観劇感想精選(364) 「狂言 ござる乃座 in KYOTO 15th」
2020年11月3日 烏丸迎賓館通りの金剛能楽堂にて観劇
午後2時から、京都御苑の西、京都府立府民ホールアルティのすぐ北にある金剛能楽堂で、「狂言 ござる乃座 in KYOTO 15th」を観る。野村萬斎が主催する狂言公演「ござる乃座」の京都公演。今回で15回目となった。
ちなみに野村萬斎は、現在、Eテレの「100分間de名著『伊勢物語』」に朗読担当として出演しており、昨夜第1回が放送されている。
演目は、「清水座頭(きよみずざとう)」と「止動方角(しどうほうがく)」。共に京都を舞台とした作品である。
「清水座頭」の出演は、野村万作(座頭)と野村萬斎(瞽女)。
まず「この辺りに住まい致す瞽女」が登場する。3年ほど前から目が見えなくなり、生業を失い、夫もいないということで行く末を憂いて清水寺の観世音菩薩に参詣し、その夜は本堂に籠もることにする。
しばらくすると座頭がやって来る。座頭も清水寺の観世音菩薩に妻となるべき人に出会えないことを嘆き、妻ごいをする。
瞽女がいるとは知らず、本堂に籠もろうとした座頭は無遠慮に近づいたということで瞽女と喧嘩になるが、互いが本当に目が見えないと分かると謡を交わす。
やがて瞽女は、観世音菩薩から「西門のところで夫となる者と出会う」との託宣を授かり、座頭も「西門のところに妻となる女がいる」とのお告げを受ける……。
婚活の曲ともいわれ、ロマンティックな展開となるが、自ずから杖をついているのではなく、神仏によって杖で導かれているという浄土真宗的な解釈をするとロマンの度合いは更に増す。
謡であるが、恋路を扱った作品にしてはかなりナンセンスな言葉が選ばれており、源平合戦の一ノ谷の戦いで、で頤(おとがい。顎のこと)を切られた武者と踵(きびす)を切られた武者が、忙しいので慌てて切られた頤に切り落とされた踵を付け、傷を負った踵に切断された頤を付けると、踵から髭が生え、頤があかぎれになるという変なものである。よく分からないが、これは「割れ鍋に綴じ蓋」ということなのだろうか? 解釈せずに戯れ言として捉えた方が謡が生きるのかも知れないが。
瞽女の謡う「地主の桜」は、清水寺境内にある地主神社の桜のことであるが、この時代から地主神社が縁結びの神様として名高かったことが窺える。
「止動方角」。出演は、野村萬斎(太郎冠者)、野村太一郎(主)、深田博治(伯父)、飯田豪(馬)。
主が、東山での茶会(内容は茶葉の生産地を当てたり、品質を見抜いたりする闘茶)に参加することになるのだが、見栄を張るため、茶器や太刀や馬を伯父に借りてこいと太郎冠者に無理を言う。野村萬斎演じる太郎冠者は、「え゛?」と現代風にボケたりして、狂言を客体化し、主の無理難題っぷりを誇張する。こうした一種のパースペクティブは効果的であり、これが伏線となってラストでは、セリフが変わっておらず、演技や表情にも作為的なものは見えないのにニュアンスが変化しているような印象を受ける。
太郎冠者が活躍する「太郎冠者物」の傑作であるが、野村萬斎演じる太郎冠者の人間くささが実に良い。主という絶対的権力に媚びずに挑みかかる存在であり、私は余り見ていないが「半沢直樹」に繋がるような一種の爽快さを生み出しているように思われる。
ちなみにタイトルの「止動方角」というのは、後ろで咳をすると暴れ出すという馬を止めるときの呪文である。
演目終了後に野村萬斎からの挨拶がある。羽織袴姿で登場した萬斎は観劇が「勇気と覚悟が必要」なものになってしまったことを語ったが、一席空け(萬斎は「市松」と表現)にするなど感染症対策を十分に行った上での上演であること、15回目ということで盛大にやりたかったが、演目も登場人物の少ないものを選んで、接触をなるべく減らしていることなどを語った。
「清水座頭」については、「座頭が卒寿、瞽女が五十代半ばということで年の行ったカップル」と表現して笑いを取る。
「止動方角」で見られるように、狂言は身分の高い人が酷い目に遭うことが多いのだが、能・狂言は、室町幕府、豊臣政権、江戸幕府、朝廷が公認し、後ろ盾となってきた芸能であり、「一種のガス抜き効果」があったと萬斎は解釈を述べる。
ちなみに、今回の上演は有料配信用の収録が行われ、特別解説付きで11月13日から期間限定で配信されるが、午前中に解説用の映像を撮るために清水寺に行ってきたそうで、西門から見る京都市街とその向こうの西山に落ちる夕日に極楽浄土が見立てられているという話をしたが、それも有料配信用の宣伝であり、続きは配信でということのようである。
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