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2020年12月 3日 (木)

観劇感想精選(372) 少年王者舘 「イキル IKILL」

2006年8月5日 大阪・なんばの精華小劇場にて観劇

大阪の精華小劇場で、名古屋の劇団である少年王者舘の「イキル IKILL」を観る。天野天街:作・演出。タイトルは一目見ればわかる通り、「生きる」と、英語の「I KILL(私は殺す)」を掛けたものだ。

イチロウ(この劇では複数の登場人物がイチロウもしくは一郎を名乗る)という男性の意識を巡る演劇。現実と夢と妄想、現世と黄泉の国など、世界とその重みが一瞬にして入れ替わるイリュージョンだ。

時間にズレが生じており、演劇内の時間と戯曲内の時間、劇場内の現実時間などが平行したり逆転したりする。
井村昂演じるイチロウが後ろにある扉を開けると、そこでは別の俳優達が数シーン先の場面を演じている、といった具合だ。

例によって、劇が始まる前の影アナから仕掛けがある。「携帯電話の電源を『切る』ようお願いします」と、「切る」が強調されているのがまず笑える。そして、このアナウンスはその後何度も出て来て、劇はその度に「劇構造以前」に戻るのである(大阪の劇団である桃園会が「もういいよ」という劇でこの手法を真似たことは以前書いた)。

俳優陣による、お馴染み、ダンス・フーガとダンス・ループもあって楽しめる(それがどういうものなのかは実際に劇場に足を運んで、ご自分の目でお確かめ下さい)。

これもお馴染み「スケーターズ・ワルツ」(ワルトトイフェル作曲。少年王者舘はこの曲をテーマ曲としている)に、『世界残酷物語』のテーマ曲である「モア」を重ねた音楽が用いられているのだが、これが不思議に合う。

演劇よりも「戯曲」や「俳優」が前面に出てくる場面や、映像や文字の遊びもあり、今回も刺激的であった。普通にしていては見えない世界が、この芝居の中では見える。

 

終演後、小堀純さんの司会により、天野天街と維新派の松本雄吉によるトークがある。
天野天街の遅筆は有名で、天野はそのために活動を休止したこともあるのだが、「イキル IKILL」も筆は遅れに遅れ、先に行われた名古屋公演の初日の時点で何と半分も書けていなかったそうだ。そのため、名古屋公演の上演時間は45分足らずだったという(大阪公演の上演時間は約2時間であった)。ということで、「(地元である)名古屋の皆さんには申し訳ないことをした」と天野が反省の弁を述べた。
その他は、大抵がお馬鹿な笑い話。天野天街は見た目からして風変わりだが、松本雄吉も相当な変わり者である。

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