コンサートの記(671) びわ湖ホール「室内楽への招待<ベートーヴェン生誕250年> 葵トリオ(ピアノ三重奏)」
2020年11月22日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホールにて
午後2時から、びわ湖ホール大ホールで、「室内楽への招待<ベートーヴェン生誕250年> 葵トリオ(ピアノ三重奏)」を聴く。オール・ベートーヴェン・プログラム。
2018年にミュンヘン国際音楽コンクール・ピアノ三重奏部門で第1位を獲得した葵トリオ。秋元孝介(AKIMOTO Kosuke)、小川響子(OGAWA Kyoko)、伊東裕(ITO Yu)という、関西の生まれ育ちで東京藝術大学および同大学院出身の3人が結成したピアノ三重奏団である。団体名は、各メンバーのイニシャル(A,O,I)から取られており、葵の花言葉である「大望、豊かな実り」への共感も込められている。トリオとしては現在、ミュンヘン音楽・演劇大学で、フォーレ四重奏団のディルク・モメルツに師事。ピアノの秋元孝介は東京藝術大学の大学院博士後期課程でも学んでおり、ヴァイオリンの小川響子は、ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーに在籍し、ベルリン・フィル・コンサートマスターである樫本大進の指導を受けている。チェロの伊東裕は、長岡京室内アンサンブル、小澤征爾音楽塾オーケストラや日本各地で行われる音楽祭に参加している。
ベートーヴェンの生誕250年を記念して開催される演奏会であるが、コロナ対策として会場を大ホールに変更し、前後左右最低1席空けたソーシャルディスタンスフォーメーションで行われることになった。
びわ湖ホール大ホールは、オペラ、バレエ、オーケストラコンサート、ピアノリサイタル、ポピュラー対応であり、室内楽のコンサートは余り想定されていないが(それでも神尾真由子のヴァイオリン・リサイタルなどは行われている)、音響は優れており、室内楽であっても音が小さくて聴き取りにくいということはなかった。
曲目は、ピアノ三重奏曲第4番「街の歌」、ピアノ三重奏曲第2番、ピアノ三重奏曲第7番「大公」。
ピアノ三重奏曲第4番「街の歌」は、1797年頃の作品。ベートーヴェンがまだ二十代だった時期に書かれている。
ベートーヴェンというと後年の深刻な作風のイメージが強いが、この作品は青春の息吹に満ちており、瑞々しい響きとチャーミングな旋律が印象的である。
若い三人による演奏であるが、アンサンブル能力とキレが抜群で、上質の音楽が奏でられていく。
ピアノ三重奏第2番。作品番号は1の2であり、ベートーヴェンが出版した最初期の作品である。1795年にウィーンのアルタリア社によって作品番号1の2として出版されており、作曲は1794年から1795年にかけてと推測されている。
「音楽の革命児」ベートーヴェンであるが、才能に任せて思いつきで作曲したり、先人の作品を否定したりということはなく、むしろ先輩の作曲家達が残した作品を入念に研究し、取り入れていることがこの作品を聴くとよく分かる。古典的な造形美が輝きを放っているが、ベートーヴェンの個性も十分に刻印されている。
後半。ピアノ三重奏曲第7番「大公」。ピアノ三重奏曲というのはクラシックの中でも地味なジャンルとなり、「聴いて楽しむ」というよりも「弾いて楽しむ」作品が多いが、「大公」はこのジャンルの中では比較的ポピュラーな作品である。
前半はターコイズブルーのトップスと黒のパンツスタイルで演奏していた小川響子であるが、「大公」では鮮やかな水色のドレスで登場。小川が現れた瞬間に、客席から感嘆が響く。
スケール豊かにして緻密な演奏。秋元のピアノの音色は時にお洒落であり、切れ味鋭い小川のヴァイオリンや安定感抜群の伊東のチェロと共に詩情豊かな文学青年的ベートーヴェンを聴かせる。
アンコール演奏は、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番より第4楽章。演奏前に小川響子がマイクを手に挨拶し、今日が全国ツアー最後の演奏会であること、室内楽の演奏がこれほど大きな空間で行われることは少ないが、響きの良さに感動したこと、また葵トリオはピアノ三重奏曲第1番をレコーディングしており、会場のロビーでも販売されていることなどを述べた。
ピアノ三重奏曲第1番もやはり緻密な演奏である。親密(インティメート)であるが、優れた団体ならではの高雅さを合わせ持つ。
若い人達による演奏ということで、やはり感性がデジタル寄りであるということが感じられる。3人がそれぞれの個性を持ち寄って流れを作るというより、3人が一体となって音楽を奏でるような感覚、逆に言うならば架空の1つの人格が3つに分かれて、複数のことを同時並行的に成し遂げていくような独特の感覚が特徴である。
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