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2021年3月11日 (木)

観劇感想精選(386) COCOON PRODUCTION2021 「マシーン日記」京都公演

2021年3月5日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて観劇

午後6時30分から、ロームシアター京都メインホールで、COCOON PRODUCTION2021 「マシーン日記」を観る。作:松尾スズキ、演出:大根仁。松尾スズキがBunkamuraシアターコクーンの芸術監督に就任したことを記念して行われる公演で、横山裕(関ジャニ∞)、大倉孝二、森川葵、秋山菜津子による4人芝居である。ジャニーズ、それも関西ジャニーズの関ジャニ∞のメンバーである横山裕の主演ということで、来場者の99%以上は女性である。松尾スズキ作品であり、若い女性が好むような作品ではないと思われるのだが、集客という意味では成功したようである。なお、横山裕が新型コロナに感染したため、数公演が中止になっているが、更に横山がストーカー被害に遭っており、会社員の若い女性が逮捕されたとの報道が今日あった(その後、横山裕のマネージャーへのストーカー行為であったとの報道に変わった)。横山も災難続きのようである。
ジャニーズチケットというものがあるようなのだが、おそらくファンクラブのメンバーであることが必須で、身元はハッキリしているため、そちらでチケットを購入した人は特に何かをする必要はないのだが、それ以外の手段でチケットを購入した人は、半券の裏に氏名と電話番号を記入する必要がある。

「マシーン日記」は1996年の初演。戯曲も発売されているが、再演の度に松尾スズキが筆を加えており、今回のバージョンも発売となっている。松尾スズキの戯曲は基本的に私小説的な要素が強いと思われ、「マシーン日記」の他にも「ふくすけ」などでもいじめと復讐が描かれていたり、ミュージカル「キレイ」でも監禁されるという設定が登場する。松尾スズキ本人は子どもの頃は体育の授業はずっと見学だったというほどの虚弱児童で、大学は芸術学部に入るも、周囲に比べて画才がないことで落ち込み(ただそのことが本格的に演劇を始めるきっかけになる)、大学卒業後に就職したデザイン会社でも、正社員でありながら学生アルバイトに負けてしまうほど仕事が出来ないということで、かなりのコンプレックスを抱いていたようである。監禁された人々は、体が弱く劣等感の塊だった時代の松尾スズキ本人の姿が投影されていると解釈した方が分かりやすいように思う。

演出の大根仁は、ドラマ好きにはよく知られている人で、堤幸彦のオフィスクレッシェンド所属。堤幸彦が見出した才能で、「TRICK」シリーズでいくつかの演出を手掛けたほか、大河ドラマ「いだてん」にも演出として参加している。
映像出身ということで、「マシーン日記」でも映像を多用しているが、ベルトコンベアの動きを映像で出したこと以外は、大きな効果は上げられなかったように思う。

 

通常ならオーケストラピットとして使用出来るスペースに舞台を置き、本来のステージ上に客席を設け、更にオーケストラピット上の舞台を左右から挟む形での舞台上客席も設置されていて、舞台を4面から見る客席配置となっている。今日は私は通常の客席であったが、1階の左側サイド席(バルコニー席)である。バルコニー席の最後列にあるハイチェア席と4階席は未使用での上演となった。

 

小さな町工場である、ツジヨシ兄弟電業(舞台上方に会社名を書いた木製の看板が下がっている)が舞台であり、そこから一歩も出ることなく物語が進むという一杯飾りの作品である。中央に多角形(一見すると円形に見えるがそうではない)の回り舞台があり、周囲を途切れ途切れではあるが、ロープ状のものが囲っていて、プロレスのリングのように見えなくもない。秋山菜津子演じるケイコは、髪型といいメイクといい服装といい女子プロレスの悪役のような格好をしている。客席の配置から言ってもプロレスが意識されていることは明らかである。この回り舞台の中で様々な異種格闘技が展開される。

「オズの魔法使い」より“Over the Rainbow”が流れて芝居が始まる。この音楽はその後の重要な場面でも流れ、更に「オズの魔法使い」の変種の物語であることも提示される。

