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2022年1月18日 (火)

コンサートの記(759) 佐渡裕指揮 オペラde神戸「椿姫」

2022年1月7日 神戸文化ホール大ホールにて

午後6時から、大倉山にある神戸文化ホール大ホールで、オペラde神戸「椿姫」を観る。「佐渡裕と神戸市民で創るオペラ」と銘打たれており、現在は神戸市内の御影に日本における自宅を構える佐渡裕の指揮で、神戸市民によるアマチュアの合唱団などを起用した上演が行われる。

最も人気のあるオペラ演目の一つであるヴェルディの「椿姫」。「オペラは筋書きが簡単」な例として挙げられる作品であり、今回の公演の無料パンフレットにも佐渡裕が、「素晴らしいオペラは大抵ストーリーが単純です」と挨拶文の冒頭に記している。

なお、「椿姫」のオペラの原題は「ラ・トラヴィアータ(La Traviata)」であるが、寅年の年始公演だから選ばれたという訳ではないと思われる。

高級娼婦であるヴィオレッタは、その美貌故にパトロンに恵まれ、教養面でも金銭面でも恵まれていたが、本当の愛を知らなかった。そこに現れたアルフレードという美青年。二人は瞬く間に恋に落ちるが、アルフレードの父親であるジェルモンが息子と高級娼婦との結婚に反対。泣く泣くアルフレードとの別れを決めるヴィオレッタであるが、すでに結核に冒されていた。別れの理由を知らないアルフレードはヴィオレッタをなじるが、彼女が余命いくばくもないと知り、ヴィオレッタの下に駆けつける。ジェルモンも許しを請いに現れるが、ヴィオレッタはそのまま命を落とす。

これが大体のあらすじであるが、よくありそうな話で、特段ドラマティックという訳ではない。ただこれに音楽が加わると、優れた芸術作品となる。理性よりも情に訴えかける作品である。
この時期のヴェルディは、「オペラは歌が主役」と考えており、歌手が歌っている時のオーケストラはシンプルな伴奏に徹している。一方、ドイツではワーグナーが声と管弦楽による一大交響詩として歌劇、更にそれを発展させた楽劇を発表するようになるが、ヴェルディも対抗意識を持ったのか、やはり声と管弦楽による重厚な作風へと転換していくことになる。

原作:アレクサンドル・デュマ=フィス。作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ。佐渡裕指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ)による演奏。演出は井原広樹。プロデューサー:井上和世。
出演は、住吉恵理子(ヴィオレッタ)、西影星二(アルフレード)、油井宏隆(ジェルモン)、平瀬令子(フローラ)、清原邦仁(ガストン男爵)、青木耕平(ドビニー公爵)、下林一也(ドゥフォール男爵)、武久竜也(グランヴィル医師)、岸畑真由子(アンニーナ)、佐藤謙蔵(ジュゼッペ)。合唱はオペラde神戸合唱団。バレエ:貞松・浜田バレエ団。児童合唱:須磨ニュータウン少年少女合唱団。舞台装置:増田寿子。


前奏曲が始まると同時に幕が開き、白い服を着たヴィオレッタの幽霊(貞松・浜田バレエ団のダンサーである武用宜子が演じている)が横たわっているのが見える。周囲には生前のヴィオレッタと親しくしていた人がいるのだが、ヴィオレッタが目覚めても彼女の霊の存在に気付かない。自分が幽霊となってしまったことを悟ったヴィオレッタは孤独感に打ちのめされ、泣き崩れる。ラストシーンの続きを本来の幕開けの前にやる演出は、最近ではよく行われるが、悲劇ということで「死してなお孤独」という救いのないものになっている。

佐渡による音楽作りだが、以前に比べ艶や一種の色気のようなものが強く感じられるようになって来ている。若い頃はとにかく溌剌とした音楽性が売りだった佐渡裕だが、最近、西宮の兵庫県立芸術文化センターのホワイエで流れている映像を見ると顔も声もくたびれた感じで、日本と欧州の往復による疲労が溜まっているようである。ということで躍動感よりも丁寧に音を重ねることを重視しているのかも知れない。
内部が改装された神戸文化ホールは残響がオペラとしても不足がちなところがあったが、音の通りは良く、音楽を楽しむのに不足はない。神戸文化ホールは、1973年竣工ということで、東京・渋谷のNHKホールと同い年。NHKホールは現在、改装工事に入っており、同時期に出来た金沢歌劇座は数年後の閉鎖が決まっている。神戸も2025年を目標に新ホールを三宮地区に完成させる予定で、神戸文化ホールも一応廃止の方向性のようだが、詳しいことは決まっていないようである。

歌手達の水準も高く、タイトルロールということになる(劇中では「椿姫」とも「ラ・トラヴィアータ」とも呼ばれないが、「椿姫」というのが彼女のことであるのは確かである)ヴィオレッタを歌った住吉恵理子の可憐さと儚さは特に良かった。

ヴィオレッタのサロンや、同じく高級娼婦であるフローラのサロンはアイボリー系の色彩による豪華な壁が特徴であり、ヴィオレッタの別荘やヴィオレッタの寝室では真逆のダークトーンのセットが用いられて、対比が鮮やかであるが、ヴィオレッタが別荘の寝室で力尽きる直前に、黒い壁面が上方へと動いてキャットウォークへと消え、華麗な場面で用いられていたアイボリーの壁面が姿を現す。正直、演出意図が良く分からなかったのだが、ヴィオレッタが死の直前の夢の中で見た風景が、かつての華やかな世界だったということなのかも知れない。他の意図は思いつかない。その華やかな景色が、冒頭で示されたヴィオレッタの死後の孤独をより深くするようでもある。

「椿姫」ということで、サロンでの夜会のシーンが大勢の登場人物で彩られていたが、今後、コロナが生み出す状況如何によっては、またしばらくの間、こうした演出は難しくなるかも知れない。


カーテンコールでは、井上和世も着物姿で現れ、喝采を浴びていた。

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