森山開次:演出・振付・出演「星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙―」
2020年12月6日 京都芸術劇場春秋座にて観劇
午後2時から、京都芸術劇場春秋座で、森山開次:演出・振付・出演による「星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙―」を観る。サン=テグジュペリの代表作で舞台化されることも多い「星の王子さま」をダンス公演として上演するという試み。原作は小説であるため、言葉を使わずに上演することは難しいのだが、象徴的な場面を連続させるという絵巻物風手法で、この大人のための童話を描き出す。哲学性を語る限界はあり、ビジュアルでの勝負となるが、「星の王子さま」の鍵となる想像力を駆使する楽しさはある。
出演は、森山開次の他に、アオイヤマダ、小尻健太、酒井はな、島地保武、坂本美雨、池田美佳、碓井菜央、大宮大奨(だいすけ)、梶田留以、引間文佳(ひきま・あやか)、水島晃太郎、宮河愛一郎。
音楽:阿部海太郎(うみたろう)。演奏:佐藤公哉、中村大史(ひろふみ)。美術:日比野克彦、衣装:ひびのこずえ。KAAT 神奈川芸術劇場の制作である。
第1幕が11、第2幕が13のシーンに分かれている。
まず幕が上がると、坂本美雨演じるコンスエロ(サン=テグジュペリの妻である)が舞台中央にしゃがみ込み、音楽に合わせて手をくゆらせながら踊っている。背後には半円形のセットが置かれ、他の出演者達がセットの裏にある階段を上手側から登り、下手側へと降りる。坂本美雨は全編に渡ってヴォーカルを担当。歌詞のないヴォカリーズのものが多いが、たまに歌詞も登場し、進行役も受け持つ。美声であり、聴いていてとても心地良い。
飛行士役の小尻健太が現れ、他のダンサーと共に踊る。ダンサーが手足を高く上げる兵隊の歩き方を真似るシーンがあり、戦争が暗示される。やがて頭にライトを付けたダンサーが現れ、夜間飛行に入ったことを告げる。そして飛行機はサハラ砂漠へと不時着する。
猫のような格好をした王子さま(アオイヤマダ)が現れ、羊の絵を描いてくれるよう飛行士に頼む(「羊、シープ」というセリフは坂本美雨が手掛ける)。
飛行士は、紙で作られたミニチュアの飛行機をペン代わりにして描いたり綴ったりといった行為を行う。箱入り羊は穴が空いた布製(だと思う)の箱を使って表現される。
月が現れると共に、音楽はケルティクなものへと変わっていく。阿部海太郎は、「地中海沿岸の音色を集め」たと語るが、シャンソン、スパニッシュといった地中海に面した国の音楽の他に、オーストリアの民族音楽風のものが登場したり、マイケル・ナイマンを思わせるイギリス風のミニマルミュージックが流れたりと、幅広い作風の音楽が奏でられる。
渡り鳥は風船を巨大な袋で束ねたもので表される。「星の王子さま」の口絵がヒントになっていると思われる。
王子さまが星を出るきっかきを作ったバラは日本を代表するバレエ&コンテンポラリーダンサーの一人である酒井はなが踊っている。バレエの技巧を生かしたダイナミックにして可憐な舞である。バラはまず王子さまとパドドゥを踊った後で、飛行士ともパドドゥを行う。
第2幕冒頭では、王子さまが地球に辿り着くまでの遍歴がシーンごとに描かれる。自己中心的で尊大な王様、うぬぼれ屋(ここでスペイン風の音楽が流れる。「りょう手で、ぱちぱちとやってみな。」(大久保ゆう訳「あのときの王子くん」青空文庫)や「手をたたくんだよ」(河野万里子訳。新潮文庫)という言葉で表現される強制された称賛の拍手はフラメンコの手拍子に置き換えられている)、呑み助、実業家、点灯夫、地理学者。彼らは人間の典型例なのだが、その性質をダンスのみで描くのはやはり難しいように思われた。
賢者であるキツネは、着ぐるみではなく、尻尾だけを付けた島地保武が踊る。優れた跳躍力がいかにもキツネらしい。
ラストは、しゃがみ込んで手を広げた飛行士の後ろで、バラがルルベを行いながら回転しているところで幕となる。バラは女性の象徴である(妻のコンスエロがモデルという説がある)と同時に、自分が最も大事にしたいと思いながら手放してしまったものを表している。それが何かは各個人によって異なるが、「帰るべき場所」「想像力のない者には理解し得ない聖域」の象徴としてすっくと立ち続ける酒井はなの姿はその象徴として鮮やかに映った。
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