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2021年3月 4日 (木)

NHKオンデマンド プレミアムシアター バイロイト音楽祭2018 クリスティアン・ティーレマン指揮 歌劇「ローエングリン」

2011年3月2日

NHKオンデマンドで、2018年のバイロイト音楽祭でのワーグナーの歌劇「ローエングリン」を観る。7月25日、バイロイト祝祭劇場での上演と収録である。BSプレミアムシアターで放送されたものだが、NHKオンデマンドでも観ることが出来る。同一内容と思われるBlu-rayとDVDも出ているが、日本語字幕は付いていないため、ドイツ語やその他の主要外国語が分からない場合は、ディスクではなく配信で観るかプレミアムシアターを録画していたならそれで観るしかない。

クリスティアン・ティーレマン指揮バイロイト祝祭管弦楽団の演奏。演出はユーヴァル・シャロン。シャロンは、「ローエングリン」をドイツ建国神話の一部ではなく、中世のフェアリーテイルと捉えており(本当かどうかは不明)、そのため、出演者は昆虫の羽根を付けている。一部、効果的な場面もあるが、いらない演出であるようにも思える。以前、プッチーニの歌劇「蝶々夫人」を、蝶々だというので、出演者を昆虫に見立て、それらしい衣装で出演させるという酷い演出をDVDで観たことがあるのだが(ステファノ・モンティの演出)、それを思い出した。

ティーレマンは「ローエングリン」を十八番の一つとしているが、この上演でバイロイトでのワーグナーの歌劇や楽劇全作品の指揮を成し遂げたそうである。押しの強い指揮が持ち味であり、私は苦手なタイプだが、ワーグナー指揮者としてはやはり現役最高峰であると思われる。うねるようなワーグナーの音楽を的確に音にする才能に長けている。

出演は、ゲオルク・ツェッペンフェルト(バス。ドイツ国王ハインリヒ)、ピョートル・ペチャワ(テノール。ローエングリン)、アニヤ・ハルテロス(ソプラノ。エルザ・フォン・ブラバント)、トマシュ・コニェチュニ(バリトン。フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵)、ヴァルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ。オルトルート)、エギルス・シリンス(バリトン。ハインリヒ王の伝令)ほか。

シャロンの演出は、映像や電飾の多様が特徴。セットも発電所を意識したもののようだ。ローエングリンは、雷の剣を持っているのだが、そのためか電気技師の格好をしている。そしてエルザは最後の場面ではレスキュー隊を想起させるオレンジ色の衣装ということで、原子力発電所がモチーフとなっていることが想像される。電気関連であることの分かる演出はその他の場面にも鏤められている。原発への信頼を問う演出であり、脱原発へと舵を切ったドイツらしい演出であるとも言える(ユーヴァル・シャロン自身はアメリカ人である)。勿論、日本も他人事ではない、というよりも張本人のような立場に残念ながら立ってしまっている。そして日本は原発をまだ続ける予定である。

テーマは置くとして(本来は置いてはいけないのだが)、決闘の場面では、吹き替えのキャストが宙乗りになり、中空で闘うなど、外連に富んだ演出が目立つが、どことなく歌舞伎っぽい。そして第3幕には本来ないはずの地震のシーンが加えられている。その直後に、エルザが騎士ローエングリンの正体を知ったことが表情で分かり、騎士は頭を抱える。ラストもドイツの未来を描いたものと思われるが、日本絡みのように見えなくもない。ちなみにエルザもオルトルートも死なない。

「ローエングリン」は、アリアよりも、第1幕への前奏曲と、第3幕への前奏曲が有名で、コンサートでもよくプログラムに載る人気曲目である。また、コンサートでは演奏されることは少ないが、第3幕で演奏される「婚礼の合唱」は、「結婚行進曲」としてメンデルスゾーン作品と共に、ウエディングの定番となっている。

白鳥が重要なモチーフとなっているが(今回の演出では白鳥は具体的な形では出てこない)、白鳥を表す主題は、後に書かれたチャイコフスキーの「白鳥の湖」に用いられたメロディーに酷似しており、チャイコフスキーがワーグナーの白鳥の主題をモチーフとして取り入れたことが想像される。


「ローエングリン」は、現在のベルギーに当たるブラバントのアントワープ(アントウェルペン)を舞台とした歌劇である。聖杯伝説などのドイツの神話を下敷きとしており、ワーグナーの他の歌劇や楽劇などとも関連が深い。
先の大公が亡くなり、その娘であるエルザと息子のジークフリートが行方不明となる。エルザは戻ってくるが、ジークフリートの行方はようとして知れない。ブラバントで名声を得ているフリードリヒが、「継承権を奪うために、エルザがジークフリートを殺したのだ」として告発し、裁判が行われる。エルザは自己弁護は特にせず弟の境遇を嘆き始め、「夢の中で白鳥が曳く小舟に乗った騎士を見た。彼が現れる」という不思議なことを語る。そうこうしているうちに本当に夢の中で見た騎士が白鳥が曳く小舟に乗って現れる(この辺はリアリティがないが、そもそもこれはリアルな物語ではない)。ハンガリーとの戦いにそなえてブラバントにやって来ていたドイツ国王ハインリヒは、両者が決闘を行い、騎士(観客は歌劇のタイトルからその名がローエングリンであることは知っている)が勝てばエルザは無罪、フリードリヒが勝てばエルザが有罪と決める。それが神の御意志であるとする。デンマーク制圧などに貢献した傑出した武人であったフリードリヒだが、謎の騎士の前に完敗。騎士はエルザを妻に迎えることにするが、自身の正体を問うてはならないと全員に誓わせる。だが、魔女のオルトルートの話術に乗せられたエルザは騎士の正体に疑念を抱いて……というストーリーである。今回の演出では、第3幕でそれまで各国が行っていた原発広報の危険性と暴力性を問うシーンが出てくる。

なお、調べてみたところ、2017年から2018年に掛けて、新たな発電方式が話題になったことが確認出来た。あるいは最新の情報を取り入れたラストと見ることも可能であるように思われる。もっとも、ワーグナーとも「ローエングリン」とも直接関係のない演出だけに、カーテンコールで結構な数のブーイングが飛んでいることも確認出来る。

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