観劇感想精選(378) 二兎社 「書く女」2006(初演)
2006年10月21日 大阪・茶屋町のシアター・ドラマシティにて観劇
大阪へ。午後6時よりシアター・ドラマシティで二兎社の公演「書く女」を観る。永井愛:作・演出。明治の女流作家・樋口一葉の話である。
永井愛さんは会場にいらっしゃっていて、休憩の合間に臨時サイン会なども行っていた。また客席には岩松了の姿もあった(ピッコロ劇団の演出を担当するので現在は関西にいるのだろう)。
休憩15分を含め3時間10分の大作。出演は、寺島しのぶ、筒井道隆、粟田麗(あわた・うらら)、江口敦子ほか。
障子や格子をモチーフにした巨大なセットがまずは印象的である。
樋口一葉こと樋口夏子(寺島しのぶ)が、作家・半井桃水(なからい・とうすい。筒井道隆)のもとを訪れる場面から始まる。長兄が若くして亡くなり、次兄はどこへともなく去り、姉はよそへ嫁ぎ、父親が死去。かくして若くして女戸主となってしまった樋口夏子。母と妹と三人暮らしだが、これではとてもやっていけないので小説を書くべく、半井桃水に弟子入りしたのだった……
今では一葉の師としてしか名前の残っていない半井桃水であるが、筒井道隆をキャスティングしているだけにかなりの好人物として描かれている。
一葉が通う歌塾「萩の舎(はぎのや)」の先輩で女流作家の魁となった田辺龍子(たなべ・たつこ。筆名は田辺花圃と書いて「たなべ・かほ」。石村実伽)、一葉の親友で同じ夏子という名前であることから「い夏」と呼ばれる伊東夏子(粟田麗。ちなみは一葉は「ひ夏」と呼ばれている)、一葉に半井桃水を紹介した野々宮菊子(江口敦子)、半井桃水の妹である半井幸子(なからい・こうこ。小澤英恵)、一葉最大の理解者といわれた斉藤緑雨(さいとう・りょくう。向井孝成)、一葉の小説に最初に注目した平田禿木(ひらた・とうぼく。中上雅巳)、一葉文学の研究者となった馬場孤蝶(ばば・こちょう。杉山英之)、泉鏡花と並び称されるほどの名声を得ながら39歳で自殺した川上眉山(かわかみ・びざん。細貝弘二)など、個性溢れる人々によって織りなされる明治文壇記(それにしても読みにくい名前の人が多いな)。
生活苦に喘ぐ樋口家の人々や、文学への希望に燃える人々、また文学に敗れる人々などが真摯な眼差しで、しかしユーモアも持って描かれる。
樋口一葉の半井桃水への思い。また、その創作が「感性」や「共感」からというよりも、「業」もしくは「怨念」のようなもの(日本語には適当な言葉が見つからない。韓国語の「恨(ハン。激しい心の動きを指す)」という言葉が一番合うかも知れない)に根ざしたものなのではないか、という解釈が目新しい。
脇役陣が演技はなかなか達者ながら個性に欠けるのがウィークポイントだが、見応えはあった。永井愛の微妙にテーマをスライドさせるやり方はいつもながら巧い。
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