を呼んだ「印獣」、2014年には夏帆がキーパーソンを演じた「万獣こわい」と5年おきに公演を行っており、「万獣こわい」の大阪公演のカーテンコールで生瀬勝久が、「また5年後にお会いしましょう」と語っていたが、ねずみ年に合わせたのかPARCO劇場のオープニングに合わせたのか、6年後の公演となった。

宮藤官九郎が脚本を手掛けたテレビドラマや映画には好きな作品がいくつもあり、俳優としても気に入っているのだが、劇作となるとなぜか外れと感じるものが多い。劇作家・宮藤官九郎とは余り相性が良くないようである。今回もロームシアター京都での公演でなかったら行かなかったと思うが、コロナの影響で今年はまだメインホールに入っていないため、なんとしてでも行ってみたかった。劇の内容は二の次である。

これまでポピュラー音楽用とオペラ公演用に適したホールがなかった京都。ポピュラー音楽の方は、「京都で公演を行いたい」と思うアーティストが多いということもあり、盛況であるが、オペラの公演は年に2回程度、今年は小澤征爾音楽塾が中止になったため高校生のためのオペラ鑑賞教室で「魔笛」が上演されただけ、演劇となると更に不振で良質の演劇が上演されることは極めて少ない。メインホールの場合は更に限られて、演劇の公演が行われたのは、ミュージカル「わたしは真悟」に続いて今回が2回目だと思われる。

ストレートプレーにキャパ2000はやはり多いようで、今回は1階席と2階席のみを利用しての上演である。

作・出演:宮藤官九郎、演出:河原雅彦。出演は、生瀬勝久、池田成志、古田新太、山本美月、池谷のぶえ。「ねずみの三銃士」公演に宮藤官九郎が出演するのは初となる。

一見、そうは見えないが、コロナ下における演劇を題材にした作品である。

ねずみの三銃士は犯罪を題材にしたホラーチックな作品を上演するのが常だが、今回も木嶋佳苗死刑囚が起こした「首都圏連続不審死事件」をベースに、上級国民という言葉を生んだ「東池袋自動車暴走死傷事故」、「常磐自動車道あおり運転殴打事件」(ガラケーで撮影を行うシーンあり)など、いくつかの犯罪事件の断片が鏤められている。

まず登場するのは三人の売れない俳優である。パニック障害を患う生汗勝々(なまあせかつかつ。生瀬勝久)、不安神経症レベルの心配症に悩んでいる池手成芯(いけでなるしん。池田成志)、アルコール中毒の古新田太(ふるあらたふとし。古田新太)である。生汗勝々は、日本版「アベンジャーズ」のオーディションだと聞いてこの場所に来たのだが、現れた女性審査員(ぱわ原雅ぴ子。演じるのは池谷のぶえ)の様子も見るからに変であり、戸惑う。実はコロナによって俳優は「不要不急」の仕事とされたため、福島県にある練り物工場で強制労働に従事させられることになり、障害を持つ三人が集められたのはそのためで、オーディションというのは罠だったのだ。

その福島県に住む苗田松子(なえだまつこ)という女性(池谷のぶえ)に不審の目が向けられていた。松子は出会い系サイトで知り合った三人の男性とつき合っていたのだが、そのうちの二人が不審死を遂げており、松子は多額の保険金などを受け取っていた。松子とつき合ったことのある男達の証言によると松子というのは「とにかくいい女」とのことだったが、実際は冴えない太めのおばちゃんである。

苗田松子の事件を取材しているドキュメンタリー映像作家の関(宮藤官九郎)は、妻のかなえ(山本美月)の協力を得て、松子の住む福島に取材に出掛けていた。かなえは、松子が開設していたブログの記事を読破するなど、松子に関するありとあらゆる情報を仕入れていた。そして二人でまず「魔性の女」という映像を作ったのだが、現れた松子は「魔性の女」のイメージとはほど遠い存在である。

かまぼこ工場で俳優を使った松子の人生の再現ドラマ制作が始まる。演じる俳優は当然ながら、生汗勝々、池手成芯、古新田太の三人である。三人はそれぞれ松子の被害者男性を演じる。実は関は自称「保守的」な映像作家で、フィクションについては懐疑的だった。松子の提案で再現ドラマを撮影することにはしたが、実は関の狙いは他にあった。

苗田松子であるが、アナグラムによる前田夏子などいくつかの偽名を使い分けていた。本名は松戸かなえ(松戸という役名は、木嶋佳苗死刑囚が最初の事件を起こした千葉県松戸市から取られたのだと思われる)。犯罪者ではあるが、自分を素材の何倍も魅力的な女に見せるという、俳優の素質にも繋がるものを持った人物である。

関の妻であるかなえも、名前が同じ松戸かなえにどんどん引き寄せられていく。
やがて池谷のぶえと山本美月は二人で一人のかなえ像として男達を魅惑するようになる……。

グロテスクなラストなど、いつも通りのホラーコメディ路線の作品ではあるのだが、実際に描かれているのは、演劇を「不急不要」と決めつけた人々への復讐である。昨日観た野田秀樹潤色の「真夏の夜の夢」もそうだが、今の時期にフィクションの必要性について語ることは極めて重要であり、新型コロナウイルスに罹患した宮藤官九郎がそのことについて何も触れない方が不自然である。
ねずみの三銃士の作品のうち、「鈍獣」は戯曲と映像を観たが、隠れたところで復讐劇が行われているという共通点がある。

正直、好きなタイプの作品ではないし、ヒロインの山本美月も弱いのだが、宮藤官九郎が語りたかったことは受け止めることが出来たように思う。

Dsc_0280

| |

« 観劇感想精選(368) 野田秀樹潤色 シルヴィウ・プルカレーテ演出「真夏の夜の夢」 | トップページ | コンサートの記(671) びわ湖ホール「室内楽への招待<ベートーヴェン生誕250年> 葵トリオ(ピアノ三重奏)」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 観劇感想精選(368) 野田秀樹潤色 シルヴィウ・プルカレーテ演出「真夏の夜の夢」 | トップページ | コンサートの記(671) びわ湖ホール「室内楽への招待<ベートーヴェン生誕250年> 葵トリオ(ピアノ三重奏)」 »