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2020年11月12日 (木)

コンサートの記(667) 沼尻竜典指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2020「オーケストラを聴いてみよう!」第3回「オーケストラ・オリンピック!~主役はだぁれ?」

2020年11月8日 京都コンサートホールにて

午後2時から京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2020「オーケストラを聴いてみよう!」第3回「オーケストラ・オリンピック!~主役はだぁれ?」を聴く。指揮は京都市交響楽団にもたびたび客演している沼尻竜典。ナビゲーターを務めるのはガレッジセール。

オーケストラ・ディスカバリー2020の第3回目であるが、新型コロナの影響により第1回目は中止、第2回目も指揮台に立つ予定だったジョン・アクセルロッドが外国人入国規制により来日出来なくなったため広上淳一が代役を務めるなど波乱含みのスタートとなっている。第3回目は予定通り沼尻竜典の指揮で行われるが、曲目は変更になっている。

ほぼ完売状態だったシリーズチケット(4回通し券)を全て払い戻し、前後左右1席空けのソーシャルディスタンス対応1回券再発売となった今年のオーケストラ・ディスカバリー。ナビゲーターがポディウムに立って進行を行うため、ポディウム席と2階ステージサイド席の奥側は未発売、通常は自由席となる3階席も前後左右1席空けの指定席となっている。

 

今日は1階席17列の18番という、通常なら1階席の中でも最も良い音のする席の一つで聴いたのだが、聴衆が通常の半分以下、配置も不自然ということで残響過多であり、アンサンブルが粗く聞こえるという難点があった。やはり聴衆が隙なく席を埋めているというのは重要なようだ。

 

曲目は、ビゼーの歌劇「カルメン」前奏曲(「闘牛士」の前奏曲のみ)、ラヴェルの「ツィガーヌ」(ヴァイオリン独奏:豊嶋泰嗣)、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」から第3楽章、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版。演奏前に沼尻竜典によるレクチャー付き)。

びわ湖ホールの芸術監督として関西でもお馴染みの沼尻竜典。指揮以外にピアニストとしてもCDデビューしたり、作曲したオペラ「竹取物語」が高い評価を受けるなど、多彩な活躍を見せている。2022年4月からは、川瀬賢太郎の後任として神奈川フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任する予定である。今日は眼鏡を掛けての登場。

今日のコンサートマスターは、京響特別名誉コンサートマスターである豊嶋泰嗣。第2ヴァイオリンの客演首席には大阪交響楽団コンサートマスターである林七奈(はやし・なな)が入る。泉原隆志は、豊島がヴァイオリンソロを務める「ツィガーヌ」だけコンサートマスターを務め、その他はフォアシュピーラーを受け持つ。フルート首席の上野博昭とファゴット首席の中野陽一朗は降り番。首席クラリネット奏者の小谷口直子、首席オーボエの髙山郁子、ホルン首席の垣本昌芳は全編に出演する。トランペット首席のハラルド・ナエスは「火の鳥」だけに出演。ドイツ式の現代配置による演奏である。

 

ビゼーの歌劇「カルメン」前奏曲は快速テンポでの演奏。通常の京都コンサートホールでならシャープな演奏に聞こえたと思われるが、前述した理由により残響過多であるため、ガサガサした響きとなってしまっていた。

 

ガレッジセールの二人が登場し、テーマが「オーケストラ・オリンピック~主役はだぁれ?」で、オリンピックのように誰が主役かを決めるものだと説明。そもそもオリンピックって主役を決めるものだっけ? という疑問は置くとして、コンサートには主役が一杯いて、ソリストだけでなく、オーケストラメンバーも、客席のみなさんも主役という説明を行う。

川田 「じゃあ、我々も主役ということで良いんですね?」
ゴリ 「あらら」

という話になるが、場面転換のためヴァイオリン奏者が退場したりするのを見てゴリが、「随分、抜けちゃってますけれど、骨粗鬆症のような」とボケる。
今日はハープがヴァイオリンソロのすぐ後ろに来て弾くのだが、ハープを一人で担いで運んでいたステージマネージャー(京響の場合は日高茂樹)の話になる。川田が「我々にもマネージャーがいますけれど、縁の下の力持ちのような」と述べ、沼尻が「45キロあるハープを一人で運ぶので力持ち。ただ、それだけじゃない。コントラバスの後ろの方から指揮者がちゃんと見えるか確認したり、音楽のセンスもいる。我々もステージマネージャーがいないと演奏出来ない」という意味のことを語っていた。

 

豊嶋泰嗣がソロを務めるラヴェルの「ツィガーヌ」。カルメンがジプシー、「ツィガーヌ」もジプシーの音楽ということで、ジプシー繋がりである。なお、現在ではジプシーという言葉は差別語の一つとなっているため、無料パンフレットにも「ロマ(ジプシー)」とロマを先に出し、ジプシーはその説明語となっている。

ゴリが、「あれれ変ですよ、豊嶋さんはコンサートマスターですよね。コンサートマスターがソリストになることってあるんですか?」と聞き、沼尻は、「そう珍しいことじゃない。でもコンサートマスターが全員ソリストが出来るわけじゃない。出来る人と出来ない人がいる」と返し、
ゴリ 「プレッシャー掛けますね」
川田 「豊嶋さん、段々苦笑いになってきましたよ」

