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2022年3月31日 (木)

コンサートの記(772) 原田慶太楼指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2021(年度)「発見!もっとオーケストラ!!」第4回「オーケストラ・ミーツ・シネマ」

2022年3月27日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2021(年度)「発見!もっとオーケストラ!!」第4回「オーケストラ・ミーツ・シネマ」を聴く。映画で使われたクラシック音楽や映画音楽をフィーチャーした演奏会。指揮は、史上最高の映画音楽作曲家の一人であるジョン・ウィリアムズの弟子にして友人である原田慶太楼。京響の2月定期に出演するはずが、アメリカでの仕事を終えて日本に向かった場合、コロナ待機期間を満たせないという理由で降板した原田慶太楼(ガエタノ・デスピノーサが代役を務めた)。今回のオーケストラ・ディスカバリーには十分間に合った。
1985年に生まれ、高校からアメリカで学び始めた原田慶太楼。吹奏楽の指揮者として知られるフレデリック・フェネルにまず師事。複数の大学で音楽を学んだ後、シンシナティ交響楽団とシンシナティ・ポップス・オーケストラ(主に演奏する曲目が違うだけで両者は同一母体である)などのアソシエイト・コンダクターなどを経て、現在はジョージア州のサヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督として活躍している。「題名のない音楽会」など、メディアへの出演も多く、2021年春からは東京交響楽団の正指揮者に就任し、日本でもポストを得ている。京都市交響楽団とは、ロームシアター京都メインホールで行われた、ジョン・ウィリアムズの楽曲を中心としたコンサートで共演している。今日は全編、ノンタクトでの指揮。


曲目は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはこう語った(かく語りき)」冒頭(オルガン:桑山彩子)、エルガーの行進曲「威風堂々」第1番(合唱:京響コーラス)、ポンキエルリの歌劇「ジョコンダ」から「時の踊り」、ジョン・ウィリアムズの「シンドラーのリスト」からメインテーマ(ヴァイオリン独奏:石田泰尚)、ロジャース&ハマースタインⅡ世の「サウンド・オブ・ミュージック」セレクション、久石譲の「千と千尋の神隠し」から「あの夏へ」(ピアノ独奏:佐竹裕介)、ジョン・ウィリアムズの「ハリー・ポッターと賢者の石」から「ヘドウィグのテーマ」(チェレスタ独奏:佐竹裕介)、「スター・ウォーズ」から「インペリアル・マーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」、「スター・ウォーズ」から「運命の決闘」(合唱:京響コーラス)、シベリウスの交響詩「フィンランディア」

前半は、「2001年宇宙の旅」に使われた「ツァラトゥストラはこう語った」の冒頭、ディズニー映画の「ファンタジア」で使われた「威風堂々」第1番と「時の踊り」というクラシック作品が演奏され、その後は映画のためのオリジナル曲を経て、ロシアの圧政に苦しんでいた時代のフィンランドの音楽である交響詩「フィンランディア」に至るというプログラム。

今日のコンサートマスターは京響特別客演コンサートマスターの「組長」こと石田泰尚。泉原隆志は降り番で、フォアシュピーラーに尾﨑平。今日はヴァイオリン両翼配置での演奏である。
管楽器の首席奏者は前半にほぼフル登場。フルート首席の上野博昭、ホルン首席の垣本昌芳は前半のみの出演となった。

ナビゲーターは、オーケストラ・ディスカバリーではお馴染みとなったロザンの二人が務める。


リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」。ヴァイオリン両翼配置のせいか、原田慶太楼が京都コンサートホールの音響に慣れていないためか、あるいは私が座った席が悪かったのか、もしくはその全てか、いつもに比べて音がモヤモヤしており、直接音が弱めに聞こえる。その後、どんどん音響が良く聞こえるようになったので、私の席や耳の問題か、原田と京響が響きをさりげなく調整したのか、音響に関する不満はなくなっていった。

