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2020年11月 1日 (日)

これまでに観た映画より(224) 「陽の当たる場所から」

2006年6月7日

DVDでアイスランド映画「陽の当たる場所から」を観る。ソルヴェイグ・アンスパック監督(男性です)作品。ソルヴェイグ・アンスパックはパリ大学文学部(ソルボンヌ大学)で哲学を学び、その後、フランス国立高等映像音響学校に第一期生として入ったという経歴の持ち主。
主演はエロディ・ブシェーズで、彼女もパリ大学の出身である。

フランスのとある精神病院。素性の全くわからない、自分の名前も憶えていないし、口もきけないという謎の中年女性(ディッダ・ヨンスドッティル)が入院している(2006年当時に話題になっていた「ピアノマン」みたいである)。彼女を担当するのは医学部を出たばかりの若い女医、コーラ(エロディ・ブシェーズ)。

ある日、謎の女性患者と森に散歩に出かけたコーラは、口のきけない女性が道に迷ったと思い込んで「コーラ!」と泣き叫ぶのを目にする。謎の女性の病状が回復しつつあると思うコーラ。しかし、ほどなく謎の女性の正体がわかる。アイスランドの孤島出身の女性で、これまでも何度か失踪事件を起こしているという。そして謎の女性ことロアは、コーラの知らない間にアイスランドに強制送還になっていた。彼女の病気を治したいと思うコーラはアイスランドへと渡る……。

製作に「息子のまなざい」のダンデルヌ兄弟が名を連ねており、音楽や音の使い方はキェシロフスキ監督のそれを思わせるという、ヨーロッパ芸術映画の王道を行く作品である。

ロアを演じるディッダ・ヨンスドッティル(1964年生まれ)は本業は詩人で、演技をするのはこれが初めてだそうだ。

子供の頃からロアを知っているアイスランドの人々の証言から、ロアの病気はどうやらアスペルガー症候群(現在の区分ではASDとなっている)らしいことがわかる。アスペルガー症候群は完治することはない病気である。しかしコーラはロアの病気を治したいという一心で、何とロアをフランスに連れて戻ろうとする。しかしそれは成功せず、ロアと気持ちが通じ合ったのかどうか微妙ながら、おそらく通じたであろうという思いを胸にフランスに帰国する。

「陽の当たる場所から」という牧歌的なタイトルがついているが、原題は「Stormy Weather(暴風雨)」であり、ロアの内面や、最初はクールに見えたコーラの激しい胸の内を表したものである。これがなぜ「陽の当たる場所から」などという呑気なタイトルになってしまったのかは不明。

ロアのことを気遣うコーラの気持ちは痛いほどわかるが、同時に医学を信じすぎ、自分が救世主になりうる、もしくは自分しか救世主になり得ないという思い込みと、ある種の傲慢さが出ている。アイスランドに来るべきではなかったと知り、フランスに帰るコーラの姿が敗残者のように映るのはそのためであろう。

優しさと残酷さ、温かなヒューマニズムと冷徹な現実、両方を描いた作品であり、傑作とは呼べないかも知れないが、観て色々と考えさせられる映画であった。

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