« コンサートの記(734) 熊倉優指揮 京都市交響楽団 みんなのコンサート2021「世界の川と音楽」 | トップページ | 観劇感想精選(406) NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」 »

2021年8月 1日 (日)

観劇感想精選(405) 「坂東玉三郎 特別舞踊公演」南座七月(令和三年) 「口上」 地唄「雪」 地唄「鐘ヶ岬」

2021年7月24日 京都四條南座にて観劇

午後2時から、京都四條南座で、坂東玉三郎特別舞踊公演7月の回を観る。今日が初日である。

Dsc_2041


まず口上があり、その後に地唄「雪」と「鐘ヶ岬」が上演される。

口上では、「本日はお暑い中、また状況の厳しい中、お足をお運び下さりありがとうございます」と述べ、今年の1月に大阪松竹座で口上を行った時に衣装の紹介をしたところ好評だったというので、今回もそれを行い、いつもより長くなるとの断りがある。舞台後方には上手から下手に向かって、春夏秋冬の景色を描いた金屏風が並んでいる。

玉三郎が初めて南座の舞台に立ったのは、昭和46年12月の顔見世興行においてであったが、50年前ということで今とは勝手が違い、上演時間も長い上に初日は押しに押しまくって、午後11時を過ぎたため、玉三郎が出演するはずだった「京人形」は上演されないまま終わってしまったそうである。
また京都は歌舞伎発祥の地、地唄の発祥の地ということで、南座で地唄を披露するのは今になっても「面映ゆい思いが致します」と語っていた。

紹介される衣装は、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」から乳母・政岡の打ち掛け、「壇浦兜軍記 阿古屋」より遊女・阿古屋の打ち掛けなどである。その他に傾城(遊女)を演じる時に使用した打ち掛けや、静御前を演った時の衣装なども紹介される。

阿古屋の打ち掛けは二代目だそうである。初代の打ち掛けは玉三郎独自のデザインであったが、現在の二代目は六代目中村歌右衛門が阿古屋を演じた時に用いていたものを引き継ぐ意匠となっているそうだ。阿古屋は景清(藤原氏の出身だが平家の武将として活躍)の思い人ということで、平家の家紋である揚羽蝶が描かれている。また、中国では最も華やかな花とされる牡丹が、裾を飾っている。ただ玉三郎は人から、「蝶々は牡丹を嫌う」という話を聞き、実際に牡丹の花を観察したことがあるのだが、本当に蝶々は牡丹を避けるそうである。

男勝りの政岡の打ち掛けは、「伽羅先代萩」が仙台伊達家のお家騒動である伊達騒動に取材した作品ということで、伊達家の家紋にある笹が用いられている。


地唄「雪」。振付:梅津貴昶。三絃・唄:富山清琴、箏:富山清仁。
ゆっくりとした動きと細やかな動きが、移ろう時の速さと儚さを表すが、逆に一瞬一瞬の美が映える。時というものを分解する美術だ。
ここに登場する女性に名はないが、大坂・南地の名妓だったソセキという人がモデルになっているそうで、歌詞にも「そせき」の名がさりげなく入っている。


地唄「鐘ヶ岬」。振付:二世藤間勘祖、舞台美術:山中隆成。三絃・唄:富山清琴、箏:富山清仁。
安珍と清姫を主人公とする「道成寺もの」の一つで、歌詞には鐘は出てこないが、玉三郎の口上によると、「京鹿子娘道成寺」を改作した「九州釣鐘岬」を短縮したものが「鐘ヶ岬」だそうである。
舞台背景は枝垂れ桜。舞台上手寄りに鐘が下がっているという舞台美術である。紙の桜が天井からひらひらを舞い落ちて積もり、清姫は床板の桜を足で散らしながら舞う。清姫は鐘に対する恨みを述べ、前半は安珍が僧侶ということで仏教の言葉が並ぶ。扇をクルクルと回し、衣装が黒から白に変わって後半、日本の有名な遊郭づくしである。
江戸の吉原、京の嶋原、伏見・墨染の撞木町(大石内蔵助が通ったことで有名である)、大坂・四つ橋筋の西にあった新町、奈良の木辻、九州・長崎の丸山と続く。
前半と後半の対比が見事であり、可憐さと同時に女の業と男の罪深さが、抑制されつつも漂う香のように静かに確実に観る者に伝わってくる。

Dsc_2044

| |

« コンサートの記(734) 熊倉優指揮 京都市交響楽団 みんなのコンサート2021「世界の川と音楽」 | トップページ | 観劇感想精選(406) NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コンサートの記(734) 熊倉優指揮 京都市交響楽団 みんなのコンサート2021「世界の川と音楽」 | トップページ | 観劇感想精選(406) NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」 »