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2020年12月 3日 (木)

観劇感想精選(371) 「開放弦」

2006年8月3日 シアター・ドラマシティにて観劇

大阪のシアター・ドラマシティで「開放弦」を観る。ペンギンプルペイルパイルズの倉持裕:作、G2:演出。出演は水野美紀、大倉孝二、丸山智己、京野ことみ、河原雅彦、犬山イヌコ、伊藤正之。

東京から電車で2時間ほどの距離にある、とある農村。遠山(丸山智己)と恵子(旧姓:伊沢。水野美紀)の結婚式があった。二人は中学時代の幼なじみ。しかし互いのことを、「遠山君」、「伊沢」と呼ぶ妙な夫婦には当然裏があった。遠山の元彼女で同じバンドのメンバーである依代(京野ことみ)は二人の結婚に不快感を示し、同じくバンドメンバーの門田(大倉孝二)は猛反対したのに二人が結婚してしまったことに腹を立てている。
彼らが住む農村では、カモ農法といって、鴨を田んぼで飼い、雑草や害虫を食べさせ、またフンを肥料にするという農法を行っていた。カモ農法を取り入れることを提言したのは遠山で、最初は大成功したのだが、ある時から「食いしん坊」とあだ名される稲まで食べてしまうカモが現れ、繁殖したため、遠山は農村の皆から責められ、多大な借金を負うことになってしまっていた。

ある日、その農村に進藤(河原雅彦)、素江(犬山イヌコ)という漫画家夫婦が取材のためにやって来る。物語は、遠山の家の前で素江の運転する車が一羽の鴨を轢いてしまうことから始まる。遠山と恵子の結婚式の日であり、遠山の家には二人の結婚に立腹して式と披露宴を欠席した依代が一人で勝手に上がり込んでいた。轢いてしまった鴨が遠山の家で飼われているものだと勘違いした素江は依代に謝っている。
遠山、恵子、門田が披露宴を終えて帰ってくる。門田は当然不機嫌だ。

遠山、門田、依代がやっているバンドがネット配信した曲が爆発的にヒットし、ダウンロード料により1億円もの収入が見込めることがわかる。しかし、遠山と恵子はあること(芝居が進むに連れて何なのかわかるようになる)で大喧嘩してしまい、カッとなって家を飛び出した遠山は 江が運転していた車に轢かれて右手が不自由になってしまう。バンドの曲を作っていたのは遠山。しかしギターで作曲していた遠山はもうギターを弾くことが出来なくなる……。


まずは芝居の雰囲気に惹かれる。しっかりした脚本と演出により東京近郊の農村でのドラマがきちんと描かれる。出演者の演技も良い。水野美紀は舞台は4度目で現代物は初めてだということだが、演技の質は高く、またその場にいるだけで観る人を惹きつける力がある。
大倉孝二と犬山イヌコの「ナイロン100℃」コンビもいい味を出しており、丸山智己も格好いい。
京野ことみの演技はリアリティが今一つだが、まあいいだろう。

あらゆることが語られるのではなく、仄めかしに終わることも多いのだが、想像すれば大体のことはわかる。また、ヒントが徐々に与えられてわかりやすくもなる(進藤を演じた河原雅彦は以前、「徐々にわかっていくタイプの芝居は好きじゃない」とインタビューで語っていたはずだが、それは自分が書いたり演出したりする舞台のことなので、出演者として参加するぶんにはいいのだろう)。

人物設定も細かく書かれているのがわかる。特に遠山と恵子は中学時代からこれまでどのような人生を歩んできたか、こと細かく設定されているようで、偽装夫婦である彼らが互いに惹かれ合っていく心理描写にそれは生かされている。しかし、ラスト付近は作家が自らが設定した人物の性格に振り回されてしまった感あり(あとでパンフレットを読んでわかったことだが、倉持は普段は人物設定はフラットにし、流れを重視して書くタイプであるようだ。「10年ぐらい前、戯曲を書き始めときには〔人物〕履歴もある非常にリアルな話を書いていたんです。でも資料を集めたり、一人一人のことを考えてそれに縛られて書くのがつまらなくなった時期があって。そこから勇気を持って、何も決めないで書き始めたんです」“『開放弦パンフレット』、「G2×倉持対談」より。〔〕内は引用者による補足説明”と倉持は語っている。しかし今回はG2の要望により人物履歴を細かく決めて書いたそうだ。それが裏目に出たようである)。

遠山は車に二度も轢かれるのだが、一歩間違うとギャグになってしまう可能性はあった(芝居の雰囲気からして失笑がもれることはないと思うが)。また車に轢かれるという設定を二度も使うというのは最終場に持ち込む解決法としてある意味狡く、また拙いと思う。

途中までが良かっただけに最終場のイージーさは残念であった(ラストのラスト、恵子が開放弦のまま、たどたどしくギターを弾くところは良かったのだけれど)。

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