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2020年12月22日 (火)

コンサートの記(673) ダン・タイ・ソン ピアノリサイタル2006京都

2006年10月18日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで、ダン・タイ・ソンのピアノリサイタルを聴く。

ダン・タイ・ソンは1958年に当時の北ベトナム・ハノイに生まれたピアニスト。彼が2歳の時にベトナム戦争が勃発。若きダン・タイ・ソンは防空壕の中で紙に書かれた鍵盤を弾くことでピアノの練習を続けたという。ハノイ音楽学校を経てモスクワ音楽院に留学。1980年のショパン国際ピアノ・コンクールで東洋人として初めて優勝し、話題となった。しなやかな音楽性を持ち味とするピアニストで、ショパン弾きとして日本では人気が高いが、欧州での評価はそれほどでもない。
1980年のショパン国際ピアノ・コンクールでは、優勝したダン・タイ・ソンよりも、予選落ちしたイーヴォ・ポゴレリチが話題を集めたということもある。ポゴレリチが本選に残れなかったことで、審査委員の一人であったマルタ・アルゲリッチは激怒。「彼(ポゴレリチ)こそが天才なのに!」という言葉を残して審査員を降り、ポーランドを後にするという事件があった。

プログラムは前半がチャイコフスキーの「四季」。後半がショパンのバラード第1番~第4番。

チャイコフスキーの「四季」は、出版社から「月刊誌にピアノ曲を毎号1曲ずつ載せたい」という依頼を受けて書かれた全12曲からなる作品。チャイコフスキーも軽い気持ちで書いたいわれ、そのためかどうか有名曲であるにもかかわらず評価は低めで、全曲を入れたCDも少ない。「6月 舟歌」と「11月 トロイカ」はよく知られた曲で、ピアノ小品集のCDによく入れられている。
私個人は「四季」というピアノ曲集は好きで、高校生の頃から良く聴いていた。「舟歌」や「トロイカ」の他にも「5月 白夜」などが好きである。正直言って今日は、チャイコフスキーの「四季」が全曲演奏されるというので聴きに来たようなものだ。

ダン・タイ・ソンの弾く「四季」は甘さを抑え、詩情や物語性よりも技巧を優先させたものだった。「舟歌」ではもっと歌心が欲しいし、「白夜」も幻想味に欠けるきらいがある。曲によってはテクニックを前面に出してバリバリ弾いていたが、「リストじゃないんだからそんな豪快に弾かなくても」と思う。
最後の2曲である「11月 トロイカ」と「12月 クリスマス」が良い出来だった。磨き抜かれた美音とテンポ設定がこの2曲には合っていた。


後半は、ダン・タイ・ソンの十八番であるショパン。バラード全4曲。立派なショパンであるが、聴いているうちにどうも妙な気分になる。ショパンにしては立派すぎるのだ。ショパンというと甘美な旋律とその裏にひそむ毒の絶妙なバランスが魅力の一つなのだが、ダン・タイ・ソンはそういうものには目もくれず、とにかく立派で偉大なショパンを目指している。ダン・タイ・ソンという人は生真面目なのだろう。しかし真面目過ぎると芸術もあまり面白くなくなる。日曜日に聴いたシプリアン・カツァリスも、先々週聴いたファジル・サイも遊び心と余裕があるから魅力的なのだ。

アンコールもショパンを演奏する。マズルカ作品24-1、と前奏曲第24番。クッキリとしたショパンであったが、やはりもっと余裕が欲しくなる。
ベートーヴェンを弾くならダン・タイ・ソンのスタイルは合っているが、ショパンはどうだろう。余りに真面目で潔癖だと、ショパンの、時に仄暗い情念をあぶり出すことは出来ないようにも思うのだが。

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