グラインドボーン音楽祭2012 ロビン・ティチアーティ指揮指揮エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団ほか モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」
2021年5月4日
Blu-rayで、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」を観る。2012年のグラインドボーン音楽祭での収録。指揮は、「第二のラトル」といわれたこともある若手のロビン・ティチアーティ。古楽器オーケストラであるエイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団の演奏。演出は、マイケル・グランデージで、彼は舞台を1960年代から70年代のヒッピームーブメントの時代に置き換えており、バルバリーナなどはサイケデリックなファッションに身を包んでいる。
出演は、リディア・トイシャー(スザンナ)、ヴィート・ブリアンテ(フィガロ)、サリー・マシューズ(アルマヴィーヴァ伯爵夫人=ロジーナ)、アウドゥン・イヴェルセン(アルマヴィーヴァ伯爵)、イザベル・レナード(ケルビーノ)、アン・マレー(マルチェッリーナ)、アンドリュー・ショ(バルトロ)ほか。
合唱は、グラインドボーン合唱団。
オーパス・アルテからの発売で、日本語字幕付き(他に英語、フランス語、ドイツ語、韓国語の字幕が付いている)。ナクソス・ジャパンによる輸入販売。
「セビリアの理髪師」では、フィガロと組んでロジーナとの結婚を成功させた才人のアルマヴィーヴァ伯爵であるが、続編である「フィガロの結婚」では、初夜権を復活させて、フィガロの婚約者であるスザンナの貞操を奪おうとする悪漢に変身している。「セビリアの理髪師」と「フィガロの結婚」の間に何があったのかは分からないが、伯爵夫人となったロジーナとの間に、何らかのすれ違いがあった可能性もある。
理髪師というホームレスが多い職業であったフィガロであるが、ロジーナとの結婚を取り持った功により、アルマヴィーヴァ伯爵の召使いに昇進。伯爵邸の一部に部屋を頂き、そこで許嫁のスザンナと共に過ごせるということでウキウキである。だが、スザンナは伯爵の企みに気づいており、スザンナから話を聞いたフィガロもそれを信じざるを得なくなる。そして、アルマヴィーヴァ伯爵の浮気の現場をつかもうという計画を練り、スザンナの身代わりとして小姓のケルビーノを使おうという話になる。
一方、「セビリアの理髪師」では、ロジーナをアルマヴィーヴァ伯爵とフィガロに奪われたバルバロは、年増のマルチェッリーナをフィガロと結婚させ、フィガロとスザンナの仲を裂くことで復讐を図る。マルチェッリーナはフィガロに恋しており、スザンナとどちらがフィガロの結婚相手に相応しいか、鞘当てを始める。
ケルビーノが去ったため、伯爵夫人はスザンナと計略を図り、互いの衣装を入れ替えて、伯爵夫人本人がスザンナに化けて夫の不貞を暴こうとする。しかし、二人の計略をフィガロもケルビーノも知らないため、想定外の狂騒(ラ・フォル・ジュルネ)が起こってしまう。
さて、フィガロとマルチェッリーナとの結婚を認めるか否かの裁判であるが、結婚は有効との判決が出る。だが、予想外の事実が判明して……。
イギリスのシックな建築が基本となった舞台。序曲演奏中も幕は下りておらず、伯爵の使用人達が表の掃除をしたり、ものを運んだりしている。フィガロも使用人頭として甲斐甲斐しく働いている。1960年代から70年代ということで伯爵と伯爵夫人がオープンカーに乗って現れ、フィガロが伯爵夫人をエスコートする。
ロビン・ティチアーティ指揮のエイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団であるが、はち切れんばかりの生命力が印象的である。推進力とアンサンブルの精度も優れている。
20世紀半ばから80年代に掛けて主流だったロマンスタイルの演奏は情緒面の拡大には寄与したが、モーツァルトの音楽が持っている本来の意味での快活さや爆発力が犠牲になっていたのかも知れない。古楽器のオーケストラとその扱いに長けた若い指揮者の演奏によって初演時30歳そこそこだったモーツァルトの若々しさが復活したような印象を受ける。
フィガロを演じるヴィート・ブリアンテは男前で、おそらく女性にモテモテのはずである。なんだかんだで男前は得で、見た目だけで才気ありそうなフィガロに見える。
ボーマルシェの原作は、露骨に貴族階級批判の意図が込められたものだが、ロレンツォ・ダ・ポンテの台本によるモーツァルトの歌劇版は貴族に対する矛先はそれほど鋭いものではなく(それでも貴族批判を感じ取った貴族中心の聴衆には不評で初演は数日のみで打ち切られた。現代の演出は鋭い場面をカットした穏健なものが主流であり、この上演でも端折られている)恋にまつわるドタバタが中心で、それ故に長年に渡ってオペラ史上屈指の人気を博してきたのだと思われる。
若手中心のキャストで、若者のムーブメントが盛んであった1960年代から70年代に舞台を移すことで、若々しさのエネルギーを前面に押し出した上演となっている。
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