エルガーの行進曲「威風堂々」第1番では「英国第2の国歌」と言われる部分を京響コーラスが歌うのだが、最初の場面では、オーケストラサウンドに隠れて声が思うように届かず。不織布マスクを付けての歌唱と言うことで、声量が十分出なかったのかも知れない。再度合唱が入る場面では、前回よりは声が通って聞こえた。

ロザンは、菅ちゃんが大の映画好きということで、楽しそうである。宇治原には映画を観ているようなイメージはないが、実際にどうなのかは分からない。

原田が菅ちゃんに、「今日は豪華です」と京響コーラスを紹介するも、菅ちゃんは、「あの背中向けてる人」とパイプオルガン独奏の桑山彩子にまず興味を持ったようだった。
今日も宇治原が楽曲解説などを真面目に行い、菅ちゃんがかき回すというパターンである。

ポンキエルリの歌劇「ジョコンダ」から「時の踊り」はラストで急速な加速を行い、聴衆の興奮をあおる。原田は若いだけあって、キビキビとした指揮姿であり、体中からエネルギーがほとばしる様が見えるかのようだ。


ジョン・ウィリアムズの「シンドラーのリスト」。私もロードショー時に映画館で観た作品である。どぎついシーンもあるということで、全編モノクロームの映画となっている。
ヴァイオリン独奏の石田泰尚に、菅ちゃんが「昔、悪かったでしょう?」と聞くも、原田は、「いや、ナイスガイだと思いますよ」とフォロー(?)していた。
オリジナルはイツァーク・パールマンが、磨き上げられた厚みのある音で歌った美演であったが、石田のヴァイオリンソロはそれに比べると陰影がクッキリしており、良い意味で日本人的感性にフィットする独奏であったと思う。


ロジャース&ハマースタインⅡ世による「サウンド・オブ・ミュージック」セレクション。「サウンド・オブ・ミュージック」もヒットナンバーがずらりと並ぶ名作ミュージカル。反ナチスのプロパガンダ映画という側面があるが、そういう見方をしなくても楽しめる作品である。私は、小学校、中学校、高校で計4回、この映画を見せられている。ということで、見飽きてしまい、自分ではなかなか食指が動かない作品になってしまった。高校1年生の音楽の授業では、「サウンド・オブ・ミュージック」の1場面を演じることになり、私は、トラップ大佐の「ロルフ、君は騙されているんだ」というセリフを日本語で語り、「すべての山に登れ」を同じグループの人と英語詞で合唱した。そんな思い出が今も鮮やかに脳裏に浮かぶ。
映画は積極的に観ることはなかったが、「サウンド・オブ・ミュージック」のCDはテラークから出ていたものを買って何度も聴いている。エリック・カンゼル指揮シンシナティ・ポップス・オーケストラによるものであった。90年代には、ジョン・ウィリアムズ指揮ボストン・ポップス・オーケストラ(こちらはボストン交響楽団の団員のうち、首席奏者を除いたメンバーで構成されており、ボストン交響楽団と同一ではない)とエリック・カンゼル指揮シンシナティ・ポップス・オーケストラが人気を二分していた。

選ばれたのは、「サウンド・オブ・ミュージック」「恋のゆくえは」「ひとりぼっちの羊飼い」「私のお気に入り」「もうすぐ17歳」「さようなら、ごきげんよう」「ド・レ・ミの歌」「エーデルワイス」「ふつうの夫婦」「誰も止められない」「マリア」「すべての山に登れ」。ちなみに「ド・レ・ミの歌」は、各国で翻訳が違い、「ミ」はという話になったところで、客席にいたちびっ子が、「me,for myself」と答えを歌っていた。
編曲者は不明だが、生き生きとした描写力の高い演奏が続く。
演奏終了後、原田はスキップしながら再登場していた。


第2部。久石譲の「千と千尋の神隠し」より「あの夏へ」。久石譲のコンサートでは作曲者自身がアンコール曲として弾くことも多い曲だが、佐竹裕介のピアノもリリカルで、京響の響きも日本のオーケストラらしい弱音の美学を体現していた。


