観劇感想精選(391) 三宅弘城×吉岡里帆×荒川良々×赤堀雅秋×風間杜夫 M&Oplaysプロデュース「白昼夢」
2021年4月17日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇
午後6時から、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、M&Oplaysプロデュース「白昼夢」を観る。作・演出・出演:赤堀雅秋。出演:三宅弘城、吉岡里帆、荒川良々、風間杜夫。8050問題を題材とした作品である。
客入れの音楽として、星野源の「ドラえもん」やAdoの「うっせぇわ」が繰り返し流れているが、これらはストーリーに少しだけ関係がある。
高橋家の1階を舞台に、夏から翌年の春までの1年が1幕4場、約1時間35分で描かれる。高橋清(風間杜夫)は妻に先立たれ、次男の薫(荒川良々)と二人暮らし。だが、この薫は47歳になる今に至るまで12年間、2階の自室でずっと引きこもりを続けている。引きこもる前もフラフラと過ごしてきたことが会話の端々から分かる。清は薫が引きこもりを続けていることを特に問題とは思っていないようなのだが、長男でサラリーマンの治(三宅弘城)は、薫の引きこもりに終止符を打つべく、「ひだまりの会」という支援団体に援助を求める。
引きこもり支援団体というと、強引に部屋から連れ出し、自分の会社が運営する施設に入れて親から金をふんだくり続けるという悪徳業者が多いことが有名になったが、「ひだまりの会」は「見守る」ことに主眼を置き、強要はしないという姿勢を特徴としている。
「ひだまりの会」の別府(赤堀雅秋)と石井(吉岡里帆)は、高橋家に足繁く通う。
薫はふてぶてしい態度を取り続け、そのスタンスは基本的に変わることはない。ただ、最初のうちは「小学校に押し入って子どもを殺して死刑になりたい」と語っていたが、その後はそうした犯罪や死を意識することは少なくなる。
変わってくのはむしろ、清や治である。若くて可愛い石井のような社員が高橋家を訪れるようになるのは、石井は実は中学校1年生から6年間引きこもりの経験をしており、元当事者の視線で薫に接することが出来るという理由からだが、石井の存在は当然ながら清や治の心を波立たせることになる。治によると清は石井が高橋家に通うようになってから整髪料を使い始めたり、イオンで見栄えの良い服を買い始め(町の商店は皆廃業してしまったようである)たりしているそうである。治は奥さんとの関係が上手くいっていないことがしつこく掛かってくる電話や話の内容から分かるのだが、石井の魅力に参ってしまい、一時、不倫の関係に陥る。そして石井は上司である別府からも結婚を前提とした付き合いを申し込まれている。
連続ドラマ「カルテット」で魔性の女、有朱(ありす)を演じて注目を浴びた吉岡里帆が、今回も男の心を惑わすモテ系ダメ女を演じている。6年間引きこもっていたということからも分かる通り、リストカットを癖に持つなど感情の起伏が激しい性格なのだが、そうしたところも含めて男を魅せる才能となっているのだろう。
ともあれ、当事者(清と薫)が何も求めていないのに、援助をする側が勝手に押しかけて、却って状況を混乱に導くという皮肉な展開になる。
赤堀雅秋の作品は何度か観ているが、基本的には本音を押し殺した人々を描く淡々とした心理劇で、岩松了の後継者的立場にいる。この芝居でも抑えた展開であるだけに、吹き出した本音がより鮮明に映る。
俳優陣はいずれも完成度の高い演技で丁寧なアンサンブルが繰り広げられる。風間杜夫演じる清にはもっとハチャメチャなことをやらせたくなるし、舞台ではヒットを打ったことがなかった吉岡里帆にも今回のような得意技を生かした内野安打ではなく、クリーンヒットを期待したくなるが、それはまた別の機会を待つことにしよう。
全体として悪い作品ではなく、印象的な場面もいくつもあるのだが、ストーリーの提示に留まっているため、食い足りない印象は受ける。設定に必然性が感じられないのもマイナスポイントである。別府や石井のスタンスがはっきりしない(本当に「いる」だけなのか、レンタルお兄さんやお姉さんといった「疑似家族」的なものなのか、ブレを感じてしまう)というのもそうした印象を生む一因となっている。
赤堀雅秋の本はそれほど好きではないので、今回のチケットも購入が遅れたのだが、コロナ禍ということもあって売れ行きは今ひとつだったようで、それでもまあまあ良い席であった。伸び悩み気味の吉岡里帆の演技の確認と、風間杜夫が今回はどう出るかが気になりチケットを取ったのだが、先に書いた通り、「この二人ならもっとやれるな」という印象は受けた。
ただ毎日のように新型コロナ感染者が記録を更新している大阪で、このような一方的なメッセージ性の強すぎない演劇を観るのもそう悪いことではないように感じる。
| 固定リンク | 0
コメント