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2022年3月29日 (火)

これまでに観た映画より(288) 「焼け跡クロニクル」

2022年3月22日 アップリンク京都にて

新風館の地下にあるアップリンク京都で、ドキュメンタリー映画「焼け跡クロニクル」を観る。監督・撮影・編集:原まおり、原將人。

広末涼子の映画デビュー作である「20世紀ノスタルジア」などの監督を手掛けた、京都在住の映画人である原將人。彼の自宅が、2018年7月27日に全焼するという事件が起こった時に、原將人の奥さんである原まおりがスマホのカメラで捉えた映像などを中心にドキュメンタリー映画として再構成された作品である。

原將人の自宅があったのは、広義でいうと京都の西陣。より正確な住所を書くと、北野や上七軒辺りということなる。原將人自身のナレーションによると最初に出火に気付いたのは原將人のようで、「小さな火だと思ったのですぐ鎮火出来るだろう」と予想するも、思いのほか火の回りが速く、原將人は、新作映画の映像が収められたハードディスクと、その編集用のノートパソコンを取るために、煙の中に飛び込み、顔や腕に火傷を負う。出火原因については、電気コードが古くなっていた可能性が高いことが原將人監督の口から語られているが、結果は不明ということに落ち着いたようである。
風の吹いていない日だったということで、延焼は免れたのが不幸中の幸いで、原夫妻は騒がせたことを周囲の家に謝罪に行ったが、皆、同情してくれたようである。

2018年の夏は、歴史上稀な降雨量を記録しており、気温も高かった。火傷を負ったため救急車で運ばれ、入院することになった原監督であるが、熱中症の患者が多く運ばれていたためか、翌日には退院させられてしまったようである。火傷の処置は長男が手伝ってくれた。
新作の映像は無事であったが、それまでに撮った映画のフィルムや、プライベートを収めた8ミリフィルムは駄目になってしまう。8ミリフィルムのなんとか再生可能な箇所がスクリーンにたびたび映される。家族の思い出がそこには収められていた。

原將人は、親子ほども年の離れたまおり夫人と結婚。奥さんの実家から猛反対されたそうだが、長男が生まれると態度も軟化し、一家を応援してくれるようになったという。原監督は、自身と奥さん、長男と双子の女の子の計5人家族。まおり夫人は当日、仕事に出ており、長男から電話で知らせを受けても、頭が真っ白になって、すぐには実感が生まれなかったようである。帰宅後、全員の無事を確認、とっさにスマホで撮影を行い、これが本編映像として生きることになる。その後もまおり夫人はスマホでの撮影を続行する。スマホによる録画であるが、最近のスマホは性能が良いため、商業作品に耐えるだけのクオリティを持った映像が続く。原將人監督とまおり夫人が、山田洋次、大林宣彦、大島渚等と共に撮影した写真が収められたアルバムは焼け残っていた。

家を失った一家は、公民館に身を寄せるが、数日で退去する必要があり、それまでに知人の紹介により、なんとか家財道具付きのアパートを見つけることが出来た。家が全焼するという災難に遭った一家であるが、前向きに困難を乗り越えていく様が印象的である。原監督とまおり夫人の性格を受け継いだためか、子供達が動揺せずに、淡々と現実に向き合っていることも心強い。

一方で、原將人監督の芸術家としての資質を強く感じさせる場面もある。出火を目にした時に、「火が手を繋いで踊っているように見えた」と原監督は語る。困難に遭遇した時でさえそこに美を見いだす感性。十代の頃から映像を撮り続けている原監督の映画人としての矜持と本質が垣間見える気がした。

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