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2022年3月26日 (土)

コンサートの記(770) 小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVⅢ ヨハン・シュトラウスⅡ世 喜歌劇「こうもり」@ロームシアター京都 2022.3.20

2022年3月20日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて

午後3時から、ロームシアター京都メインホールで、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVⅢ ヨハンシュトラウスⅡ世の喜歌劇「こうもり」を観る。

新型コロナウイルス流行のため、2020、2021と2年連続で公演中止になっていた小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト。昨年はオペラ公演が行えない代わりに宮本文昭指揮によるオーケストラコンサートが東京文化会館大ホールで行われたようだが、オペラ・プロジェクトとしては、また京都での公演は3年ぶりとなる。私は2019年の「カルメン」の公演も風邪を引いて行けなかったので、実に4年ぶりとなった。

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ヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇(オペレッタ)「こうもり」は、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトのロームシアター京都メインホールでの初公演の演目となったものである。私は、ロームシアター京都で聴く初オペラを、ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場の引っ越し公演となるチャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」にしたかったので、小澤征爾音楽塾の公演には足を運ばなかった。ウクライナ危機の影響により、ゲルギエフは西側の音楽界から弾き出される形となっており、今後日本で聴く機会があるのかどうかも不透明である。あるいは「エフゲニー・オネーギン」が最初で最後のゲルギエフ指揮によるオペラ体験となってしまうのかも知れないが、それはそれとして小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトの「こうもり」である。小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトと銘打たれているが、小澤征爾は癌の後遺症、そして高齢であるため、もう指揮台に立つことは出来ない。私が聴きに行けなかった2019年の「カルメン」でも小澤は前奏曲だけを指揮して、後は弟子であるクリスティアン・アルミンクに託しており、もう「小澤征爾の『カルメン』」とは言えない状態であった。
今回は、小澤征爾は音楽監督として教育のみに徹し、全編の指揮はディエゴ・マテウスに委ねられている。

1984年生まれの若手指揮者であるディエゴ・マテウス。ベネズエラの音楽教育制度、エル・システマの出身であり、「第二のドゥダメル」とも呼ばれる逸材である。
エル・システマではヴァイオリンを専攻し、グスターボ・ドゥダメルが組織したシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ(現:シモン・ボリバル交響楽団)ではコンサートマスターを務める。その後に指揮者に転向し、クラウディオ・アバドの推薦によりアバド自身が組織したモーツァルト管弦楽団の首席客演指揮者に抜擢されるなど、若い頃から頭角を現している。フェニーチェ歌劇場首席指揮者、メルボルン交響楽団の首席客演指揮者などを経て、現在は自身の音楽故郷的存在のシモン・ボリバル交響楽団の首席指揮者を務めている。2018年に、小澤征爾と交互にサイトウ・キネン・オーケストラを振り分け、これが小澤との縁になったようだ。以降、セイジ・オザワ松本フェスティバルなどにも参加している。昨年6月にヴェローナでヴェルディの歌劇「アイーダ」を成功させており、また今年7月には、ローマのカラカラ劇場でレナード・バーンスタインの「ミサ」の指揮を行う予定である。

つい最近まで、日本は外国人の入国を基本的に禁止としており、今回の公演は白人メインとなるため、公演が行われるのかどうかも定かでなかったが、なんとか外国人の入国も原則OKとなり、間に合った。

出演は、エリー・ディーン(ロザリンデ)、アドリアン・エレート(ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン)、アナ・クリスティー(アデーレ)、エリオット・マドア(ファルケ博士)、エミリー・フォンズ(オルロフスキー公爵)、ジョン・テシエ(アルフレート)、デール・トラヴィス(フランク)、ジャン=ポール・フーシェクール(ブリント博士)、栗林瑛利子(イーダ)、イッセー尾形(フロッシュ)ほか。演奏は小澤征爾音楽塾オーケストラ、合唱は小澤征爾音楽塾合唱団、バレエは東京シティ・バレエ団。
演出は今回もデイヴィッド・ニースが受け持つ。

アジア各地で行われるオーディションを勝ち抜いた若手によって結成されて来た小澤征爾音楽塾オーケストラであるが、今回はコロナ禍のためアジアでのオーディションが行えず、日本国内のオーディションによって選抜されたメンバーによる編成となった。


上演開始前に、指揮者のディエゴ・マテウスによってメッセージが伝えられる。英語によるスピーチだったため、全ての言葉を理解することは出来なかったが、京都市と姉妹都市であるキエフ市を首都とするウクライナの平和を願うという意味の言葉であったと思われる。


マテウス指揮する小澤征爾音楽塾オーケストラは序曲などでは荒削りなところがあり、楽器によって技術のばらつきがあるように感じられたが、演奏が進むにつれて音も洗練され、音楽をする喜びが伝わってくるようになる。勢い任せのように感じられるところもあるマテウスの音楽作りであるが、生命力豊かであり、この指揮者の確かな才能が確認出来る。

歌手陣も充実。ただ、ロームシアター京都メインホールは、客席の奥行きが余りないということもあって、音がどの席にも伝わりやすく、オペラの音響には最適だが、歌手によっては声が通りにくい場面があったのも確かである。おそらく単なる喉の不調だと思われるのだが。
マテウスはかなり器用な指揮者のようで、そうした場面に瞬時に対応。オーケストラの音を下げていた。

メトロポリタン歌劇場出身のデイヴィッド・ニースは、今回も豪華で色彩感豊かな舞台装置を背景に、こうした折りではあるが人海戦術なども駆使した華麗な演出を展開させる。
第2幕などは、本当に夢の世界へさまよい込んだような心地で、心が中空で躍る。
「こうもり」は即興的な演出が加えられるのが恒例であるが、今回もプッチーニの歌劇「トゥーランドット」より“誰も寝てはならぬ”がお遊び的に加わっていた。復讐される側のガブリエル・フォン・アイゼンシュタインが、モーツァルトの歌劇「魔笛」より夜の女王のアリア“復讐の心は炎と燃え”をハミングするシーンなどもあり、遊び心に溢れている。また要所要所で白人キャストに日本語を語らせるのも効果的であった。

バレエシーンの音楽にはヨハン・シュトラウスⅡ世のポルカ「雷鳴と電光」を採用。日本人はどうしても体格では白人に劣るが、東京シティ・バレエ団のメンバーは迫力もまずまずで、花を添えていた。

フロッシュ役のイッセー尾形も得意とするコミカルな演技で客席の笑いを誘い、オペレッタを聴く楽しみに満ちた幸福な時間が過ぎていった。

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