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2021年6月20日 (日)

これまでに観た映画より(264) アルフレッド・ヒッチコック監督作品 「断崖」

2021年6月18日

録画してまだ観ていなかった、BSプレミアムのプレミアムシネマ「断崖」を観る。アルフレッド・ヒッチコック監督作品。このところプレミアムシネマではヒッチコック作品が立て続けに放送されている。

原作:フランシス・アイルズ、音楽:フランツ・ワックスマン。
出演:ケーリー・グラント、ジョーン・フォンテイン、ナイジェル・ブルース、セドリック・ハードウィック、デイム・メイ・ウィッテイ、オリオール・リーほか。アメリカ映画だが、イギリスを舞台としている。全米公開は1941年11月14日ということで、日米開戦が目前に迫っていた。

「断崖」は十代の頃に観ているはずだが、今振り返ると、あの当時は何も分かっていなかったように思う。

影のある二枚目俳優で、ヒッチコック作品の常連であったケーリー・グラントが本領を発揮しているが、世間知らずな田舎の富豪の娘から一人の女性へと自立していくリナを演じたジョーン・フォンテインの演技は更に素晴らしく、1時間40分と短めの映画であるが、冒頭とラストでは全くの別人になっている。ジョーン・フォンテインは、この演技が認められ、第14回アカデミー賞で主演女優賞を獲得している。

物語は、列車のコンパートメントで、リナとジョン・エイスガース(愛称はジョニー。ケーリー・グラント)が出会うことから始まる。色男として新聞にも載るジョニー・エイスガース。リナはたまたまその記事を目にし、ジョニーが映った写真を切り抜き、読んでいた本に挟んだ。ウイットに富んだ会話を行うジョニーにリナは才気を感じる。

再会した二人は瞬く間に恋に落ち、結婚を決める。海外に新婚旅行に出掛け、ジョニーが改装させた新居に落ち着いた二人。だが、ジョニーがとんだ甲斐性なしだと判明する。男前で人当たりが良いので、これまで色々な人がお金を貸してくれたが、ジョニー自身はこれまで一度もまともに働いたことがない。しかも競馬好きで負け続け、多額の借金がある。生活を心配するリナにジョニーは、「君はいつか大金を相続する」と語って、リナをあきれさせる。

とはいえ、ジョニーも働き口について全く考えていなかった訳ではない。いとこが、経営する不動産屋で一緒に働かないかと持ちかけてくれていた。
だが、そこでもジョニーは持ち前の駄目男ぶりを発揮。横領を働いてしまい、解雇に。親族だというので告訴はされなかったが、返済を求められているということをリナは知ってしまう。

ジョニーは親友のビーキー・スウェイト(ナイジェル・ブルース)と共に事業を興す計画を立てる。ウエストサセックス州タングメアの断崖沿いの土地を手に入れ、開発や土地の転売を行おうというのだ。
ジョニーへの失望と信頼の回復を繰り返していたリナだったが、次第に夫が保険金目当ての殺人を企てているのではないかと疑い始める。


ヒッチコック映画のトレードマークの一つとして、「ヒッチコック・シャドー」と呼ばれるものが存在する。長く伸びる影が不穏さを醸し出すのだが、「断崖」ではケーリー・グラントの影が「ヒッチコック・シャドー」として効果的に使われている。

またケーリー・グラント演じるジョニーが、妻のリナのためにミルクを入れたコップをトレイに乗せて暗めの階段を昇るシーンで、ミルクが毒々しく光る。実はこれはミルクを入れたコップに電球を仕込んで光らせるという、ヒッチコック演出の中でも特に有名なものの一つである。ヒッチコックの卓越した発想力が窺われる演出だ。

ワックスマン作曲の音楽が特に前半はずっと流れており、本当の意味でのメロドラマであるが、この映画の主題はずばり「愛」だ。心理サスペンスではあるが、リナはジョニーを、ジョニーはリナを誰よりも愛している。そして世間知らずの田舎の富豪の娘と、見た目が良いだけの馬鹿男が、夫婦として成長していくという人間ドラマでもある。

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