ジョン・ウィリアムズの「ハリー・ポッターと賢者の石」から「ヘドウィグのテーマ」。映画監督からもしくは原作者からという二つの説があるが、「魔法の様な音が欲しい」と言われたジョン・ウィリアムズは、ある楽器を選ぶ。原田が客席に、「ヴァイオリンだと思う人」「ハープだと思う人」と聞いていくが、ジョン・ウィリアムズが選んだのは、チェレスタであった。結構有名な話、というより「ハリポタ」シリーズの映画を観た人は知っている情報である。原田は、チェレスタを独奏する佐竹裕介に、「魔法のような音出して」と言うも、佐竹が奏でたのは、新幹線が目的駅に近づいた時に流れるベルの旋律。その後、原田の求めで、「ヘドウィグのテーマ」の冒頭のチェレスタソロが演奏された。
菅ちゃんが、「魔法っぽいと思った人」と客席に聞くが、続いて「新幹線っぽいなあと思った人」と聞いて宇治原に突っ込まれる。

ジョン・ウィリアムズのアシスタントとして、本番でウィリアムズが指揮する際の前振りなども行っているという原田。自信と確信に溢れた音運びである。

ちなみに、スティーヴン・スピルバーグをゲストに招き、スピルバーグとウィリアムズがトークを行うイベントでも原田は指揮を担い、トークが一段落してからウィリアムズの音楽を奏でるという仕事もしたことがあるそうだ。


ジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」から「インペリアル・マーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」と「運命の決闘」。「運命の決闘」では、合唱を受け持つ京響コーラスが、最後の音で全員が右手を突き出していた。

ここで、菅ちゃんが花束を持って登場。チェロの古川真差男は、このコンサートをもって京都市交響楽団を定年退職するというので、原田から花束が贈られる。古川は、「大学時代から京都市交響楽団で演奏していた」と語る。菅ちゃんが、「どこの大学ですか?」としつこく聞くので、古川は「京都市立芸術大学」と答え、菅ちゃんが宇治原に、「どうですか? 京都市立芸術大学」と聞き、京大芸人の宇治原が「まあまあやね」と答えて菅ちゃんに頭をはたかれる。これがやりたかったらしい。
余談だが、京都市立芸術大学は、音楽学部は一部の専攻を除いてそうでもないが、美術学部は受験科目が他の美大よりも多いため、併願が難しいことで知られている。例えば東京芸術大学と京都市立芸術大学の美術学部を併願しようとなった場合、京都市立芸大の方が東京芸大より入試の試験科目が多いため、本命を京都市立芸大にして勉強しないと少なくとも両方受かるのは難しい。
とまあ、ロザンに乗って受験の話をしてみたが、正直、自分が受けるわけでもないのでどうでもよかったりする。

それよりも重要なのはサプライズがあったということで、原田と京響チェロ奏者達の提案で、古川がプリンシパルの位置で「フィンランディア」を弾くことになる。特別首席チェロ奏者であるチェロ康こと山本裕康と場所を入れ替えての演奏である。

宇治原が、「フィンランディア」が書かれた当時、フィンランドがロシアの圧政に苦しんでいたことを紹介してから演奏スタート。京響は鳴りが実に良い。京響コーラスは、日本語での歌唱(翻訳者不明)で「スオミ(フィンランドで自国と自国民を指す言葉)の平和の里」と、平和へのメッセージを歌い上げた。


アンコール演奏は、「美女と野獣」より。この曲でも京響コーラスは日本語の歌詞を歌った。
なお、今回は、原田が新しい才能にチャンスを与えるプロジェクトを手掛けているということで、山本菜摘による新編曲版での初演となる。ウインドマシーンやレインスティックといった比較的珍しい楽器を取り入れた編曲であった。山本菜摘は会場に駆けつけており、ステージ上から原田に紹介されたが、若くて可愛らしい女性で、作・編曲家らしい雰囲気は纏っておらず、驚いた。

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