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2021年7月12日 (月)

コンサートの記(729) 喜古恵理香指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2021「発見!もっとオーケストラ!!」第1回「オーケストラの1日 大解剖!!」

2021年7月4日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2021「発見!もっとオーケストラ!!」第1回「オーケストラの1日 大解剖!!」を聴く。
指揮は広上淳一の予定であったが、直前になって「都合により」広上の弟子である喜古恵理香(きこ・えりか)に変更になった。

喜古恵理香は群馬県出身。東京の女子御三家の一つとして知られる桜蔭中学校・高等学校を経て、東京音楽大学音楽学部作曲指揮専攻と同大学院指揮研究領域で広上淳一や下野竜也らに師事。在学中に井上道義の指揮講習会にも参加し、優秀賞に選出されて、同講習会主催のリレーコンサートに出演。大学院修了後はオペラなどの副指揮者を務め、京都市ジュニアオーケストラでは広上のアシスタントとして活動している。2017年9月からは、パーヴォ・ヤルヴィの下でNHK交響楽団のアシスタントコンダクターも2年間務めている。

無料パンフレットには、広上淳一からの喜古の推薦文が載せられている。


曲目は、第1部が、ニューマンの「20世紀フォックス」ファンファーレ、ベルリオーズの幻想交響曲より第4楽章“断頭台への行進”リハーサル&本番。第2部が楽器紹介と演奏で、モーツァルトのディヴェルティメントニ長調第1楽章から(弦楽器)、グノーの小交響曲変ロ長調第3楽章から(木管楽器+ホルン)、ジョン・ウィリアムズの「オリンピック・ファンファーレ」から(金管楽器)、チャベスの「トッカータ」から(打楽器)。そしてラストにラヴェルの「ボレロ」が演奏される。


私が大学生だった時代に比べ、東京の音楽大学の勢力図は大きく異なっており、東京芸術大学音楽学部がトップなのは変わらないが、東京音楽大学が急成長を遂げており、今や桐朋学園大学と日本の私立音大最高峰を争うまでになっている。近年は中目黒・代官山にもキャンパスを設けて本部も移転。「お洒落な音大」を前面に打ち出すことで更なる人気上昇が予想される。ほんの十数年ほど前までは東京音楽大学は東京の音大の中でも下位と見なされていたはずだが、変われば変わるものである。


今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。演奏時間が短く、また指揮者が若手ということもあって、今日は管楽器の首席奏者達も全編に出演する。
ナビゲーターはガレッジセール。

まずニューマンの「20世紀フォックス」ファンファーレ。有名な曲だが、全部で9小節しかない。喜古の指揮する京響であるが、「かなりよく鳴る」という印象を受ける。

喜古が退場し、入れ替わりでガレッジセールの二人が登場。昨年のオーケストラ・ディスカバリーでは、接触を避けるためにナビゲーターは舞台後方席(P席、ポディウム席)に立って進行を務めたが、今日はマウスシールドをして舞台上に登場する。京都コンサートホールはクラシック音楽専用ホールであるため、スピーカーは天井に取り付けられたアナウンス用のものしかない。今日は舞台両端に特別にスピーカーが設置されていたが、マウスシールドやマスクをしてのトークであるため、声がこもって聞き取れないところもあった。
ゴリが、「僕ら何度となくオーケストラ・ディスカバリーに出させて貰いましたけど、指揮者がこんな早く退場するの初めて。1分も経ってない」と語る。
その後、ゴリが、「本来指揮するはずだった広上さんが都合により出演出来なくなったとのことですが、実は潜んでるんじゃないですか?」と言って、指揮台のところにしゃがみ、「(身長)これぐらいですもんね」と指揮台の高さを指で測って、川田に「そんな訳あるか!」と突っ込まれる。

今回のオーケストラ・ディスカバリーはいつもと趣向が異なり、2曲目のベルリオーズの幻想交響曲より第4楽章“断頭台への行進”は、公開リハーサルと本番という設定で行われる。公開リハーサルの進行役として、京都市交響楽団パーソナル・マネージャーの森本芙紗慧が登場。今回のリハーサルの段取りと、本番後に20分の休憩があることをオーケストラメンバーに告げる。

