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2021年2月10日 (水)

コンサートの記(693) 長岡京室内アンサンブルコンサートツアー2021「空に飛びたくて」京都公演

2021年2月6日 長岡京市の京都府長岡京記念文化会館にて

午後3時から、京都府長岡京記念文化会館で、長岡京室内アンサンブルのコンサートツアー「空に飛びたくて」京都公演を聴く。京都府、名古屋市、東京都の3カ所ツアーとなる予定だったが、東京公演は中止となっている。

曲目は、J・B・シュヴァリエ・サン=ジョルジュのシンフォニー・コンチェルタント(ヴァイオリン独奏:ヤンネ舘野&松川暉)、ウェーバーのクラリネット五重奏変ロ長調(弦楽合奏版。クラリネット独奏:吉田誠)、チャイコフスキーの弦楽セレナード。

音楽監督の森悠子が、「一緒に弾きたいと思う人」を集めて公演を行う長岡京室内アンサンブル。コアメンバーもいるが、新しい奏者もどんどん加わっている。今回参加する伝宝菜摘(でんぽう・なつみ)は、立命館宇治高校在学中ということでまだ十代である。

今回の出演者は、ヤンネ舘野(ヴァイオリン)、松川暉(まつかわ・ひかる。ヴァイオリン)、谷本華子(ヴァイオリン)、石上真由子(ヴァイオリン)、田中祐子(ヴァイオリン)、伝宝菜摘(ヴァイオリン)、細川泉(女性。ヴィオラ)、野澤匠(ヴィオラ)、南條聖子(なんじょう・しょうこ。ヴィオラ)、金子鈴太郎(かねこ・りんたろう。チェロ)、諸岡拓見(チェロ)、石川徹(コントラバス)。

客席は、前後左右1席空けのソーシャルディスタンスシフトである。

ジョゼフ・ブローニュ・シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュ(1739-1799)は、初めて名前を聞く作曲家だが、フランス人の父親と黒人奴隷だった母親の間に生まれたハーフで、最初はフェンシングの選手として活躍したという異色の経歴を持つ人だという。1769年に「ガヴォット」で知られるゴセック(「五節句」と誤変換された)が率いるコンセール・デザマトゥールのヴァイオリニストとなり、その後、ゴセックから楽団長を受け継いで、フランス屈指のアンサンブルに育て上げたとされる。作曲もゴセックに師事したらしいのだがよくは分かっていないようだ。
シンフォニー・コンチェルタント(協奏交響曲)は、モーツァルトの作品が有名であるが、フランスで好まれた形式だそうで、モーツァルトもパリ旅行時に興味を示し、作曲するに至ったとされている。ただ、森悠子は、サン=ジョルジュがパリに旅行した時のモーツァルトの演奏活動に触れており、触発されてシンフォニー・コンチェルタントを書いたと語り、逆のようである。

今回のプログラムは、モーツァルトに影響を受けたサン=ジョルジュ、モーツァルトの楽器として知られるクラリネットが独奏を務めるウェーバーのクラリネット五重奏曲(ちなみにモーツァルトの妻であったコンスタンツェ・ウェーバーと作曲家のカール・マリア・フォン・ウェーバーはいとこの関係に当たる)、そしてモーツァルトへの敬愛の念から書かれたチャイコフスキーの弦楽セレナードと、「モーツァルトへの憧れ」という裏主題を持つかのような曲が並んでいる。

サン=ジョルジュのシンフォニー・コンチェルタント。ヴァイオリン独奏者二人の掛け合いが聴き所である。独奏のヤンネ舘野は、著名なピアニストである舘野泉の息子で、日本とフィンランドのハーフ。現在は山形交響楽団の第2ヴァイオリン首席奏者とヘルシンキのラ・テンペスタ室内管弦楽団のコンサートマスター兼音楽監督を兼務。ルーズベルト大学シカゴ芸術大学音楽院在学時代に森悠子に師事している。もう一人の独奏者である松川暉は、東京藝術大学を経て英国ギルドホール音楽院に留学、学部と大学院修士課程を修了。ミラノスカラ座アカデミーオーケストラのコンサートマスターをしていたこともある。室内楽ではトリオアミコラムのメンバーとして活躍している。

典雅な曲調を持つ曲だが、時折、影が差すところがモーツァルトに似ている。2楽章からなる曲であるが、第2楽章の冒頭はアンサンブルは休止で、ソロヴァイオリン二人が掛け合いを繰り返す(カデンツァに当たるのかも知れないが、譜面を見たことがないので断言は出来ず)という、特徴ある音楽となっている。

