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2022年2月11日 (金)

これまでに観た映画より(279) イ・ジュヨン主演「野球少女」

2022年2月7日

録画してまだ観ていなかった韓国映画「野球少女」を観る。2019年製作の作品。監督:チェ・ユンテ。出演:イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギョ、クァク・ドンヨン、チェ・ヘウンほか。

創部間もない高校野球部で男子に混じって女子ピッチャーとして活躍し、「天才野球少女」としてマスコミにも取り上げられたチュ・スイン(イ・ジュヨン)が主人公である。高校の野球部には基本的には女子は入部出来ないのだが、スインは実力で認めさせてきた。高校の野球部に入れないと思っていた時期を思い出し、「自分の未来は自分ですら分からないのに、他人が自分の未来を分かるはずがない」と語る場面がある。

女性ピッチャーを主人公にした場合、男子よりも速い快速球を放れたり、魔球を操れたり、アンダースローの変則技巧派だったりすることが多いのだが、この作品の主人公であるチュ・スインはオーバースローから130キロ台前半のストレートを投げるという、かなりリアルな設定となっている。モデルになった女子野球選手がいるようだ。

映画はまず字幕で始まる。韓国プロ野球発足時には、医学的に男子でない者は不適格選手として入団を禁じるという規約があったが、この決まりは1996年に撤廃された。だが、今に至るまで、男子に混じってプロ野球で活躍した女子選手は出ていない。NPBも同時期に女子の加入を許可しており、ブルーウェーブ時代のオリックスの入団テストを女性2人が受けたことがあったが、合格には至らなかった。

高校の野球部の面々がドラフトの結果を待っている。女子としては超高校級とされたチュ・スインも朗報を待っていたが、結局指名されたのはスインの幼なじみであるイ・ジョンホ(クァク・ドンヨン)一人だけだった。
高校の日本語教師であるキム先生(韓国の高校には英語の他に第二外国語の授業があり、日本語が一番人気である)が女子野球経験者だったことから、女子のアマチュア野球に進むことを勧められたり、ハンドボールの選手への転向を示唆されたりするが、スインはどうしても韓国プロ野球に進みたい。そこでトライアウトに参加しようとするが、女子という理由で断られてしまう。

新しく高校野球部のコーチに就任したチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)は、「力が劣る」「150キロのストレートを投げられない」と諦めさせようとするが、スインは、「なら150キロの球を投げてやる」とムキになって投球練習を続ける。このままでは故障してしまうということで、ジンテは「速球ではなく、自身の長所を生かしたピッチングスタイルに取り組むよう」に説得する。

スインは、学業面では劣等生。試験も真面目に受ける気はない。ということで、大学に進むという道は端から考えていない(おそらく大学の野球部に女子は入部出来ないのだと思われる)。だが、スインの父親というのが甲斐性なしであり、宅建の試験を受け続けているが、いつまで経っても合格出来ないでいる。
そうしたこともあり、母親はスインに野球を諦めて就職して貰いたいと考えていた。

スインのストレートはスピードこそ男子に劣るが、回転が良く、浮き上がるような軌道を持つ(なぜかジャイロ回転している場面もあるが)。そこで真逆の無回転ナックルを投げることでピッチングに幅を持たせようとジンテは考えていた。最初はストレートでの真っ向勝負にこだわっていたスインであるが、「速い球ではなく、打たれないのが良い球だ」というジンテの助言を受け容れ、ナックルボーラーに向けての特訓を繰り返す。

仁川を本拠地とする韓国プロ野球・SKワイバーンズ(現・SSGランダーズ)のトライアウトを受けることを許されたスインは、同じくトライアウトを受けに来た選手達と対戦。球速が出ていないというので舐めてかかってきた男子選手を打ち取っていく。遂にはワイバーンズの選手とも対戦することになったのだが……。

野球映画というと、前述のようにどうしても劇画タッチになりがちなのだが、その国のアマチュアトップ野球選手にいそうなキャラクターを設定することで、リアリティを生むと同時にヒロインに肩入れしやすい構造を生んでいる。女子としては凄いが男子の野球選手に比べると劣るという歯がゆい設定が、ヒロインの背中を押したくなるような心情に観る者を誘っていくのである。

これはスインの映画であるが、同時にコーチのジンテの物語でもある。ジンテは長年に渡って独立リーグでプレーし、韓国プロ野球入りを目指していたが、夢が叶わぬまま四十路を迎えてしまった。そして高校の野球部のコーチになるのだが、その直前に妻とも離婚している。夢も家庭も失ったが、独立リーグ時代にコーチ業ではないが、後輩の選手に指導することで選手の力量を上げたという実績があった。それがスインの指導にも生きたのだ。
野球のみでなく、社会へと旅立つ青春の時代もきちんと描いた映画であるが、やはりスインとジンテの二人三脚での成長を楽しむべき映画であるように思う。野球映画好きは必見である。

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