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2022年3月16日 (水)

観劇感想精選(432) 野村万作・野村萬斎狂言公演『名取川』『止動方角』@びわ湖ホール2022春

2022年3月13日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホールにて

午後5時から、びわ湖ホール中ホールで、野村万作・野村萬斎狂言公演『名取川』『止動方角』を観る。「名取川」は、先日、茂山千五郎家の公演で観たばかりなので、比較が出来る。

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まず高野和憲による解説がある。「カラスと雀が親子という話があります。カラスが『コカー、コカー』と鳴き、雀が『チチ、チチ』と応える。これで笑えないと狂言では笑えません」といった話から、狂言における約束事、更に「名取川」と「止動方角」の内容の紹介を行い、「伝統芸能なので、パンフレットに書かれていること以外は起こりません」と語る。「止動方角」には馬が登場し、歌舞伎と違って一人で演じる必要があるのだが、無理な姿勢を続ける必要があり、更に「止動方角」の上演時間は一般的な狂言の演目よりかなり長く、40分ほどあるため、かなり大変だという話もしていた。
最後に高野は、「今苦しい思いをなさっている方もいらっしゃるかも知れません。今日、狂言を観ても何も変わりません。ただ、狂言に出てくる人は失敗ばかりする。それでもたくましく生きている」ということがメッセージになれば、という意味の話で締めた。


「名取川」。出演は、野村万作(僧)、内藤連(名取の何某)。地謡:野村萬斎、高野和憲、野村裕基。後見:石田幸雄。地謡が3人いるのが、茂山千五郎家(大蔵流)と和泉流の違いである。

大蔵流では、シテの僧が自己紹介をする前に謡と舞を行っていたが、和泉流ではそれはない。
遠国(名取川という地名から奥州出身であることが分かる)出身の僧が、受戒をしないと正式な僧侶と認められないというので、比叡山まで出て、戒を授かった。その後、ある寺の大稚児と小稚児から僧としての名前を付けて貰うことにする。僧は大稚児から「希代坊」、小稚児から替え名である「不肖坊」という名を授かる。大蔵流では名の意味が説明されるのだが、和泉流ではそれはない。僧は記憶力が悪いため、大稚児と小稚児に頼んで、名を袖に墨で書き付けて貰った。それでも思い出せないと困るというので、様々な節を付けて謡いながら進む。そうしている内に、現在の宮城県名取市と仙台市の間を流れる名取川という川に差し掛かった僧は、「水かさが増して濁っているが、徒歩で渡れる」と見て、そのまま川へと入るのだが、中央付近は思いのほか深く、水に飲まれてしまう。流されたものはないかと確認し、ものは紛失していないことが分かって一安心の僧であったが、袖に書き付けて貰った僧侶としての名は流れてしまっていた。僧は、「まだ掬えるかも知れない」となぜか思い、笠で名を掬おうとする。これで地謡が「川づくし」の謡を行い、僧が舞う。野村万作は今年で91歳。流石にキレは失せたが、年齢を考えると驚異的に体が動く。

そこに名取の何某が現れ、「名は掬えず雑魚ばかり」とこぼしている僧を、「殺生を行っている」と勘違いして詰め寄る。訳の分からぬことを述べる僧に、名取の何某は、「希代」「不肖」の独り言を述べて、僧が名を思い出すという趣向である。


「止動方角」。出演は、野村萬斎(太郎冠者)、野村裕基(主)、石田幸雄(伯父)、飯田豪(馬)。後見は内藤連。

京の東山で茶くらべがあるというので、主が太郎冠者に、「伯父のところへ行って、極上の茶と太刀、それに馬を借りてこい」と命じる。主の家にも茶はあるのだが、「まだ封を切っていない」という謎の理由で借りてこいと命じる、ということでかなりの吝嗇家であることが分かる。一人で借りてこいという命令に、野村萬斎演じる太郎冠者は例によって言い方にアレンジを加え、不承不承であることや主に呆れていることを表す。

上手いこと伯父から茶、太刀、馬を借りることに成功した太郎冠者であるが、伯父から、「この馬は後ろで咳をすると暴れ出す」というので、馬を鎮めるための「寂蓮童子、六万菩薩、鎮まり給え、止動方角」という呪文を授かる。

大成功ということで、意気揚々と戻ってきた太郎冠者であるが、主に「遅い!」と叱責され……。

主を馬に乗せ、わざと背後で咳をして落としたり、立場を入れ替えることになったり(主が太郎冠者になり、太郎冠者が主という設定で進める)という太郎冠者のいたずらが見所。無理無体を言う主に対する復讐劇であるが、太郎冠者も意地が悪そうなのがリアルである。

王子系のルックスである野村裕基、立ち振る舞いも凜々しく、メディアへの露出が増えるにつれて狂言界のアイドルとなりそうな予感がある。

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