サン=ジョルジュ作品の演奏終了後、メンバーがいったん退場した後で、森悠子がマイクを持って登場。1年前の2020年2月1日に京都府長岡京記念文化会館で長岡京室内アンサンブルの演奏会を行った時は、満員の盛況で、ロビーも人が溢れていて、「それこそ密密密」だったが、コロナの影響で、その後、ほとんど演奏活動が出来なくなってしまったことを語る。まずコンサートの開催を許可してくれた長岡京市と京都府へのお礼を森は述べる。音楽家はその間、苦境続きで、昨年の11月頃からやっと小規模なサロンやオンラインでの演奏が出来るようになったが、森の活動のもう一つの柱である教育は十全に出来なくなってしまったという。

サン=ジョルジュについてだが、シンフォニー・コンチェルタントは、今日がほぼ世界初演に近いということを明かす。「凄く変わった曲」だが、森がパイヤール室内管弦楽団に所属していた時代に、音楽監督であるジャン=フランソワ・パイヤールがヴェルサイユ宮殿でこの曲の楽譜を見つけ、「この曲、日本で演奏してよ」と森に渡したそうだが、そのこと自体をずっと忘れてしまっており、この間、整理をしていたらシンフォニー・コンチェルタントの楽譜が出てきたそうで、演奏することにしたそうである。ヴェルサイユ宮殿にはオペレッタを中心とした多くの楽譜が眠っているそうで、演奏されたことがあるのかどうかも分からない曲がまだ沢山あるらしい。
サン=ジョルジュは、王室と深い関係にあり、ヴェルサイユやパリで行われた神童時代のモーツァルトの自作自演にも接することが出来たようだ。だが、王室と深い関係を有したが故にフランス革命後に没落し、貧困のうちに亡くなった。ちなみに「黒いモーツァルト」と呼ばれることもあるようだ。
なお、森は「事故っちゃって」足を痛めたそうで、続く2曲には出演しないが、アンコールには登場すると、予めアンコール演奏があることを告げていた。アンコール楽曲も変わった曲だと予告する。

 

ウェーバーのクラリネット五重奏曲変ロ長調。ウェーバーはクラリネットという当時出来たばかりの楽器を気に入っており、3曲のクラリネット協奏曲と、5曲のクラリネットのための室内楽曲を書いている。

クラリネット独奏の吉田誠は、昨年に引き続いての登場。15歳で本格的にクラリネットを始め、22歳からは指揮も小澤征爾らに師事している。東京藝術大学入学後に渡仏、パリ国立高等音楽院とスイスのジュネーヴ国立音楽院で学んでいる。
甘く軽やかかつリズミカルなクラリネットであり、ツアーのタイトルである「空に飛びたくて」に最もよく合う演奏となった。
ちなみに第4楽章の冒頭は、弦楽アンサンブルで聴くと、グリーグの「ホルベアの時代から」の第1曲に少し似ている。

曲の間に、再び森がマイクを手に登場。自身はフランスで演奏家としてキャリアを築いたが、渡仏したのは桐朋学園大学在学中に小澤征爾から「フランス行ってきてよ」と頼まれたことが発端だそうである。フランス音楽の弦楽器演奏はボウイングがドイツなどとは異なるそうで、それを学んで日本でも広めて欲しいということだったそうだ。

チャイコフスキーの弦楽セレナード。CMなどでも用いられて有名になった曲だが、室内アンサンブルでの演奏で聴くと、弦楽オーケストラによるそれとは違った印象を受ける。迫力が後退した分、優しさが増し、木々の葉擦れや、森に生息する小動物の姿、広々としたロシアの荒野などが目に浮かぶような描写力の高い典雅な音楽となる。伸びやかなメロディーの中で憂いが忍び込んでくるのがいかにもチャイコフスキーらしい。

チャイコフスキーがこの曲を書いたのは、交響曲第4番を書き上げた後のスランプ時代。精神が安定せず、ヨーロッパ各地を転々としていた頃のことだ。この頃、チャイコフスキーは最も敬愛する作曲家であるモーツァルトの精神に立ち返る形で弦楽セレナードや管弦楽のための組曲集を作曲、組曲第4番はモーツァルトの楽曲を元にしており、「モーツァルティアーナ」というタイトルが付けられている。

 

アンコール演奏は、ボッケリーニの「マドリッドの夜警隊」。非常にユニークな音楽で、チェロのピッチカートで始まるのだが、その後、チェロ奏者は脚を組んでチェロの胴体をその上に乗せ、ギターを弾くようにチェロをつま弾く場面もある。各楽器を代表して一人で行われるピッチカートの送り方も個性的であり、最後はチェロ奏者が立ち上がってチェロを弾き、そのまま足踏みを始め、下手へと歩き始める。他の楽団員もそれに続き、行列が下手袖へと退場するが、コントラバスの石川徹だけは楽器を持って退場することは物理的に不可能なのでステージ上で演奏を続け、曲が終わると同時に敬礼をして、客席からの拍手を受けていた。

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