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2022年3月15日 (火)

観劇感想精選(431) 第265回「市民狂言会」

2022年3月4日 京都観世会館にて

午後7時から、京都観世会館で、第265回「市民狂言会」を観る。

演目は、「名取川」(出演:茂山千之丞、丸石やすし)、「真奪(しんばい)」(出演:茂山逸平、茂山七五三、茂山宗彦)、小舞「泰山府君」(茂山忠三郎)、「三人夫(さんにんぷ)」(茂山あきら)、「放下僧(ほうかそう)」(茂山茂)、「朝比奈」(出演:茂山千五郎、鈴木実)


「名取川」。現在の宮城県仙台市と名取市を流れる名取川。この川の名に着想を得たと思われる作品である。
シテの出家(茂山千之丞)は、自己紹介をする前に戒壇に関する謡と舞を行う。
陸奥国出身の出家は、これまで私度僧であったが、比叡山に登って戒壇院で戒を授かり、公認の僧となる。陸奥への帰り道、二人の稚児とのやり取りで、「希代坊」という正式な名と「不承坊」という替えの名を名乗ることになった出家であるが、記憶力が人並み外れて悪いことを自覚しているため、衣の袖に二つの名を書き付けて貰った上で、その名を口ずさみながらみちのくへと向かう。途中、名取川という大きな川に出会った出家であるが、「浅い」と見て徒歩での渡河を決意。しかし水深が思いのほかあり、結局ずぶ濡れ。袖に書いた僧侶としての名も消えてしまう。
そこに通りかかった名取の某(丸石やすし)。出家は、「名を奪ったのはこの男だ」と勝手に決めつけ、名取の某を組み伏せるのだが……。

やり取りをしている内に名前を思い出すという趣向であり、最後はほのぼのと終わる。


「真奪(しんばい)」。生花の中心になる花のことを「真」というそうである。
室町時代も中期となり、太平の世となったことを喜ぶ主人(茂山七五三)は、立花(生花)に凝っているのだが、「真」となる良い花がないので、太郎冠者(茂山逸平)と共に東山まで探しに出掛ける。途中、菊の真を持った男(茂山宗彦。「もとひこ」と読む)と出会った二人。太郎冠者がこの菊の真を奪うことに成功するのだが、逆に持っていた太刀を男に奪われてしまう。それに気付かず、主人に真を渡す太郎冠者であったが、主人から太刀を持っていないことを指摘される。
男が真を届けに行く途中と話していたことから、「同じ道を戻ってくる」と考えた太郎冠者は、主人と共に隠れて待つ。果たして男が戻ってきた。主人が男を後ろから捕まえ、太郎冠者に縄を持ってくるよう命じるのだが、太郎冠者は「泥棒を捕らえて縄をなう(泥縄)」のことわざ通りのことを始めてしまい……。

以降は、今年の1月にサンケイホールブリーゼで観た野村萬斎、万作、裕基の「成上がり」と同じ展開となる。違うのは、男が太刀を使って太郎冠者を転がすことと、太郎冠者の物わかりが異様に悪いということである。


小舞「泰山府君」、「三人夫」、「放下僧」
「泰山府君」は短い踊りだが、茂山忠三郎の舞は他の二人に比べるとメリハリに欠ける。
茂山あきらの佇まいと動きの細やかさとそこから生まれる静の迫力、茂山茂のダイナミックさは共に魅力的であった。


「朝比奈」。「あさひな」という読みと「あさいな」という読みがあるようだが、今回は「あさひな」とされている。
鎌倉武士である朝比奈三郎義秀が登場する。庶民を描いた芸能である狂言においては、実在の人物が登場することは比較的珍しい。

そもそも登場するのが閻魔王(鈴木実)と冥界へ向かう途中の朝比奈(読みは「あさいな」である。茂山千五郎)の二人で、共にこの世の人物ではないという、狂言としては珍しい演目である。

この演目も、自己紹介する前に謡や舞がある。囃子方は、杉信太朗(笛)、吉阪一郎(小鼓)、谷口正壽(大鼓)、前川光範(太鼓)。

まず閻魔王が、最近、人間が賢くなってみな極楽に行ってしまい、地獄の商売があがったりになっていると愚痴をこぼす。そこで閻魔自らが六道の辻まで出向き、やって来た霊を罪人として地獄に落としてやろうと企む。
「泣く子も黙る」はずの閻魔が地獄に来る者がいないので困っており、落ちぶれてしまって六道の辻までこちらから出向くというのがまず情けなくて笑える設定となっている。また仕草も情けないものが多い。

やって来たのが折悪しく、剛の者として名高き朝比奈三郎義秀であったことから、閻魔のドタバタが始まる。朝比奈は死に装束をしているが、七つ道具(光背のように見えなくもない)を背負い、堂々たる立ち振る舞いである。橋懸かりにて自己紹介を行う。
朝比奈三郎義秀は、和田義盛の三男。母は巴御前という説があるが、俗説である。
安房国朝夷(あさい)に所領を持ったため、姓を和田から朝比奈に変えたとされる。怪力の持ち主で、鎌倉の代表的な切通しである朝比奈の切通し(鎌倉から横浜市内の金沢八景へと抜ける道)を一夜で開いたという伝説を持つ。
和田合戦では獅子奮迅の働きをするが、結局、和田氏は敗れ、朝比奈は領地のある安房国に逃れたという。以後の消息は不明。ということで、勇猛果敢とはいえ、実は敗軍の武将が閻魔と対峙するという、これまたひねくれた構図となっている。為政者が見た場合、あるいは隠された反権力の意図に気付いたかも知れない。

朝比奈を地獄に導くことに失敗した閻魔は、朝比奈に和田合戦での活躍を語るようせがむ。朝比奈は大倉御所南門の突破、一対三十の力比べに勝ったことなどを朗々と述べる。最後には朝比奈は閻魔を調伏し、極楽への道案内をさせることになる。かなり思い切った逆転の構図である。

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