その後、喜古が登場して公開リハーサル開始。途中まで流してから、解釈や希望などを述べていく。最初に喜古が「繰り返しありで」と語ったが、ホワイエに展示された「ライブラリアンの仕事」パネルを見ると、“断頭台への行進”で繰り返しがあるのは、ブライトコプフ新版の楽譜によるもので、旧版では繰り返しの指定はない。また練習番号を示しながらの指示を行っていたが、練習番号があるのも新版のみのようである。
幻想交響曲は描写音楽であり、喜古の解釈では、弦楽器が断頭台に向かう青年を、木管が執行を促す側を表しているということで、まずチェロに青年の戦きを増すような弾き方を指示。スフォルツァンドなどもかなり明確に弾かせる。死刑執行を促す側を表すファゴットにはせかすような表情を求める。ちなみにトロンボーンには事前に「ヤジを飛ばす外野役」を求めていたようで、「上手く吹いてくれてありがとうございます」とお礼を述べていた。
トランペットに出てくるスタッカートに関しては、2拍目(2回目と書くべきか)を強調した方がベルリオーズらしい異様さが出るという解釈のようだ。
弦楽器のピッチカートについては、最初のピッチカートは「何か熱いものに触れて手を離した時」のようなハッとした表情で、それ以降はまた感じを変えて行う。
聴き所の一つであるラスト近くのクラリネットソロ(青年が殺害した美女の面影を表現)に関してはテンポを気にせず吹き、ギロチンが落ちるタイミングは指揮者とオーケストラの他の楽器が受け持つことにする。

リハーサルを終えて本番。やはり鳴りの良い演奏で、喜古の棒も明晰である。

ガレッジセールの二人は、最前列で聴いていたが(飛沫対策のため、最前列と2列目は発売されていない)、ゴリが「喜古さん、パワフルですね」と言う。初対面の挨拶の時とは大分イメージが異なるようだ。「眉間にしわ寄せたり、陶酔したように」とゴリは喜古の表情を真似して、「指揮者は全ての楽器の音を聴いて責任取ってと大変ですが、最高の席で聴いているということでもありますね」と述べていた。


第2部、楽器紹介。各パートごとに入れ替わっての出演だが、まずは弦楽器の紹介がなされる。出演は、泉原隆志(ヴァイオリン)、小峰航一(ヴィオラ)、山本裕康(チェロ)、黒川冬貴(コントラバス)。

楽器の紹介をした後で、それぞれが楽曲の冒頭を弾く。泉原隆志は、葉加瀬太郎の「情熱大陸」を序奏入りで演奏。ゴリは「(葉加瀬太郎と)髪型が違うだけで、大分かっこよくなるんですね」と語る。泉原は、ロザンがナビゲーターの時には菅ちゃんに「イケメンいじり」をされるのがお約束になっているが、ゴリもイケメンネタに走り始めているようだ。
小峰とチェロ康こと山本裕康はバッハの無伴奏(楽曲名はすぐには浮かばず)を弾き、ゴリも「格好いい!」、「チェロは大地の広がりを感じる」と褒めるが、コントラバスの黒川は、「ぞうさん」を演奏。ゴリが、「俺ら、せっかく今まで褒めてきたのになんでぞうさん?」とぼやく。ちなみに「ぞうさん」の作曲者は團伊玖磨である。
喜古は、コントラバスの運搬について、「棺桶のようなものに入れて」と話すが、ゴリは、「その中に、日産のカルロス・ゴーン会長が入っていたりしないでしょうね?」とボケていた。

モーツァルトのディヴェルティメントニ長調第1楽章より(繰り返しなし)が演奏された後で、ハープが紹介される。喜古は、「オーケストラによっては専属のハープ奏者がいない場合もあるのですが、京響には素晴らしいハープ奏者がいらっしゃいます。松村さん」と言って、松村衣里が紹介される。ゴリにハープの弦の数を聞かれた喜古は、「私は都道府県の数で覚えてます」という。47ということで、赤穂浪士の討ち入り人数で覚えている人もいるかも知れない。弦が50本のハープや弦の少ないハープもあるそうで、ゴリが「薄かったり毛深かったり」と言って、川田に「やめなさい!」と突っ込まれていた。
ハープは腕だけでなく足でもペダルを踏み換えて演奏しているということで、ゴリがお馴染みの「優雅な白鳥も足では一生懸命掻いている」という話をする。ただ、白鳥を観察すると分かる(京都だと六角堂の池にいる白鳥が観察しやすい)が、普通に浮いていて、足で掻くのは方向を変える時だけである。水鳥なのにずっと足を動かさないと浮いていられないというのでは確かに欠陥である。「優雅に見える鳥も水面下では」という例えは、「そうであって欲しい」という願望が含まれているようで、中古や鎌倉時代の日本文学などでは、白鳥ではなく鴨がそうした鳥だと思い込まれていたようである。