ツジヨシ家の次男であるミチオ(横山裕)は、1年前の雨の日、「哀れな女工」を強姦した。そのことでミチオは逮捕され、仮釈放となるも、そのまま兄であるアキトシ(大倉孝二)によってツジヨシ兄弟電業のプレハブ小屋に監禁される。右脚を鎖で繋がれており、プレハブ小屋から出ることが出来ない(ミチオが「俺はプレハブ小屋を繋いでいる」と語る場面があり、冗談ではあるのだが、実際にそのように思える瞬間もある)。だが、ミチオは電気修理に関しては秀でた能力があり、月収3万円でありながら、ツジヨシ兄弟電業の修理の仕事のほぼ全てを手掛けていた。勿論、修理の仕事が好きだったというのが主な理由だが、その他にも理由があった。ミチオは子どもの頃からいじめられっ子であり、かつて自分をいじめた人々から受けた電気修理の過程で盗聴器を忍び込ませて盗聴を繰り返し、彼らが不幸になっていくのを楽しんでいた
ミチオが強姦した「哀れな女工」であるサチコ(森川葵)は、ミチオの兄であるアキトシと結婚した。弟のしでかしたことは兄が責任を取るということで結婚したのだが、その理屈にサチコもミチオも納得していない。ただミチオはサチコを受け入れておらず、ある意味、サチコがアキトシと結婚したことに安堵しているようでもある。なお、アキトシも以前に事件を起こしたことがあり、その影響でミチオの就職が取り消しになっている。だがその後、就職先でもかつてのいじめっ子に会ったという話をミチオはしているため、家業以外での地元での就職をおそらく短期間ではあるが経験していることが分かる。ケイコから、街を出るという選択はなかったのかと聞かれたミチオであるが、そのことについては考えたことがなかったようである。アキトシやサチコ同様、ミチオも「ここ」以外の場所での生活に怖れを抱いているようにも見え、また実際は「ここ」に居続けることを欲しているように思われる。
なお、兄のアキトシは、生まれつき左手の指が6本あるという奇形で、その後も飼っているワニに片方の睾丸を食いちぎられるなど、異形のものとなっていた。更に双極性障害(暴力癖が見られるため、重度のⅠ型であると思われる。双極性障害Ⅰ型の場合は入院が必要になるケースも多い)を患っており、心身ともに他者と違うことで暴走に歯止めが利かない。事実上、「ここ」以外の場所には行けない人間である。
アキトシは事件を起こした後、父親によってやはりプレハブ小屋に監禁されたことがあったそうだが、父親の話が出てくるのはここだけで、母親は「アキトシが夜中に母親の名を呼ぶTikTokをやっている」という話にしか出てこない。家族の存在は希薄で、それ故にアキトシは家族にこだわっていることが見て取れる。

ツジヨシ兄弟電業に新たなパートが入ることになる。ツジヨシ兄弟電業初の大卒社員となるケイコだ。ケイコは元中学校の教師で、サチコの恩師でもあった。サチコは中卒のようで、そのことをアキトシから見下されており、度々DVを受けていたが、彼女もミチオ同様、ツジヨシ兄弟電業から出ることが出来ないでいる。ケイコは、サチコのことをMであり、SMが好きなのだと断言する。
ケイコは、理数系であったが体育教師であり、かつてはオリンピックの日本代表になったこともあるほどの陸上選手だったが、両性具有者であったため(つまり彼女も異形者である)、セックスチェック(性別審査)に引っかかり、出場はならなかった。ケイコは、度々音楽が流れるマイケル・ジャクソン(黒人に生まれながら白人であろうとした)のような矛盾を抱えたアキトシやサチコとは異なり、単純な駄目男であるミチオを気に入り、様々な体位での性交をミチオと試みるようになる。ケイコは、サチコの同級生で、やはりいじめられっ子だったマツザワという生徒と結婚しており、単純な駄目男を受け入れることが好きなようである。ただそのことでサチコの夢を二度、いや三度も奪うことになる。
ケイコはミチオのセックスマシーンになることを決め、ミチオもケイコを3号機と名付ける。情を交わした3番目の女という意味で、1号機は中年の女性、2号機はサチコだった。
やがてミチオとの間の子を宿したケイコはミチオをトラウマから強引に解放するためのマシーンとして暴走を始めて行く。

 

大倉孝二と秋山菜津子というキャリア豊かな舞台出身の俳優の中にあって、横山裕は大健闘。ジャニーズは厳しいと言われているが、そのため演技をストイックに磨き抜くタイプが多く、横山もそれに入ると思われる。ダンスシーンも用意されているが、やはり横山のキレがダントツであり、これだけでも観客を魅了するのに十分であった。

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