というやり取りの後で演奏開始。コンサートマスターがソロをやると、本当に「コンサートマスターがソロをやってます」という音楽になってしまうことも多いのだが、豊嶋はソリストの経験も多いだけに、技巧やスケールのきっちりと計算された妙演を聴かせる。

 

チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」から第3楽章。
豊嶋泰嗣がコンサートマスターの席に戻っているのを見てゴリが、「豊嶋さん、またコンサートマスターに戻りましたね」
沼尻 「普通はソリストをやるときは前半休みになったりするんですが、今日は全部出て貰ってます」
ゴリ 「ブラック企業へようこそ」

チャイコフスキーは21世紀に入ってから最も演奏解釈の変わった作曲家と見て間違いない。ソ連時代は情報統制によって西側には伝わらなかった様々な資料が、ロシアになってから次々と公になっていることも当然ながら影響している。
「悲愴」交響曲についても沼尻は、「以前は景気が良いので、全曲終わったと勘違いして、お客さんが拍手したり、『ブラボー!』と言ったりすることも多かったのですが」と語るが、沼尻本人は「狂気を感じる」「怖い」と思うそうである。「企画の方から、『格好いい曲をやって下さい』と言われたので選んだんですが、格好いいことは格好いいけどそれだけじゃない」

沼尻は、「悲愴」交響曲自体が、第1楽章も変だし、第2楽章は「4分の5拍子によるワルツでこれも変、狂気を感じる」、第3楽章を経て第4楽章も他に例のない音楽で死に絶えるように終わるという、異例ずくめの作品であることを語る。
今日は第3楽章のみの演奏ということで、演奏終了後に「拍手をしてもブラボーしても、ブラボーはまだ駄目なんですけど(コロナ対策として劇場内で大きな声を出すことは禁止である)良い」と語り、最後に「弦楽器と管楽器の追いかけっこ」を聴いて欲しいと述べた。
ガレッジセールの二人は退場しようとしたが、沼尻が「良かったら聴いてって」と言ったため、ポディウムに腰掛けて(今日は座椅子は取り払われている)聴くことになった。

「悲愴」の第3楽章は、弦楽器が先に出て、管楽器がそれを追うような形になっているところが多い。曲調は明らかに行進曲で、交響曲の中に行進曲が入るケースはベートーヴェンの「英雄」など、いくつかあるが、チャイコフスキーとしてはベルリオーズの幻想交響曲を意識しているのではないかと思える箇所がいくつかある。
堂々とした進行だが、所々でベートーヴェンの運命動機を思わせる「タタタターン」という音型が前を遮る。演奏会場では録音ほどはっきりと運命動機は聞こえないのだが、管楽器が弦楽器を追い抜いてハッキリと運命動機を奏でる場面があり、ゾッとさせられる。
フォルムで聴かせるタイプの沼尻竜典。整った外観を時折荒々しくすることでチャイコフスキーの狂気を炙り出している。

 

休憩を挟んで後半、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)の沼尻によるレクチャーと本番。

まずナビゲーターのガレッジセールがポディウムに登場し、ゴリが、「前半、色々と驚くことがあったと思いますけれど、何よりも驚いたのは、本番前に楽屋にご挨拶に伺ったところ、沼尻さんから『えーっと、どちらがゴリさんで、どちらが川田さんでしょう?』と聞かれたことです」
川田 「テレビとか見ないんですよ。ずっと音楽やってるから」
ゴリ 「我々も沼尻さんから、どちらがどちらかわかって貰えるよう、頑張りたいと思います」

沼尻がレクチャーで話す時間が長いというのでマスクをして登場し、まずガレッジセールの二人に、「先程は失礼しました」と詫びる。

沼尻によるレクチャーであるが、バレエ「火の鳥」の物語を京響に部分部分演奏して貰いながら解説するというスタイルである。冒頭を演奏した後で、大太鼓だけにトレモロを弾いて貰ったり、火の鳥の羽ばたきを表すところで振り向いて、右手をバタバタさせたりと、ユーモアにも満ちた分かりやすい解説が続く。ちなみにその直後のクラリネットのソロは火の鳥が「呼んだ?」と言って振り向くという解釈だそうである。
「13人の王女を描いた場面では」「13人の綺麗な王女、綺麗かどうかはわからないんですが」と言って笑いを取っていたが、京響に演奏して貰ってからは、「こういう音楽だからやはり綺麗なんでしょうね」と結論づけていた。
特別首席チェロ奏者の山本裕康の美しいチェロのソロがあると紹介したり(山本、かなり照れ気味)、ファゴットのソロがあるところでは、副首席奏者で今日はトップの位置にいる東口泰之にファゴットを掲げて貰ったりする。

バレエ組曲「火の鳥」全編の演奏。リューベック歌劇場音楽総監督を務め、オペラ、バレエといった舞台音楽の経験も豊富な沼尻。手慣れた演奏を聴かせる。パワー、輝き、瞬発力などいずれも狙った所に嵌まっていくような爽快さがある。

「全員が主役」ということではあるが、沼尻は、ソロを取った東口には演奏終了後に特別に立たせて拍手を受けさせ、山本の方にも手をかざした。

 

アンコール演奏は、ビゼーの「アルルの女」より“ファランドール”。堂々として推進力に富み、スケール豊かにして熱狂的な演奏。南仏を舞台にした作品ということで特別に用いられているプロヴァンス太鼓を演奏した福山直子が喝采を浴びていた。

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