これまでに観た映画より(254) 「レンブラントは誰の手に」
2021年4月3日 京都シネマにて
京都シネマで、ドキュメンタリー映画「レンブラントは誰の手に」(原題:「マイ・レンブラント」)を観る。ウケ・ホーヘンダイク監督作品。
オランダを代表する絵画の巨匠、レンブラント(1606-1669)。世界中にファンを持つ有名画家だが、彼が残した作品に対するそれぞれのスタンスを持った人物達の姿が、皮肉を交えて描かれる。
最も好意的に描かれているのは、スコットランドのバックルー公爵で、映画の最初とラストに彼が登場する。所蔵するレンブラントの「読書する老女」に心底惚れ抜いており、売る気など全くなく、毎日のように眺めては悦に入っているという正真正銘のレンブラント好きである。
他の登場人物はバックルー公爵に対比される役割となっており、俗物っぽく描かれているが、これはホーヘンダイク監督の切り取り方に由来する部分も多いと思われる。
画商のヤン・シックス11世(貴族の家系)は、競売の場で、「これはレンブラントの真作ではないか」と思われる作品の存在に気づき、作品を手に入れる。それまで周りから画商としての確かな評価を得られてこなかったものの、彼の目は確かで、全くといっていいほど注目されていなかったその作品がレンブラントの真作であると断定され、一躍時の人となるのだが、競売の際に「共同購入という形にしたい」と申し出ていた友人の画商を出し抜く形になったために訴えられ、更にレンブラントの作品かどうかを鑑定することで交流が芽生えていた大学教授とも絶縁することになる。
富豪のロスチャイルド家が、多額の相続税を払う必要が出たために、所蔵していたレンブラントの作品を、1億6000万ユーロという高値で売りに出すという話も描かれる。手を挙げたのはアムステルダム国立美術館とパリのルーブル美術館。しかし、1億6000万ユーロは高すぎるため、「共同購入にしよう」とアムステルダム国立美術館が提案。その後、アムステルダム国立美術館はレンブラント作品購入のための寄付を募り、レンブラントの祖国ということもあって、1億4000万ユーロと、あとちょっとで単独購入出来るだけの寄付金が集まる。ルーブル美術館が行っている寄付が完全な空振りとなっていることを知ったアムステルダム国立美術館側に「単独購入しよう」という動きも出るのだが、共同購入を申し込んだのがアムステルダム国立美術館側だったことから、倫理上難しいということになる。更に国家の威信をかけた動きが、背後で動き始めており、ついには「政争」にまで発展する。
「結局は金」という言葉も出てきており、本来のレンブラント作品や芸術の価値とは全く違った基準で起こっている美術界の出来事が描かれている。
だが、これはホーヘンダイク監督の芸術観と取材に基づいた編集がなされており、「芸術の価値は金や名誉とは別」という価値観が正しいとも言い切れないように思われる。少なくとも「紋切り型」という印象は受ける。単に愛好する(アマチュア)だけでなく、見抜いたり動いたりといったプロの働きも芸術には大切なはずである。
とはいえ、死んでから何百年も経つというのに、人々を感動させるのみならず、その作品の価値故に人間関係を破綻にまで導いてしまうレンブラント。天才とはげに怖ろしきものである。
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