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2021年3月 6日 (土)

DVD「ブルーノ・ワルターの芸術」

2008年3月7日

DVD「ブルーノ・ワルターの芸術」(ジェネオン)を観る。1958年、ワルターがバンクーバーの音楽祭に招かれて、バンクーバー・フェスティバル・オーケストラを指揮した際のリハーサル(ブラームスの交響曲第2番の第1楽章と第4楽章)と、カリフォルニア・ビバリーヒルズにあるワルターの自宅でのインタビュー映像が収められている。カナダのCBCの制作。

ユダヤ人であるためヒトラー政権下のドイツからアメリカに亡命したブルーノ・ワルターは、1957年に心臓に不調を感じたため、公式なステージからは引退するが、指揮活動からの完全引退ではなく、静養を多く取ることにはするものの、要請があればいつでも指揮台に立つつもりであった。このDVDのインタビューでもそう答えている。そしてこの直後から、ワルターの演奏を新たに開発されたステレオ録音で残すためにロサンゼルス・フィルのメンバーやハリウッドのミュージシャンを集めた録音用の特別オーケストラ、コロンビア交響楽団との録音活動に入ることになる。

バンクーバー・フェスティバル・オーケストラはかなり特殊な配置をしており、冒頭にワルターが「ホルンはどこだ?」、「トランペットは?」とオーケストラメンバーに尋ねている。ステージ中央に雛段があり(段上は無人。おそらくコーラス用のスペースではないかとライナーノーツには書かれている)、そこにいるはずの管楽器奏者はステージの端にいるのだった。

ブラームスの交響曲第2番第1楽章リハーサル。ワルターは、「エスプレッシーボ(感情豊かに)」、「ピアノ(弱く)」、「シング(歌って)」をオーケストラに何度も求め、「ディミヌエンド(段々弱く)」に注意するよう指摘している。バンクーバー・フェスティバル・オーケストラは臨時編成のオーケストラであるためか、ややぶっきらぼうな傾向があり、ワルターは「ピアノ」を強調する必要があったのだろう。また木管楽器に、より滑らかに演奏するよう求めるシーンも多い。

第4楽章では、ワルターは逆に「フォルテシモ(最も強く)」を強調する。臨時編成のオケが非力なためだろう。

譜面台に譜面がないということはないと思うのだが、ワルターはスコアに目をやることはなく、コンサートマスターに「今はどこだ?」と練習番号を訊いている。ただ、スコアは完全に頭に入っているようで、コンサートマスターが「Gです」と答えると、「ではGの前から」と言ってちゃんとそこから振り始める。

ビバリーヒルズの自宅でのインタビューでは、ワルターは音楽がエンターテインメントであることを否定し、自らも「エンターテイナーではない」としている。ワルターは音楽を崇高なものだとしており、ジャズに対しては音楽を馬鹿にしているように思えると否定的な見解を示している。1958年といえば、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンなどが活躍し、ジャズは黄金期を迎えようとしていた。そうした時流への牽制の意味もあったのだろうか。

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