クラシカジャパン 佐渡裕指揮トリノ王立劇場管弦楽団ほか モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」2015トリノ王立歌劇場
2021年6月29日
録画してまだ観ていなかった、佐渡裕指揮トリノ王立劇場管弦楽団ほかによるモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」を視聴。2015年にトリノ王立歌劇場で収録された映像である。
このところ、顔も声も疲れた感じで、少し気になる佐渡裕だが、この頃はまだ溌剌としている印象である。
衣装は舞台となっている18世紀当時のものを基調としており、出演者などの動きもその頃の上流階級とその使用人を意識していて、洗練されており、ウイットにも富んでいる。柱を使ったセットも効果的であり、特に第4幕の暗闇の庭のシーンの顔が見えない者同士が動く場面で、「障壁」として上手く用いられている。
出演:ミルコ・パラッツィ(フィガロ。バス)、エカテリーナ・バカノワ(スザンナ。ソプラノ)、ヴィト・プリアンテ(アルマヴィーヴァ伯爵。バス・バリトン)、カルメラ・レミージョ(伯爵夫人=ロジーナ。ソプラノ)、パオラ・ガルディーナ(ケルビーノ。メゾ・ソプラノ)ほか。
女性演出家のエレーナ・バルバリッチは、意図的にかどうかは分からないが、登場人物が女性を貶める内容のアリアを強調しているように見え、当時の女性蔑視を露わにしたいという思いがあったのかも知れない。一方で、「博愛」を打ち出したナンバーはこの公演でもカットされており、モーツァルトやダ・ポンテの意図を汲むという意味では合格点に達してはいないように思われる。ただ出演者をチャーミングに見せる演出は施されており、全体像よりも演技に力を入れるタイプの演出家のようにも見受けられる。
子役を登場させているのも特徴だが、特に深い意味はなく、伯爵邸の賑やかさと多様さを表しているに過ぎないようだ。
アンサンブルキャストをストップモーションにするところなどは映像的である。
今回のケルビーノは成熟した感じで、少年というよりも青年のようであり、第4幕などではやや邪悪な印象も受ける。個人的には女性的で、いたずらな感じのケルビーノが好きである。野田秀樹の演出で、カウンターテナーがケルビーノ役を演じているのを観たことがあるが、やはりケルビーノは男性がやってはいけないと思う。男性がやっているというだけで笑えなくなってしまう。
なお、今回の「フィガロの結婚」では、ケルビーノのアリア「恋とはどんなものでしょう」で伴奏をするのは伯爵夫人で、ギターではなくヴァイオリンをピッチカートで演奏するという趣向となっている。
フィガロを演じるミルコ・パラッツィは、顔がどことなく博多華丸に似ており、親しみが持てた。
佐渡の指揮するトリノ王立劇場管弦楽団は、弦の音色が艶やかであり、爆発力とデリケートさを兼ね備えている。ピット内を映した映像を見ると、弦楽はかなり徹底したノンビブラート奏法を行っており、ピリオドを意識していることがわかる。
| 固定リンク | 0
コメント