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2021年4月 6日 (火)

コンサートの記(705) 「岩田達宗道場 Vol.2 オペラハイライトコンサート」@宝塚ベガ・ホール

2021年3月30日 宝塚市立文化施設ベガ・ホールにて

午後6時から、宝塚ベガ・ホールで、「岩田達宗道場 Vol.2 オペラハイライトコンサート」を聴く。

「岩田達宗道場」といわれても何のことか分からない人の方が多いと思われるが、オペラ演出家の岩田達宗(たつじ)とテノール歌手の迎肇聡(むかい・ただとし)が2020年6月に創設した若い演奏家のための鍛錬の場で、リモートにより講義や実技が行われた。有料であるが聴講も可能なので、参加しても良かったのだが、こちらもスケジュールが合わない日の方が多いため、見送っていた。ということで、オペラコンサートも当初は行く予定はなかったのだが、岩田さんが演出する予定の「ラ・ボエーム」の西宮公演と、堺での「愛の妙薬」がいずれもコロナの影響で中止になってしまったため、オペラを聴く予定がポッカリ空いてしまい、また宝塚ベガ・ホールにはまだ行ったことがないため、興味を引かれた。

ただ、今は時差出勤で、今週は早番であるため通常なら早めに終わるが、急な予定が入る可能性も否めないため、予約は入れず、当日券で入ることにする。

阪急清荒神駅の目の前にある宝塚ベガ・ホール(正式名称は「宝塚市立文化施設ベガ・ホール」)は、1980年竣工ということで、なかなか年季が入ったホールなのだが、レンガ造りのように見える(実際はどうなのかわからない)壁面とパイプオルガン、高い格子天井というお洒落な内装が特徴で、今回は舞台セットなしでの演奏であるが、セットなしでも各場面がドラマティックに見えるという利点がある。阪神間ロマンの重要地点であった宝塚市が持つ文化の奥深さを実感させられる施設である。ホール前には、2002年にウィーン市から贈られたというヨハン・シュトラウスⅡ世の像が建ち、最高の出迎えとなっている。

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岩田達宗道場は、岩田達宗の名が入っているが、代表は迎肇聡が務めるという変則的なものであるが、共同代表という形と見て良いと思われる。今回のコンサートも演出とナビゲーターは岩田達宗が担当している。

全席自由であるが、前から4列目までは飛沫対策として使用出来ないようになっており、また歌手達はマウスシールドをしての歌唱となる。演技と衣装付きでの歌唱。伴奏はピアノの掛川歩美が全曲一人で担当する。

歌手は総勢18名が登場するが、コロナによって会うこともままならない状態が続いており、18名全員が顔を合わせるのは今回が初めてだという。出演は、岩田達宗と迎肇聡が共に大阪音楽大学の教員ということもあって、全員が大阪音楽大学の学部や大学院や専攻科で学んだことのある若者達である。中には大阪音楽大学の大学院在学中という人もいる。将来が期待される若手達であるが、すでにコンクールで優秀な成績を上げていたり、関西歌劇団やびわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーとして活躍している人もいる。

 

曲目は、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」、ドニゼッティの歌劇「ランメルモールのルチア」、モーツァルトの歌劇「魔笛」からのハイライトで、いずれ約1時間ほどのハイライト上演、合間に10分の休憩を挟んで合計で3時間以上と長丁場である。

出演者は、東里桜(あずま・りお)、乾彩子、岡田彩菜(あやな)、奥村哲(さとる)、田口絵理、中井百香(ももか)、中村理子(みちこ)、長太優子(なごう・ゆうこ)、難波孝、野尻友美(ともみ)、芳賀健一、福西仁(じん)、森千夏(ちなつ)、安井裕子(ゆうこ)、山村麻依、山本千尋、吉本朱里(あかり)、脇阪法子。女声は安井裕子だけがメゾ・ソプラノで、他は全員ソプラノ。男声は福西仁だけがテノールで、他はバリトンである。

客席も大阪音楽大学の関係者が多く、関西のオペラ好きなら知っている大物歌手も聴きに来ている(もっとも、出演者と師弟関係だったりもする)。

字幕なしでの原語歌唱による上演だが、演奏前に演出兼ナビゲーターの岩田達宗が舞台上であらすじや場面の内容などを、時代背景や自らの解釈を踏まえつつ紹介するため、「なにがなにやら」ということにはならない(といっても、オペラというものを一度も観たことのない人にとっては苦しいと思われるが、そうした人が今回のコンサートにふらりとやって来るとは思えないため、問題はないだろう)。

「魔笛」は、演技は日本語で、歌唱はドイツ語で行われる。今の若い歌手達が第一線で活躍する頃には日本語によるオリジナルオペラが今よりも盛んに上演されている可能性が高いため、若いうちに日本語での演技力も高めておきたいところである。ドイツ語圏には、国立の演劇音楽大学というものがいくつもあって、声楽専攻の人も演劇の実技を受けられたりするようだが、日本の場合は、演劇とクラシック音楽の専攻の両方があるのは、日大藝術学部や大阪芸術大学など数える程度で、他専攻の授業をどれだけ取れるのかも不明である。大阪音楽大学も勿論、オペラ向けの演技指導は行っているが、あくまでオペラ向けの演技である。「魔笛」のセリフと歌唱を聴いても思ったのだが、セリフと歌唱の表現力は必ずしも一致しないようである。

若さとはやはり特権であり、みなパワーがあり、声が瑞々しい。まだまだ怖いもの知らずでいられる時期ということもあり、思いっきりの良い歌唱と演技が見られる。窮地に陥っている音楽界であるが、こうした活きの良い歌手が大勢いるなら、コロナなど恐るるに足らずと思えてくる。とにかく音楽に関しては日本の未来は明るいようである。客席も身内が多いということで温かな空気に満ちており、出演者達の溌剌とした演技と歌唱を支えていた。私自身は大阪音楽大学とは特に関係はないが、良い体験になったと思う。

勿論、若さ全てがプラスに働くというわけではなく、演技も歌唱も未熟な部分があるのは確かで、今日のよう実質的なホームではなく、アウェイになった場合にどこまで通用するのか未知数という不安もある。だが、それを乗り越えていけそうなパワーを彼らから感じた。今日はそのアリアは歌われなかったが、「恐れるな若者よ」と歌いたくなる――ソプラノの曲なので実際には歌えないわけであるが――気分であった。モーツァルトやベートーヴェンも確信していた最高の武器、「音楽」を彼らは手にしているのである。

アンコールとしてモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」よりフィナーレが上演される。音楽をする喜びに溢れた出演者達の顔を見ていると、こちらも自然と笑顔になる。

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