木管楽器の紹介。出演は、上野博昭(フルート)、市川智子(ピッコロ)、髙山郁子(オーボエ)、土井恵美(イングリッシュホルン/コールアングレ)、小谷口直子(クラリネット)、中野陽一朗(ファゴット)。現在は金属で出来ている楽器もあり、フルートを見たゴリは、「金管楽器じゃないんですか?」と聞く。喜古は、「昔は木で出来ていた」と説明する。現在のフルートは24金やプラチナで出来ているものも多く、ゴリは客席の方を向いて、「あら奥様どうします? 解かしてネックレスにしちゃいます?」と話していた。

楽器紹介の後で演奏が行われるが、フルートの上野が久石譲の「Summer」を演奏したり、ピッコロの市川が「ミッキーマウス・マーチ」を演奏するなど、その楽器らしくない曲を選ぶ人もいる(小谷口さんが何を吹いたか思い出せない)。オーボエの髙山は「白鳥の湖」、喜古に飛ばされそうになったイングリッシュホルンの土井は「新世界」交響曲第2楽章より「家路」のテーマなど代表的な曲を演奏。ファゴットの中野陽一朗もデュカスの「魔法使いの弟子」の有名な旋律を演奏する。喜古はネット上などで、ファゴットが「トッポ」と呼ばれていることを紹介。お菓子の「トッポ」に見た目が似ているからなのだが、ゴリは、「あの大きさのトッポだと絶対、糖分過多ですね」とボケていた。

グノーの小交響曲第3楽章より。グノーはフランスの作曲家だが、フランス人は管楽器の演奏や管楽器を使った楽曲の作曲に秀でている人が多い。グノーも洒落た作品を書いている。

演奏には加わらなかったが、サックスの紹介。サックスは比較的新しい木管楽器であるため、京響にもサックス奏者は所属しておらず、客演の酒井希がソプラノサックスで「茶色の小瓶」を吹いた。


金管楽器。出演は、水無瀬一成(ホルン)、ハラルド・ナエス(トランペット)、岡本哲(トロンボーン)。テューバは現在、京響には専属奏者がおらず、今日は林裕人と山田悠貴の二人が客演。この時の出演者がどちらなのかは分からない(紹介はされたが記憶出来ず)。

喜古が川田にホルンの管の全長をクイズとして出したり(正解は約3.7m)、ハラルド・ナエスが、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」のトランペットソロを吹いたりと色々あるが、テューバはやはり「ぞうさん」を吹いて、ガレッジセールの二人が崩れ落ちる。

ジョン・ウィリアムズのオリンピック・ファンファーレは、1984年のロス五輪のために書かれたもので、オリンピック・ファンファーレとしては最も有名なものである。京響のブラス陣は輝かしい演奏を披露。

打楽器の演奏の前に、鍵盤楽器ではあるが一応、打楽器にも含まれるということで、チェレスタが紹介される。演奏はお馴染みの佐竹裕介。喜古がチェレスタについて、「チャイコフスキーが『くるみ割り人形』で使った楽器」と紹介したので、「こんぺいとうの踊り」が演奏されるのかと思いきや、佐竹が弾いたのは、(おそらく)京都市営地下鉄の発着音。全員がずっこけるが、「こんぺいとうの踊り」も弾かれた。
打楽器首席の中山航介はティンパニで「ミッキーマウス・マーチ」を演奏。ゴリに「ヤンキーのミッキーマウスみたい」と言われていた。
ここでも喜古は、シンバルの紹介を飛ばしそうになる。

打楽器による演奏、チャベスの「トッカータ」から。この曲は指揮者なしの演奏で、喜古はコンサートマスターの席に座って聴く。

ラストの「ボレロ」の演奏の前に、ステージ・マネージャーの日高成樹が紹介されるが、日高は照れ屋なので、すぐに引っ込んでしまっていた。


ラヴェルの「ボレロ」。おそらく15分前後という一般的な速度での演奏である。京響は各楽器に威力があり、喜古の盛り上げ方も上手い。
演奏終了後に、喜古は各楽器を立たせ、全員を立たせようとしたところで、コンサートマスターの泉原に、「まだまだ!」と制される。「ボレロ」で最も重要な楽器であるスネアドラムを演奏した福山直子を最後に立たせようとして忘れてしまっていたのだ。喜古は福山を立たせた後も何度も頭を下げて謝っていた。ゴリも「今日は喜古さん、よく飛ばしましたね」と言うが、最後にアンコール楽曲が紹介される。ビゼーの「アルルの女」第1組曲よりアダージェット。しっとりとした美演に仕上げていた。

Dsc_1899

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